次はちゃんと拭き取るから
昼休み、いつもの部活棟の秘密の部屋でお重のお弁当を広げる二人。銀次が顔を顰めながら肩を回していた。
「痛てて……あいつ等、肩パンとは言えそれなりの力で殴ってきやがって……」
結局あの後の休み時間で、冗談半分、殺意半分の友人からの肩パンという名の嫉妬を受け止めた銀次を心配そうにソラが見つめる。
「大丈夫? リップは確かに恥ずかしいけど、なんで皆あんな怒ってたの?」
「……それに心当たりのないお前にビックリだよ」
割と本当に気づいてなさそうなソラにため息をつく銀次。塗り直したソラのリップを妙に意識しそうになってしまい視線を逸らす。
「今日のお弁当はハンバーグです。スープは冷製トマトスープ」
「おぉ、旨そうだ」
レアではなく、しっかりと中まで焼かれたハンバーグは少し固めだがその分食べ応え十分でお重の一番下の段のおにぎりが進む。風が入るとはいえ熱い室内なので冷製トマトスープとキンキンに冷えたお茶をお供に銀次はお弁当を食べ進めていた。
「うんうん、銀次は美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるよ。三食全部作ってあげようか?」
「俺も料理好きだから当番制か、一緒に作ろうぜ」
ホッペをパンパンに膨らませながら満足気な銀次だが、その返答の生活とその意味を想像したソラはしばらく口の中でモゴモゴと言葉を転がして、結局飲み込むと別の言葉を口にする。
「……肩パンしてもいい?」
「なんでだよっ!」
「肩パンは冗談だけど、今日の尽くしたがりは一回追加だもんね。帰ったらおやつとマッサージするから」
「男に二言は無いが、一切自分が損していないのが逆に辛いぜ……話は変わるけどソラ、朝の話は本当にあれで良かったのか? 四季の奴がお前にしたこと……伯父さんにぶちまけたっていいんじゃないか?」
ソラは空になった銀次のコップにお茶を注いで。椅子をずらし横に座る。
「前にも言ったことと似ているけど、ボクが愛華ちゃんにしてあげたことをボク自身が否定したくないんだ。それに……親子の仲がギクシャクするのはもう見たくない」
一人だけの家で積み重なったキャンパスとスケッチブック。
高い位置に置かれた家族の食器。
埋まることのない大きな冷蔵庫。
ソラの家の孤独の光景を銀次は思い出す。
「……悪い。俺は馬鹿野郎だ」
沈んだ調子の声を聴いてソラはクスクスと笑い。銀次の肩に頭を乗せる。
「どうだろ? 馬鹿かもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、ボクはそんな銀次が大好きだよ。……愛華ちゃんとのこと、ちゃんと考えることができたのは銀次と一緒だからなんだ。銀次が横にいたら愛華ちゃんだってちょっとしか怖くないって思える。銀次はいい加減、ボクがどれだけ銀次のことを好きなのか知るべきなんだ」
暑い室内で、触れ合った所がより熱を感じる。銀次が言葉を返すよりも早くソラは椅子の上で膝立ちになり銀次の首の後ろに手を回した。柑橘系の香りが強くなる。
「ソラ、朝からかわれたばかりだぞ。というか、ここでそういうのは……」
「大丈夫。服は汚さないし、次はちゃんと」
拭き取るからと言い切る前に、ソラは銀次にそっと口づけをした。
短くてすみません。でも、ここで区切るのが良いと思ったのです。
なので次回更新は木曜日で頑張ります。
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