試験勉強開始!
ソラの叔父である四季 雅臣が襲来した翌日。学生にとって夏休み前の最大の壁が教師より発表される。年配の教師が日程を黒板に書き記す。
「おーし、来週は期末試験だ。赤点をとれば補習で夏休みが終わるからなー。模試も実施するから、希望者は申請するように……このまま一限は私の授業だが、範囲まではすでに授業が終わっているので自習とします。わからないことがあったら、質問するように。自習室も開放しているから、移動する人はこの後すぐに移動しろよ」
間延びした声ではあるが、生徒の間には緊張が走る。県内でも有数の進学校である為に、一年生とは言えテストに対する姿勢はかなり真剣だ。ほとんどの生徒が、テストに向けて緊張感を高まらせていた。ホームルームが終わると、ニタリと嗤うソラがパンパンに膨らんだ学生鞄を持って銀次の机にやってきた。
「じゃあ、自習室に行こっか銀次」
「……一応言っておくが、俺はほどほどの成績でいいんだからな」
「アハハ、面白い冗談だね。大丈夫、一緒に勉強してきたし。銀次は暗記が得意だから、ボクの言う通りにすれば余裕だよ。詰め込みなんて古いって言う人もいるけど、普段から勉強しながら詰め込みすることで効果的になると思うんだ」
普段から一緒に夕食を食べる二人は、食後にゲームで遊んでいたりもしていたが、実は結構勉強してもいる。銀次は勉強嫌いというわけではなかったが、ソラは加減をしらないスパルタ方式かつ、疲れた銀次を徹底的に甘やかしてくるという飴と鞭を使ってくるため、される側の銀次には覚悟が必要であった。
「その言う通りがヤバイんだよ」
「ふふふ……銀次がボクの手によってどんどん変わっていくのがいいよね。勉強で疲れ切った銀次を癒すのも彼女の務め……燃えてきたっ!」
「はぁ……」
ソラがルンルンと鞄を振りながら、校内に複数存在する自習室の一つに入室する。冷房がしっかりと聞いており、室内にある本棚には自由に読むことのできる参考書が並べられていた。基本的には個別で仕切られた自習スペースを使うのだが、複数人で勉強することもある為長机も用意されている。
「やった、空いてるよ。さって、まずは暗記系からだよね。暗記で疲れたら数学や物理で気分転換する感じでいいかな?」
「……好きにしてくれ。まっ、俺もいつまでもこんな態度じゃソラに悪いな。気合入れるからよ、ビシっとやろうぜ」
「おっ、いいね。そういう銀次の前向きな所、素敵だと思うな」
実際の所、周囲の目のことも考え、銀次は恥ずかしくない成績を取ろうと考えていた。恐らく次のテストでも学年一位を取るであろうソラの横に胸を張って並ぶ為なのだが、ソラはそんなことを欠片も考えていないし、気恥ずかしいのであえて言わないという銀次である。
「あの、ちょっといいかな?」
ソラが自作のテスト対策の問題集を取り出したところで、後ろから声を掛けられたので振り返ると他クラスの女子が二人目線をせわしなく動かしながら立っていた。スカーフの色から一年生であることがわかるが、少なくとも銀次には記憶が無い。
「……どっちに用だ?」
急に話しかけられた為に、驚いた猫のように動きを止めたソラに変わり銀次が尋ねる。
あれ、前にもこんなことあったようなと、銀次は妙な既視感を感じた。
「どっちにもかな? 髙城さんもだけど、桃井君も勉強できるんだよね。二人に助けてもらえたらなぁとか思ったり」
「そうそう、わぁ、桃井君って意外と筋肉あるんだね。一緒に勉強したいなぁ」
「……はっ!?」
フリーズしていたソラだったが二人の顔検索がヒットする。以前銀次に告白した女子と一緒にいた女子生徒だったのだ。最近、女子からの人気が上がっている銀次目当てだと判断したソラは危機感を募らせる。
「むぅうううううううう」
銀次を引き寄せて、涙目で威嚇するソラ。銀次は困ったように頬を掻く。
「悪い。俺も教えるほど勉強できるわけじゃないんだ。ソラもこんな感じだし遠慮してもらえるか」
「……うん、いいっ! だよね」
「やっぱり推せる! 私達は、あっちで勉強するからっ。桃井君と……話しちゃった」
少し離れた位置に座った女子二人はチラチラとこっちを見ている。それ以外にも、ソラを見る視線も多く到底勉強できる状況ではない。
「部屋……変えるか」
「……そうだね」
部屋に残っても落ち着かないと判断した銀次はソラを誘って部屋を出る。
「上の階の自習室に行こうか」
「教室に戻ればいいんじゃねぇか?」
「ダメっ! 最近は教室も危ないんだよっ! 銀次をあんな獣の近くに置いておけないっ!」
「いや、注目されているのはソラの方だと思うんだが……」
二人は速足で移動し、二階の自習室に入る。二年生がほとんどだったが幸い机は開いているようだ。 顔を見合わせて安堵した二人が机に座る。
ザワリ。
部屋に緊張が走る。ソラを確認した二年生は二度見、三度見をしており、中には鞄から缶コーヒーを取り出す者もいた。
『えっ? なんで髙城ちゃんがいるの? ナマ髙城ちゃんなんだけど? SNSで見る画像よりも可愛い。目がクリクリ……』
『ちっちゃ、可愛い……四季さんといい、一年ヤバすぎよね~』
『……廊下に一年の男子がいるんだけど、いいのかあれ?』
『あれは同志だ。問題ない』
『隣が髙城ちゃんの彼氏……噂ほど怖くないっていうか……むしろ結構いい感じかも』
『えっ、オールブラックス入る? グループ回すけど?』
『静かにするんだ。俺達は全力で髙城ちゃんに快適空間を提供するんだっ!』
四季の取り巻きが多い一年と違い、二年生の間では純粋なソラのファンが急増しており、急に目の前に訪れたソラに自習室はパニックになっていたが、そこは流石上級生である。必死に興味が無い風を装っている。無論、それでも視線を感じる二人だったが、せいぜい一年生だから注目されている程度の認識で勉強をすることができたのだった。
次回の更新は多分月曜日です。
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