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尽くしたがりの夏休み

 夏休み一日目。

 冷房の効いたソラ宅の居間にて二人は頭を付き合わせていた。机の上には夏休みの宿題が広げられている。部屋に飾られた鉄製の風鈴がエアコンの風で涼やかな音を鳴らしていた。


「……」


「……チラッ」


 口で『チラッ』と言ってしまうソラ。銀次がソラを見ると、顎の下に手を当ててニンマリ顔だった。


「なんだよ?」


「ううん、ちょっとね」


「変な奴だな」


 再び問題集に向き直る銀次をソラはジッと見つめている。そして胡坐で座る銀次の足に自分の足先を当てて、ちょっかいをかけた。ひんやりとしたソラの足指がこそばゆい。


「おい」


「何?」


「……ったく」


 構って欲しそうなソラを見て銀次はため息をつき、ペンを置いてソラの横に移動した。

 乱暴に腰を下ろすとソラが待ってましたとすぐに体を寄せてくる。ふわりと柑橘系の香りした。


「そっちが夏休みを楽しむために、さっさと宿題終わらせようって言ったんだろうが」


 ワシワシとソラの頭を撫でて答える銀次。


「ボクはもうほとんど終わってるもん」


 銀次が目線を下げると、確かにソラが描いていた問題集はすでに終わりが見えている。


「さては昨日からやってたな」


「そうだよ、といっても問題集だけだけどね。英語の宿題は目を通しただけだし」


「高校生になってから初めての夏休みの宿題だからどんなもんかわからなかったが、やってみると中学の頃より楽そうだな」


「だよね。朝顔とか育てなくていいし」


「それは小学生だろ。問題集ばかりだから逆にやりやすいな」


「他には小論文や感想文が時間かかりそうだね。だから、問題集を集中しているってわけだ」

 

「……その集中を邪魔するのは誰だよ」


 銀次が問いかけると、ソラは顔を上げて手を組んで伸びをする。


「夏休み一日目だし、誰かと宿題をするなんて……ずっとなかったから。銀次がいてくれて幸せだなぁと思って、つい、イタズラしちゃった」


「別にいいけどよ。一日目から勉強なんて俺にしちゃ上出来なくらいだ」


「あはは、そんな銀次に『尽くしたがり』しなくちゃね」


 向き直ったソラが、そっと銀次の首筋に唇を当てる。そして勢いよく立ち上がった。


「アイスハーブティー淹れてくる」


 そう告げるソラの顔があまりに眩しくて、銀次はボーっと見惚れてしまう。


「お、おう」


 一人残された銀次は、背もたれに使っていたソファーに顔をうずめた。


「……可愛すぎる」


 見慣れる? 否、ソラは日々魅力的になっている。恋する少女はなんとやら、しかも本人は天然でしているのだから質が悪い。自分の理性が一瞬壊れるかと思った銀次なのだった。


「何してんの?」


 今度はソラが問いかける番だった。持っているのは、ガラスコップに入った少し紫がかった青色のハーブティーで夏らしく涼やかな色合いだった。お盆の上には他にもアーモンドとレモンが小皿に乗せられている。


「……ちょっとな。それ、ハーブティーか、青色のお茶なんて飲んだことないぜ」


「変わった色がたくさんあっていいよね。ちなみにこのお茶に使ったマロウブルーっていうハーブには面白い効果があるんだよ。半分くらい飲んだら飲むのを一端止めて、レモンを入れてね」


「おう、味変か?」


「ふふーん、それは見てのお楽しみ。お茶請けはアーモンドだよ。早起きしてローストしたばっかりだから風味もバッチシ、あーん」


 問題集を脇にずらして、香ばしい匂いの皿が置かれ、ソラがアーモンドを差し出してくる。


「美味いな。甘い……」


「ローストすると甘くなるよね。ほらあーん」


「俺も食わしてやるよ、ほら」


「あむ……」


 そして二人でハーブティーを飲む。薄く花の香りがして、ハチミツの甘さが口の中に広がる。


「ハチミツ入れてんのか、色の割にはあんまりハーブの味はしないんだな」


「うん、だから他のお茶とブレンドするのが基本かな。そして、レモンを入れると……」


 ソラがレモンを入れると、紅茶の色が青色からピンクに変わる。


「おぉ! すげぇ、何だこれ」


「おもしろいでしょ。原理は理科の実験のリトマス紙とかと似たようなものらしいよ」


「普通に飲み物としても旨いのがすごいな」


 子供のように目を丸める銀次。


「通販の説明ではカルピスなんか入れても変化するらしいし、今度やってみるね」


 得意げなソラが「なでれ」と頭を出してくるので撫でる。


「これ飲んだら。もうひと踏ん張りするか」


「うん、他にも色々準備しているから」


「いや、宿題しようぜ」


「銀次にもてなすために、昨日のうちにほとんど宿題終わらせたから大丈夫だよ。お昼ご飯も仕込みはバッチリだから」


「……一緒に宿題をする為にわざと少しだけ問題を残していたのか?」


「さぁ、どうでしょ?」


 ウインクをして人差し指を唇に当てる。すでに一日の尽くしたがりコースを考えているソラなのだった。

次回の更新は、多分月曜日です。もしかしたら今週の水曜日に投稿するかもしれません。


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