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小腹にサンドイッチ

 ゴトゴトと揺れる電車、夏休みの人通りと通勤の流れが混じり座席は一杯だった。都会のようなすし詰めというほどではないが、銀次とソラは壁際に追いやられる。握った方の反対の手で麦わら帽子を抱いてソラは壁に持たれる。


「ふぅ、わかっちゃいたがやっぱ多いな。大丈夫か?」


 人酔いをしやすいソラを心配する銀次だったが、ソラは銀次の手を握って立ったまま肩に頭を乗せる。


「目閉じてるから大丈夫。銀次のことだけわかればいいから」


「……こけるなよ」


「そこは支えてよ」


 周囲の喧噪すら小さく感じるほどに、二人の胸のドキドキが響く。照れた表情のソラの頭を銀次は撫でる。


「照れるなら言うなよ」


「きょ、今日は()()()、だからいいんだい」


 手を繋いだまま、ソラが足先で銀次の足を突ついた。中心駅につくと、人込みに押されるように外に出て、小走りで乗り換えをする。県北へ向かう便は、二人座り用の座席が並べられており、人もまばらでまだだいぶ空いているようだった。少し走った二人は、外とは別世界のように強めの冷房に息を吐いて席に座った。


「一息ついたな」


「座れてよかったぁ。ここから一時間ほどだね」


「海が近づきゃ込むだろうな」


「じゃあ、今のうち……」


 トランケースを膝に置いてゴソゴソと中からバスケットを取り出す。

 開けると、食パンを四等分にした一口サイズのサンドイッチが入っていた。ツナ、トマトレタス、卵、ハムとパッと見ただけでも様々な種類が彩り豊かに並べられていた。


「朝早かったから、銀次は小腹減るかなぁと思って……サンドイッチ、食べる?」


「マジか、助かる。一応俺も移動時用のおやつは持ってきてたんだぜ」


「何持って来たの?」


 銀次は自分のリュックの前ポケットから得意げに小さな駄菓子を取り出した。


「酢昆布だ。他にも色々お菓子を買ってるぞ」


「アハハ、初めて会った時もくれたよね。一枚ちょうだい」


「おう、夏は酸っぱいのがいいんだよな。サンドイッチ、食ってもいいか」


「もちろんっ! ……食べさせてあげよっか?」


 悪戯を思いついた猫のような表情でソラが言うが。銀次はそのおでこを押し返す。


「他の人もいるだろうが」


「むぅ、人も少ないし大丈夫だって」


「なら俺もだ」


 銀次が反撃とばかりに酢昆布を一枚差し出すと、パクリと勢いよくソラは喰いつく。


「ノータイムかよ」


「ふぁい、ぎんうぃ」


 モグモグしながら、ソラがサンドイッチを差し出す。


「ん……サーモンか……塩っけというか、なんかプチプチして美味いな。なんだこれ?」


 サーモンにオリーブオイルと銀次に馴染みのないプチプチものが口で弾ける。風味が強く、パンで中和してほどよくサーモンの味を引き立てていた。


「ゴクン……サーモンとキャビアだね。結構お気に入りの組み合わせなんだ。塩分補給にもなるよ」


「へぇ、キャビア……キャビア! あの、なんか高そうな奴か。始めて食ったぜ、しょっぱいのか……牡蠣っぽいクリーミーさもある……よくわかんねぇけど旨い」


 唐突な高級食材に困惑する銀次が腕を組んで、味を確かめる。


「えへへ、狙ったわけじゃないけど酢昆布のお返しになったね。銀次の初めての味だ」


「酢昆布の返しにキャビアを出すなよ……びっくりしたぜ」


「伯父さんからよく送られてくるんだよね。一度にたくさん食べられないから、ちょうど良かったんだ」


 普段の言動(主に尽くしたがり)で忘れがちだが、愛華の従姉妹であるソラも十分にお嬢様だったりすることを再認識する銀次だった。そう思ってみて見れば、白のワンピースを着たソラは、どこかの令嬢と言われてもしっくりとくる。初対面が男装姿だったからあんまりそう言ったイメージを持たなかったが、今のソラは見慣れた銀次ですら油断すれば見惚れるほどに可愛らしい少女なのだ。そんな、銀次の心境に気づくことも無く、ソラは真剣な表情で次の一口サンドイッチを選んでいる。


「次は、甘めのマヨコーンでバランスを……どしたの?」


「……ソラが可愛すぎて混乱した」


「このタイミングで!? う、うん。銀次もかっこいいよ。あーん」


 少し困惑するが、すぐに嬉しそうにサンドイッチを差し出してくるソラ。


「美味しい?」


「めちゃくちゃ旨い」

 

 キャビアの後にマヨコーンはどうなんだとも思うが、これが本当に合うのだから料理は奥深い。

 銀次の感想を聞いたソラはたまらないと嬉しそうにパタパタと足を動かす。


「ボクの作ったものを、銀次が美味しそうに食べる姿からしか得られない栄養があるよねっ!」


「何言ってんだ。ほら、そっちも食えよ。酢昆布は後でもいいだろ」


「朝ごはんは食べたし、摘まみ食いもしちゃったんだよね。だから銀次が食べてよ、ボクはこれがいい。次は何が食べたい?」


 そう言って酢昆布を一枚取り出してあむあむと少しずつ食べるソラ。それでいいのかと心配になる銀次だったが、ソラは幸せそうに酢昆布を味わっているのでとりあえず納得し、サンドイッチのおかわりを要求するのだった。

来週は月曜日更新予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] スキがあればイチャイチャコメコメ! 全くもってけしからんですな。 無差別ラブコメ罪で逮捕案件ですよ! 周りの人達の事も少しは••• そう言えばお互いしか見えてなかったですね。 この二人も【…
[一言] これ見ている人がいたら胸焼けしてそう。しかも外回りの仕事とかだったら自分の身の上比べて絶望しそう…。
[良い点] ぐわぁ!食事制限始めたこの身にこの糖度、この美味そうな飯の描写は刺さる…!沈まれ俺の血糖値!!
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