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ソラ式イチャラブ勉強法

 その日の夜。ソラの宅ではカレーの香りが部屋に充満していた。冷房の効いた部屋で鍋を前にする二人はエプロンをつけている。


「本当に甘口でいいの? 辛口にもできるけど」


「おう、辛いのも好きだが、甘いカレーも好きだからな。うっし、カツも揚げ終わったぜ」


 山盛りと子盛りに盛られたお皿に、奇をてらわない市販のルーを使ったカレーがかけられ豚カツが乗せられる。二人は椅子に座り、銀次が手を合わせる。


「試験勉強スタートだからな。景気づけといったらカレーだろっ!」


「だねっ! 個人的にはルーから拘って飴色玉ねぎとかのもいいけど。今日は勉強がメインだからね。簡単に作ったよ」


「いや、十分旨そうだろ。こういうのもいいんだよ。食べるぞ、いただきます」


「はい、召し上がれ。ボクもいただきます」


 甘口のカレーは野菜の甘味を引き立て、粗目のパン粉で挙げられたカツはザクッと言った歯ざわりを伝える。特に銀次ははまったようで、二杯もおかわりをしていた。

 ご飯を食べ終わった後は、洗い物をすませ勉強を開始するために筆記用具を取り出す。

 ソラは今回も手書きの問題集をデンと机に置いた。


「今日は、30ページするからね。まずは暗記10分、その後に問題を時間を区切ってしよう」


 むふーと鼻息荒くやる気十分のソラである。そんなソラを見て銀次にも気合が入る。


「おうっ。いくらでも来いっ。言っておくが、俺のことばかりじゃなく、ソラも勉強ちゃんとしろよ」


「一位取ればいいんでしょ? そんなことよりも銀次の勉強だよっ!」


「ったく、まっ、たまには親父とお袋を驚かしてやるか」


 三時間後。ぶっ続けで暗記と問題集と向かい合った銀次は伸びをした。 

 ソラは、銀次が解いた問題をチェックしている。


「……」


「んー、肩凝るな。なんだ、眉間に皺なんか寄せて……間違ってたか?」


「間違っているけど、考え方は合ってる。この調子なら普通に目標達成できそう」


「……何で、ちょっと不服そうなんだよ」


「できない銀次を励ましたかったのに……ちぇ」


「俺だって、少しは勉強してっからな」


 得意げな銀次がソラの頭をガシガシと撫でる。気持ち良さそうに目を細めたソラがしばらく銀次の手の感触を楽しむ。


「これなら、もう少し難易度を上げても良さそうだね。社会や古文は狙い目だから、暗記量を増やして得点を稼いでいこう」


「ドンと来いだ。っとそろそろ時間だな。暗記物は家で寝る前に読んでおくぜ」


 時計の針は9時を回っていた。いつも銀次が帰る時間よりも遅いと言える。


「泊ってもいいよ?」


 上目遣いでニマニマするソラに銀次はデコピンをする。


「……馬鹿野郎。ダメに決まってんだろ」


「む~、しょうがない。じゃあ、ハグして」


 銀次の横に移動したソラが両手を広げる。自分からは行かずに、銀次を待ち受ける構えである。 

 照れた銀次が鼻を掻いて立ち上がりソラを引き寄せた。銀次は優しく、ソラは強くお互いを抱きしめる。


「エヘヘ……」


「今日は甘えたがりなんだな」


 小さな体はすっぽりと銀次の手の中に納まり、髪からは柑橘系の香りがした。やや乱雑に頭を撫でられたソラは気持ちよさそうに体を預ける。


「明日も勉強頑張ろうね。明後日は祝日だし、朝から勉強できるよ」


「悪い、明後日は夕方までバイトがあってな……」


「え~、テスト期間中なのに悪い彼氏だ」


 抱き着いたまま、銀次を見上げるソラ。


「その分、土日の休みはしっかり勉強するからよ。まぁ、ソラも自分の勉強してくれ」


「普段の勉強で十分なんだよね……祝日なら画塾が開いているから夕方まで絵を描こうかな?」


「余裕だな……」


「ちゃんと夜に勉強するから大丈夫だよ。前は愛華ちゃんの絵とか生徒会の仕事をしながらだったから、むしろ時間があるくらいだし」


「時間があるならその分自分の為に使えって言ってんだよ。……自分で言ってて何だが、その理屈なら絵を描くのも気分転換になるか。っと、そろそろ離れるぞ」


「えー、あと5分」


「……しょうがないな」


 なんだかんだ10分ほど抱き合っていた二人はようやく離れる。銀次を見送った後、シャワーを浴びて着替えたソラは自室の机に向かい、参考書を取り出してパラパラめくる。


「とりあえず。この辺は全部覚えて、後は例題も全部頭に入れよっと。銀次に教える為に色々な視点を頭に入れないとだもんね……」


 ソラは複数の教科書と参考書を頭に入れ、さらに白紙のノートを数冊頭の中に思い描き、銀次の為の例題を書き込んでいく。目を閉じながら見えない複数のノートに情報を描き込む様は、他人が見れば奇怪に見えるだろう。銀次がこれまで解いてソラがチェックした全ての問題と照らし合わせながら苦手な部分を反映させることで脳内のノート完成した。次は現実のノートへ内容を書き写すことで問題集を作り出していく。


「ぶっちゃけ、これがボクにとって一番捗る勉強法なんだよね。エヘヘ、苦手問題だけだと可哀そうだから、おまけ問題も入れてあげよっと」


 10を教える為に1000を学ぶような規格外の勉強法をしながら、銀次のことを思いながらニマニマするソラ。……これまでのテストではソラは愛華に強要されて、出題されやすい問題のみを機械的に調べて伝えていた。言われたこと以外はするなと言われていた為、知識を応用して活用することも無かった。恐るべきことにソラは自分の能力を本気で使っていなかったのである。愛華も意図していない部分であったが、結果としてソラは自身の能力を愛華によって抑え込まれていた。

 

 そして愛華から離れた今は、銀次の為という最強のモチベーションの下にピンク色の恋愛脳をフル回転させている状態である。厄介なことにソラ本人にその自覚は薄く、彼氏の為にできることを全力でしてあげようという純度100%の好意のみであった。 


 フル活用され始めたソラの能力は、ここに来てさらなる成長を遂げようとしていた。

 ソラ本人はそのことに全く自覚はなく、楽しそうに銀次の為の問題集作りに勤しむのであった。

次回の更新は多分月曜日です。他作業があり、もしかすると月曜日に更新が間に合わないかもしれません。


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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[良い点] 改めて、愛華は知らない内に虎を野に放ってしまったのだなぁ
[良い点] 愛華をあの位置まで押し上げた能力だ。 留まることを知らないぜ…(戦慄
[一言] カレーはタッパーに詰めて弟君にも食べさせてあげてください!
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