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ダメ人間になってしまう。

 宿題をそっちのけで、夏休みの予定について話しているとあっという間に夜になってしまった。


「いい時間だな。そろそろ帰るぜ、合作についてはまた話し合おうぜ。寝る前に考えとくからよ」


「うん。明日でほとんど問題集も終わりそうだしね」


 銀次への『尽くしたがり』の為に途中から着けていたエプロンを外しながらソラは伸びをした。


「……なんか後半からは、常に甘やかされていた気がするぜ」


「これでも抑えてるけど」


「嘘だろ……」


 二人で一階の玄関に行き、扉を開けようとするとそっと横からソラがそれを止める。


「……さよならの、ちう」


 んっ、と顎を上げて目を閉じるソラ。銀次は恥ずかしそう目を右にそらしたが、すぐにソラの頭にを抱き寄せて、額に口づけをした。


「じゃあ、また明日な」


「……これはこれでよき、でも明日は別の場所を所望します」


「善処する」


 ワシワシと頭を撫でて優しいハグの後に銀次が玄関から出て行く。ソラは鼻歌を歌いながら、そのまま一階の作業場に入り、シャツとズボンを脱いでツナギを着る。棚から顔の無いマネキンを取り出して机に置いてスケッチブックを構えた。


「いつか、さよならじゃなくて、行ってらっしゃいって言いたいな。……エヘヘ、ボク、浮かれてる」


 マネキンに光を当ててソラは絵を描き始めた。描き出したのはマネキンではなく銀次である。一日で脳内に溜め込んだ銀次の姿をマネキンに重ねて描いているようだ。一時間ほどで書き終えた絵をめくり、光を調整して別の角度から銀次を書いていく。二回目は手法を変えて浮かび上がるように、三度めは基本から外して少しデフォルメをして描く、四回目、五回目と違う手法を試したり合わせたりして銀次を書いていく。ソラにとってはもっとも捗る練習法であり、蕩けた表情で楽し気に描いていた。そして六時間ほどぶっ続けでソラ式デッサンの練習を終えると、スケッチブックに『〇秘』と書いて棚の一番したの目立たない位置に隠して満足気な表情で頷く。


 そして、ツナギを脱いで下着姿のまま二階へ移動してシャワーを浴びた後は、肌と髪のケアをしながらタブレットの電子書籍でデッサンと油彩の教本を数冊同時に読み込む。30分足らずで頭に入れたそれを脳内で反芻しながら次はキッチンで明日の尽くしたがりの為の料理やお菓子の仕込みをし、すっかり準備を終えると寝る前のケアをしてベッドに入った。


 そして、一日を振り返ってソラはこうつぶやいた。


「好きなことだけしてる気がする……このままではダメ人間になってしまう。でも、折角の夏休みなんだし少しくらいはいいよね。銀次とデート楽しみだなぁ」


 これを、本気で言っているのが髙城 空という少女なのである。

 一方、時は少し遡って銀次宅。


 帰宅した銀次は、哲也が作った大盛りナポリタンを食べた後、家の外に設置されている鉄棒で懸垂をして汗を掻いた後にシャワーを浴びてタオルを乗せながら、部屋でノートを広げて唸っていた。

 その様子をみた哲也が話しかける。


「……筋トレ、頑張っていたみたいだけど。何かあったの?」


「いや、ソラのとこで宿題をやっていたんだが……夏休みに一緒に何か作品を作ろうって話になってな。何かいい考えはないとかと体を動かしてたんだ」


「へぇ、兄貴、絵とか描けるの?」


「全然無理だな。挑戦してもいいが、それだとソラに教わってばかりでいまいち合作という気がしない。別に絵じゃなくてもいいんだがな」


「それなら、あれなんかいいんじゃない?」


 哲也が指さしたのは、アルミニウム製の鉛筆入れだった。歪な形であり、溶接面に跡が残っていた。


「……なるほど」


 銀次はニヤリと笑って、哲也の頭を乱暴に撫でる。


「サンキュなテツ、いいアイデアだぜっ」


「……止めて」


「そうか? いやぁ、流石テツ、そうだ他にも相談していいか?」


 開いていたノートを閉じた、銀次が真剣な表情で哲也を見る。


「いいけど」


「……彼女ってのが可愛すぎる時ってどうすればいいと思う?」


「………………は?」


 一歩下がって本気で困惑する哲也だったが、銀次は真剣なようだ。


「いや、付き合ってから日に日にソラが可愛くなっているような気がして……このままだと、されるがままに可愛すぎるソラに抵抗する理性が無くなりそうなんだ」


 普段無表情を崩さない哲也だったが、この時ばかりは少し引き気味の様子。


「……別にいいんじゃない」


「いや、気を許すとダメ人間にされてしまいそうでな。このままではソラに幸せにされてしまうわけで、俺は二人で幸せに……テツ?」


「……寝る」


 本気でそんなことを言う兄に盛大にため息をつき、付き合ってられんと横になる哲也なのだった。

次回の更新は、多分月曜日です。


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追記:別連載をしている【奴隷に鍛えられる異世界生活】の書籍化が6/20に決定しました。

活動報告で表紙などを紹介していますので、もしよかったら覗いていただければ嬉しいです。

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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[一言] 兄の全力全壊の惚気を聞かされる弟の気持ちと言ったら…まぁ銀次の気持ちはわかるけども。理性を飴細工のように溶かされて駄目人間にされそうな状況に危機感を覚えるのは。だがそれは弟に相談しても解決し…
[良い点]  色々と慄くなw [一言]  テツ君を糖尿病にするのはやめてあげて。
[良い点] 一日を二話か三話にすれば夏休みだけで 百話イケます。 二人共毎日一緒でしょうし好きな事だけ やって毎日過ごしましょう。 どうせ嫌な事は嫌でもやらなきゃ いけませんし。 [気になる点] いじ…
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