髪の毛、どのくらい伸ばしたらいい?
テスト前の時間はあっという間にすぎ、テスト当日の朝。ここ一週間、ソラに勉強を教えてもらっていた銀次は待ち合わせ場所で青空を眺めていた。朝だと言うのに夏の日は高く、日差しは強く照り付ける。
「おまたせっ」
ソラがお重を持ってやってきた。絵の練習にテスト勉強(ほぼ、銀次の為の問題集作り)とそれなりに忙しい一週間だったはずだが、疲れた様子はなくむしろ日に日に好調になっていくようだった。出会った頃より少し伸びた髪を揺らし人懐っこい笑みで銀次に向かって歩み寄る。
「おう、おはよう。いよいよ今日からテストだな」
「目指せ十位以内だね」
「ソラが頑張ってくれたからな。任せとけ」
実際は十位とれなかったらソラに面目が立たない、と絶対にソラが気にしないことを考えて、少し緊張している銀次の気持ちを知ってか知らずかソラは強く頷く。
「銀次なら大丈夫だよ」
「そっちは大丈夫か? ほとんど俺の勉強に付き合っているだけだったけど」
「ん? ボク、全科目百点はちょっと運が絡むかなぁ」
「……マジかよ」
一位を取ることは前提のようなソラの回答に絶句する銀次。これまでの付き合いでわかってはいたが、この小さな体のどこにそんな力が眠っているのか想像もつかない。
お重を受け取り自転車のカゴに入れる。銀次が歩き出そうとすると服の裾をソラが掴んだ。
「約束……おぼえてる?」
上目遣いのソラのでこに人差し指を当てて、銀次はニヤリと笑った。
「一位になったらご褒美だろ。忘れてねぇよ」
「エヘヘ、銀次が十位以内に入ったらボクからもご褒美だからね」
「そりゃ楽しみだ。ほれ行くぞ」
「うんっ!」
学校に着き、テスト期間なので朝の挨拶もそこそこに教室に入ると、テスト前の詰め込みと言わんばかりに生徒達が本日の科目のノートを読み返していた。ソラと拳を合わせて気合を入れた銀次は自分の席に座り。腕を組んでホームルームが始まるのを待つ。ソラは前回一位ということもあって教室の注目を集めていたが、やはり女子達は愛華の周りに集まって期待を伝えているようだ。
愛華はいつも通り愛想よく答え、澪がそれとなく人払いをしていた。その最中に澪がソラをちらりと見て、何かを言いたそうに口の中で言葉を転がして、すぐに視線を周囲に戻した。
銀次とソラが通う高校では期末テストは五日間で行われる。テスト中は少し早く帰れるため、戦いを終えた二人はソラの家に行きテストの振り返りを始めていた。
「んー、取るべき問題は解けたが、応用的な問題は難しいな。明日の古文や現社は得意だし取り返さねぇとな」
「そうかな? 前回よりもずっとできているし、今回は期待できそうだよ」
テスト用紙の文章を全て暗記しているソラによる採点結果に、苦い顔をする銀次だったがソラは高評価のようだ。
「そっちはどうなんだよ?」
「今日のテストは多分満点かな。ブイッ」
ピースしながら、にじり寄るソラ。
「……なんだよ?」
「ほめれ」
「髪型が崩れるぞ」
「今日はもう、出かけないからいいもん」
ポテンと頭を預けてくるソラに、苦笑しながら銀次はソラの髪を撫でる。
ワシワシと撫でた後に、そっと髪を指先で梳く。
「髪、伸びたな」
「整えながら伸ばしているから、なかなか伸びないけどね。銀次的にはどのくらいの長さが好み?」
上目遣いでソラが尋ねる。銀次は少し照れたように頬を掻いた。
「……あー、なんつうか。最近のソラはどんどん可愛くなるからな。想像つかないっていうか……」
「むー、どっちつかずだけど、褒めてくれたからよしっ。じゃあ、絵の邪魔にならないくらいまで伸ばすから。切るときにどのくらいの長さがいいか選んでよ」
「俺がか? 選べる気がしないぜ」
銀次がそう言うと、ソラは耳元へと顔を寄せる。必然的に体が密着するがソラは構わず囁く。
「もちろん、髪が伸びるまで……その後も、ずっとボクを見ててね。銀次」
「ソラ」
「何?」
顔を真っ赤にした銀次がソラを引き剥がす。ソラは悪戯をした猫のように、してやったりという顔をしていた。
「やりすぎだ。勉強すんぞ」
「エヘヘ」
そう言って、銀次はソラに優しくデコピンをして、ソラは嬉しそうにおでこを抑えるのだった。
遅れてすみません。来週は月曜日、遅れずに投稿できると思います。
いいね、ブックマーク、評価、していただけたら励みになります!!
感想も嬉しいです。皆さんの反応がモチベーションなのでよろしくお願いします。