チョーカーよりも強く
差し出されたチョーカーを見て、たらりと冷や汗を掻く銀次。いつもの暴走だと切り捨てようとするも、ソラと目が合う。期待と不安を湛えたヘーゼルアイは潤んで揺れていた。銀次は大きくため息をつき、チョーカーを手に持つ。
「ハァ……着替えてこい。そしたらつけてやるよ」
「本当? わかった!」
立ち上がりドタバタと浴室に戻るソラ。その音を聞きながら銀次は瞼に焼き付いた肌色を振り払い、ソラの瞳に浮かんだ感情について考える。そうしていると、大き目のシャツと短パンの姿で戻り素早い動きで銀次の前に正座する。
「どうぞっ!」
少し伸びた髪をかき上げるように両手を頭に置いて、ソラが白い喉を差し出した。大き目のシャツの脇から下着が見えているのだが気にしてない様子。
「その前に一ついいか?」
「何? あっ、そのチョーカーはスズと一緒に買いものに……」
言い切る前に抱きしめられる。銀次の汗の匂いがして心臓がバクバクと脈打った。
優しくいたわるような抱擁のままソラを引き寄せて少し時間が経つ。エアコンと溶けた氷がグラスを叩く音だけがする室内で銀次が口を開いた。
「……間違えてたら恥ずかしいから黙って聞いとけ。俺はずっと一緒にいるからよ。心配すんな」
「……」
感情が一瞬で溢れて涙になる。『黙って聞いとけ』と言われたから、寂しがりやな少女は口づけを持って自分の口を塞いだ。そうして息が苦しくなったところでソラが顔を離す。
「「ぷはっ」」
お互い、酸欠で真っ赤になった顔を見て笑う。
「暑いな」
「あはは、そうだね。麦茶、おかわり持って来る」
そして持ってきたお茶を一気飲みする二人。
「それで、これどうする?」
銀次がヒラヒラとチョーカーを揺らす。
「……付けては欲しいよね」
指先を合わせてモジモジするソラが横目でチョーカーをみる。
「欲しいのかよっ。さっきのこと思い出すと恥ずかしいんだが……」
ツッコみを入れる銀次にソラがずずいと迫る。
「正直、銀次が言ってくれたこと間違ってない。けど、それはそれ、これはこれなんだよ。言っとくけど愛華ちゃんに首輪つけて欲しいとかボク、思ったことないからね。銀次に付けて欲しいんだ」
「……まっ、付けてやるっていったしな。ほれ、首出せ」
「はーい」
先程までのやり取りはなんだったのかと恥ずかしさで頭を抱えたくなる銀次だったが、ソラは嬉しそうに首を差し出す。慣れない手つきでチョーカーを巻き、金具で止めるとソラは手鏡を持ってきてそれを確認した。
「おぉ、内側が布地だから痛くない……今日はつけたまま過ごしていい?」
「別にいいぞ。あーなんかどっと疲れたな」
その後二人は、夏休みの感想文を書きながら海について話しながら過ごしたのだった。
その夜、自室でチョーカーを外して大事そうに机に置いてそれを眺めていた。
「間違ってないけど、ちょっと違うかなぁ……」
銀次が言ったことは間違いではない。母親に逃げられ、従姉妹には捨てられた。そうして一人で過ごすうち、孤独を望んでいたとうそぶいた自分は『幸せ』が怖いのだ。
いつかこの幸せが手からこぼれてしまうのではないかと怖くて怖くてしょうがないから。ちょっとした形を望んでいた。だけど、銀次は形ではなく少しでも拒否すれば解けそうなあの優しい抱擁で強くソラを繋ぎとめていると感じさせてくれた。不安が消えることは想像ができないけれど、それでも一緒にいれば大丈夫だと信じさせてくれた。
「わかってやってるなら、そうとうなジゴロさんだよね」
チョンとチョーカーを指先で突く。本当にあの男は何度ボクを惚れ直させれば気が済むのか。正直面倒な女だと自分でも思うのだが、銀次はいつも真っ向から受け止めてくれる。
でも一つだけ間違っているのは、伝えたように愛華との繋がりに首輪を求めるなんてことは絶対にないということ、ソラにとってそれは銀次とだけの新しい自分の欲望なのだ。……ちょっと歪な感じがしないでもないが、『癖』とはそういうものだと勝手に納得する。
「真剣に頼んだら答えてくれるカレシって素敵だな~。エヘヘ」
次はどんなことをお願いしてみよう。夏休みは始まったばかりなのだからまだまだいろんなことがあるんだ。丁寧にチョーカーをしまったソラは明日のことを考えながらベッドに倒れ込んですぐに眠りについた。
来週は月曜日更新予定です。そろそろ更新速度を上げたいです。
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