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尽くしたがりのソラ

 時間は放課後に進む。朝のやり取りこそあったものの、四季はいつも通りに学園のアイドルで、ソラは仕事を押し付けられていた。ただし、いつも四季の後ろをついていたソラが今日はその姿がなかった。そのことに気づいたのは、四季の取り巻きとソラを目の敵にする一部の人間だけだった。そして今は、銀次とソラは学生会室横の資料室で作業をしている。


「えと、本当にデザイン以外のことを任せても大丈夫なの?」


「あん? 余裕だ余裕、学生会の仕事だろ? というか四季の奴どうして雑務までお前にやらせてんだよ。学生会でする仕事だろ」


「……はい指示書」


 朝と同じようにIINE越しの指示をがスマフォに表示される。それを受け取り、しばらく読んだ後銀次はため息をついた。


「重症だぜ……」


 書かれている内容はひどく回りくどく婉曲表現を用いた罵倒であり、総括すると以下のようになる。


『昨日折角罰を与えて許してあげたのに、その優しさを無視して得体の知れない男を私の気づかいよりも優先させた罰を用意したから、朝に送った指示に追加してこなしなさい。今週末にパーティーもあるからそっちの予定は後々送ります』


 とのこと。ご丁寧に夜まで残れる許可まで取ってきたと書かれているあたりマジのサイコパスだと銀次はゲンナリした。


「パソコンと印刷機はあるけど……」


「いいから文化祭のメインデザインをやってろ。いけるとこまでやる」


 話しは終わったと意外にも軽快にキーボードを叩き始める銀次にどう反応するかわからず、言われた通りにソラはスケッチブックに向かった。与えられたテーマにそってサラサラと色鉛筆で絵を描いていく。


 二時間後、時間は6時を指していた。ちなみに二人が通う高校では申請をしない場合は部活を含め6時が校内の下校時刻で運動部は7時が最終下校時間となる。

 賽の河原の石積みのような意味のない形ばかりの入力作業を半分ほど終わらせた銀次が伸びをすると横からコーヒーが差し出された。


「どうぞ、ブラックだけど……クリーミーパウダーいる?」


「いやブラックでいい。悪いな……こっちは割と進んだぞ」


「凄いね。まぁまぁ量があったのに」


「パソコン検定二級だからな」


「ブフゥ……似合わないっ!」


 似合わない台詞に吹きだすソラ。一方コーヒーをすする銀次は目を丸くする。


「うっま!」


「愛華ちゃんの権限で良い豆買ってるからね」


「インスタントじゃないのかよ……」


「レギュラーに決まってるじゃん。ブレンドもボクがしてるよ、酸味強めが好きなんだ」


「そんな代物にパウダー勧めるなよ。よくわからんが旨いのはわかる」


「……」


「なんだ?」


 無言でプルプルするソラを訝し気に見る銀次、質問には答えずにソラは部屋を後にしてすぐに戻って来た。


「これ、下の生徒会専用の冷蔵庫に入れてるボクが作ったクリームチーズと市販のクラッカー。食べてみて」


「お前、デザインは?」


「終わった。だから食べて食べて、これ自信作っ!」


「お、おう」


 変なスイッチ入ってんな。とか思いつつ銀次がチーズをのせたクラッカーを口に入れる。

 濃い牛乳の香りとねっとりとしたチーズの食感。そこにコーヒーを入れると苦味と酸味が混じってグッと香りが引き立つ。


「旨い」


 洒落た感想なんぞ言えない銀次だが、表情は多弁であり美味しそうに食べていた。すぐにチーズの量を調整しておかわりをしているあたり相当気に入ったことがわかる。それを見てソラは頬を上気させている。


「なんか……なんか~。やばい、ハマりそう」


「どうした? さっきから変だぞ?」


「生徒会のお茶菓子とかも全部ボクが準備してたんだけど、感想なんてもらわなかったから……銀次に食べてもらうの、すっごいグッとくるんだよ。どうしよう? 初めての感情なんだけど?」


「お前、変な奴だな……」


 流石の銀次もやや引き気味である。


「銀次のせいだから、うぅ、ちゃんと準備したい。完璧にもてなしたい。焙煎から拘りたい。マッサージとかしてあげようか?」


 手をワキワキさせて近づくソラ。本人も知らない謎の性癖が発見された瞬間だった。

 銀次は悪寒を感じ、椅子ごと体を引いて両手を前にだす防御姿勢をとる。


「落ち着け、まぁ、旨いもん食わせてくれるってんなら楽しみにしてるからよ。それよりも、デザインどうなったんだ?」


「ふぇ? まぁ、適当だよ。テーマは『地域交流』で愛華ちゃんが好きなキャッチーな動物メインのキャラクターを入れてこんな感じ、あんまりこったデザインだと他の人が使いづらいからデフォルメ強めで動かしやすいように仕上げたよ」


 スケッチブックに描かれていたのは、アニメ調でいかにも女子が書きましたと言うようなお菓子の森と動物たちの絵だった。表情豊かな動物たちの仕草が愛らしく、多くの人に受け入れられそうだ。二時間でここまでできるもんなのかと銀次は感心する。


「……ちなみに指図無しでソラの思い通りだったらどうなる?」


「ロボがいっぱい出てくる」


「なるほど。顧客のニーズってのは重要だな」


「そうだね」


「脱線した。じゃあ、罰ゲームを終わらせるぞ、残りの量なら二人でやればすぐに終わる」


「うい。こんなことなら、家から色々持って来れば良かった……銀次にいっぱい食べてもらいたい、くつろいでもらいたい……」


「まだ言ってんのか。手を動かせ、手を!」


 結局、元々慣れているソラも作業に参加したことで30分ほどで作業は終了した。

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