ご褒美のなでなで
ドリンクを飲んだ二人は、カフェで次に何をするかを話し合っていた。
「昼まではもう少し時間あるな。もう一度海に行くか」
「うん、まだ少し泳ぎたい……そうだ、さっきちょっと潜った時に芸術祭のデザインのアイデアが浮かんだんだよね。水の中とかちょっと見てみたいかも」
「少し離れた場所ならシュノーケリングが有名な場所もあるけどな。ちなみに、ソラはやったことあるか?」
「ない」
シュノーケリングは初心者でも楽しめはするが、最低限息継ぎの練習も必要だし、それだけで時間が埋まるのは勿体ない。
「じゃ、大人しくゴーグルつけて泳ごうぜ」
「ん、持ってきてないから。買ってからいくよ」
「そうだな。じゃあこのグラスを戻して売店に行くか」
カフェを後にして、水着のままで利用できる売店に入りゴーグルを購入。そのまま、浜辺に戻る。
ソラは海の家の周りに設置されている、自由に使用してもよいパラソルの下に入ると、
「そうだ、もう一度塗り直さなきゃ……」
防水ポーチから日焼け止めを取り出し、ラッシュガードを脱いで体に日焼け止めを塗り始める。白と黄色の水着が露わになる。……周囲に緊張が走り、視線が集まるも銀次がそっとソラの壁になる。
「……何か見られてる?」
「そりゃ、そうだろ。塗れたら早めにラッシュガード羽織っとけ」
「ふぇ、う、うん……こういう時って彼氏が塗るとか……ワヒャ」
上目遣いのソラに銀次はデコピンする。
「周りに見られるだろうが……他の奴らに見られたかないだろ……」
「……おぉ」
銀次が、周囲の視線に嫉妬していると自分の恥ずかしさも忘れて嬉しいソラである。
前部分を塗り終えて、ラッシュガードの前を締める。
「これでよし、行こうか」
「だな」
浮き輪を持ち、ゴーグルをつけて海の中を覗く。砂地に混じる貝殻が太陽の光を反射して微かに光っていた。少し泳ぐと、足がつかないほどの水深になり、泳ぎに慣れている銀次が浮き輪の下に潜り込む。鼻をつまんで上をみた銀次が、頬を膨らませ変顔をする。盛大にソラは吹き出した。
「ゴボッ、アハハハハハ、何その顔、ちょ、水飲んじゃったよ銀次」
「油断大敵だな」
「今の不意打ちすぎるでしょ!」
そんなじゃれ合いをしつつ、海を満喫した二人だった。お昼が近づいて来たので、道の駅に戻り着替えの為に一度別れる。ソラはしっかりとシャワーを浴び、髪と肌のケアも行ってワンピースに着替える。昼前なので、海から上がった人が多く、更衣室の外もかなり混んでいた。周囲を見渡すが、人の壁に阻まれて銀次を見つけることができない。
「スマホで連絡してみよっか……って、そうだ、ロッカーだった」
防水ポーチは持っているが、その中にスマホは入れていない。割り切って銀次を探そうと歩き出すが、目の前に大学生くらいの男性が二人立っていた。躱そうとするが、進んだ先に割り込まれる。
「え、えと……」
「あ、すみません。邪魔するつもりは無くて」
人込みを見ることを避けて俯いていた顔を上げると、清潔感のある顔立ちの整った男性たちだった。
申し訳なさそうにしているし、ナンパではないようだとソラは胸を撫でおろす。
「じゃ、じゃあこれで、ロッカー室行くんで」
気持ち大きな声でそう告げる。ソラとしては、日々の朝の挨拶の成果が出たとちょっと誇らしげであった。後で銀次にちゃんと喋れたことを褒めてもらおう。
「あの、良かったら奢るんでご飯とか」
「そうそう、他の女子もいるから人数合わせを探していまして」
いや、ナンパだった。こういうのって、てっきり日焼けして金髪の見るからにチャラい人がするのかと思っていた。と、ちょっとショックを受けるソラだった。断る為の言葉が咄嗟にでないソラを見て、悩んでいると思ったのか男二人は、ややギアを上げる。
「最初、中学生かとも思ったんですけど、良く見たら可愛いだけじゃなくてすごく綺麗で、あぁ、年齢は言わなくていいですよ。連れている女子の所に案内しますね」
「そうそう、なんならご飯の後に、遊びに行ったりとか計画していて」
ソラは俯いて無言になる。周囲の喧噪が気になり始め、気にしていなかった会話を記録し続けてしまう。プチパニックになりそうだったが……一度深く深呼吸をする。
「すぅ……ごめんなさい。彼氏を――」
「すんませんっ! こいつ、俺の彼女なんで」
言葉が重なり、肩に手が置かれた。いつも頭を撫でてくれる大好きな手だった。
横を見ると、息を切らした銀次が目の前の男達を睨みつけてる。その眼力に押されるように、男達は後ずさる。なんなら、はたから見れば銀次の方があきらかにガラが悪いだろう。
「え、あぁ、そうだったんだ。じゃあね」
「ご、ごめんねー」
そそくさと去る。男達を見て、ソラはため息をついて、銀次にもたれかかる。
「緊張した、助けてくれてありがとね銀次」
「……遅れてすまん。人が多くて、ソラの声が聞こえて見つけられたんだ。ちゃんと、自分で断われてたじゃねぇか」
「そりゃ……ボクも成長しているので。でも、嬉しいなー、こういうの、ぶっちゃけちょっと憧れてたり」
グリグリと頭を銀次に擦りつけるソラ。
「俺としては怖いから、注意して欲しいけどな。荷物取りにロッカー行こうぜ」
「うん、でも、その前に。ボク、頑張ったでしょ? だから……ほめれ」
「ったく……よく頑張ったな」
ワシワシと照れ隠しも含まれたやや乱暴な撫で方が嬉しくソラは目を細める。しばらくの間、人の目も気にせず二人はそうしていたのだった。
次回も月曜日更新予定です!!
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