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夏休み、何する?

 テスト期間が進み、最終日の前日になると夏休みの補習や受験に向けた特別講義などのお知らせが掲示板に張り出される。運動部は体を動かしたくてソワソワとし始め、進学に高い意識を持つ生徒はテストを自分で添削してはしては一喜一憂している。


 そんな中、テスト期間中も真面目に掃除をしていた銀次は担任に頼まれて職員室にプリントを運んでいた。


「失礼します。一年、桃井 銀次っす」


「おう、桃井。こっちだっ!」


 担任が手を挙げて銀次を呼び、銀次はその前にプリントを置いた。


「すまんな。日直に頼んだらテスト勉強で忙しいって断られてな。一人ではどうも量があるから、ついお前に頼んじまった」

 

 どうやら、他にも荷物があったようだ。腰を撫でながら担任は銀次に頭を下げる。


「別に大丈夫っす。他になんかあれば手伝いますよ」


「いや、大丈夫。お前もテストがあるだろ。……まっ、心配ないか。随分調子良さそうじゃないか。一年のテストは期末から難易度を上げるんだがな」


 申し訳なさそうに、ちらちらと銀次を見ながら担任は何か言いたそうに口をモゴモゴと動かしている。どうやらプリント運びは銀次を職員室に呼ぶための口実のようだ。


「結果発表前に言っちゃダメでしょう。……それで、俺は何の用で呼ばれたんすか?」


「相変わらず察しが良い奴だな。髙城のことだが……女子としてやっていけそうなのか気になってな。俺は大丈夫だって言っているんだが…ほら、上が色々探りをいれてくるからどうにもな」


 ちらっと、職員室の前に座る教頭に視線が動く。

 入学時から愛華に強制させられていたソラの男装だったが、教師たちにはあくまで本人の意志で希望していたということになっている。学校へ多額の寄付をしている雅臣のこともあり、ソラの様子について色々上司から確認されているようだ。


「大丈夫です。ソラに聞いても同じことを言うと思いますよ」


 担任はすまなさそうな顔をして目線を逸らす。


「そうか、いや、そうだと言っているんだがな。学年主任や他クラスの先生達が最近の髙城の変わり様に色々聞いてくるもんで……それに、すでにわかっている範囲のテスト結果が前代未聞――」


「笠木先生っ! テスト期間中に生徒を職員室には入れない方がいいですよ」


 唐突な教頭の注意に担任が飛び上がる。どうやら銀次と担任のやり取りは周囲で聞き耳を立てられていたようだ。


「はい教頭。桃井、ありがとう。ほら、もういいぞ」


「……うっす。失礼します」


 教頭に呼び出されていく担任の丸い背中を見ながら心の中で合掌する。

 職員室を出ると、ソラが自分と銀次の鞄を持って立っていた。


「お疲れ様。田中君が、職員室にプリント運んだって言われていたから……なんかあったの?」


 飼い主が返ってきた犬のようにニコニコと笑顔で銀次の鞄を持つソラを見て銀次が苦笑する。


「帰り道に教えてやるよ。鞄ありがとな」


「自転車置き場まで運ぶよ」


「馬鹿、ここまで持ってきてもらったんだから、ここからは俺がソラの分も運ぶんだよ」


「拒否しますっ」


「何でだよっ!?」


 鞄の取り合いをしながら自転車に乗って帰路に着く。ゆっくりと坂道を下りながら、銀次は先程の職員室での会話をソラに説明する。


「――というわけだ」


「……なんで銀次にボクのこと聞くんだろ?」


「そりゃあ……聞きづらいんだろ。そういや、テスト結果が前代未聞とかも言ってたな」


 ちらりと一瞬後ろを見ると、丸く不思議な虹彩の瞳と目が合う。細く華奢な顎のラインに透き通るような肌。何度も繰り返し女子であるということを実感しているからこそ、この美少女が少し前まで男子として学校に通っていたことが信じられない。銀次でさえそうなのだから教師として見たら、ここまで劇的に変わった生徒に対して迂闊なことを聞けない気持ちは銀次に理解できた。


「ボクのテスト結果のことかなぁ。今回は頑張ってるからね」


「期待しとくぜ。テストが終わったらどっか遊び行くか。月末にバイト代が入るから、少し遠出もできるぞ」


「やった。じゃあ、銀次の家の横の工場見学とか行きたいっ!」


「遠出って言ってるだろ……。そこならいつでも行けるし、他の場所行こうぜ。あ~、それなら県北とかどうだ? バイトの伝手で工場の見学とかもできると思うぞ」


「ほんとっ? 行きたいっ。工場もいいけど、県北には海もあるよね……夏だし、海水浴とかできるかな?」


「できるぞ。哲也と毎年行ってるぜ」


「おぉ、じゃあご褒美目指して明日のテスト頑張らなきゃね。……明日は暗記科目ばかりだから、今日の感じだと。全科目満点行けそうだし」


 風が吹き、後半の呟きは銀次の耳まで届かない。


「なんか言ったか?」


「ううん、今日の晩御飯はアスパラの塩豚炒めだよ。一杯食べて勉強頑張ろうね」


「おうっ。腹も減ったし早く帰るか。しっかり掴まってろ」


「うんっ」


 嬉しそうにソラが銀次に抱き着く。夏の日差しは強く、ここからが真っ盛りだと二人に告げるようだった。

来週は月曜日更新予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 周りがどう騒ごうと2人には関係ないんですね。 生徒だけじゃなく教師もソワソワしてますが 2人にはただの雑音に過ぎませんね。 オッサンからしたら担任の立場や振る舞いも まぁ分からなくもないで…
[良い点] まぁ満点近い点数ならともかく、満点取ったらカンニング疑われますよね……というかまず教師ですら期末テストで満点取るのって不可能に近いでしょうし(苦笑) [気になる点] 果たしてテストの結果は…
[良い点]  オールブラックスなら誰に聞いても二人の所在把握してそう。  というかそういった相互連絡ネットワークはグループでSNS使えば簡単に構築出来るからなあ。  便利な世の中になったもんだ。  使…
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