四季 愛華は愛されている
銀次とソラがデートをしていた日の夜。愛華は自宅にて久しぶりに父親と食事をとっていた。
運ばれた料理をひとしきり食べ終わり、和やかに話をしていた。愛華の父である四季 雅臣はワインを飲み、愛華もノンアルコールのスパークリングワインを手元に置いて和やかに話していた。
「学校はどうだい愛華? 久しぶりに時間が取れそうだから校長に会おうと思うんだ必要なことがあったらいってくれ」
雅臣は学校へ多額の寄付をしており、理事や校長とも面識があった。会話の中の何の気もない提案だったが愛華は口をつぐむ。
「……」
「どうしたんだい愛華?」
「いえ、別に……急ですから驚いただけです」
「ははは、親が学校に来るのは恥ずかしいものだからね。大丈夫、ちゃんと配慮しておくよ。おっと、そうだ、久しぶりにソラにも会いたいな。こんどシンガポールで兄に合うからね。様子を伝えようと思うんだ。まったくたまには可愛い娘に会いにくればいいのにね……お手伝いに聞いたが最近は家に来ていないようだけど。何かあったのかい?」
その瞳はあくまで優し気で気遣いが見て取れる。愛華は机の下で拳を強く握り、顔では笑顔を作った。
「あの子は……彼氏ができたようですから。家に来ていないのです」
「……えっ? 彼氏? あぁ、えっと、それは男性なのかい?」
思い浮かべるのは高校に入る少し前から男装をし始めた姪であるソラの姿。雅臣は愛華からソラが性自認について悩んでいると聞かされて学校に対応を求めていた。
「えぇ、ですから。最近は『普通』の制服を着ていますの、まったく、あの子ってばお父様に迷惑をかけて、困ったものです」
嘘を嘘で塗り固める。その危うさを理解できないわけではないのに愛華はどうすることもできなかった。本当は自分がそれをソラに強要したというのに、優しい父に知られたくなくてそれを言うことができない。
「いやいや、思春期の女の子には悩みは付き物さ。ソラが女性らしくあるのならばそれは、とても喜ばしいよ。実はドレスを用意していたからね。しかし、あのソラが恋ををねぇ。男性は苦手だと思っていたのだが……学生恋愛とは私が母さんに会った時のことを思いだすよ」
「留学中で運命の出会いですわよね。もう千回は聞きましたわ」
「おっとすまない。それにしても、ソラが恋をするなんてその相手は良い男なのだろうね?」
「……さぁ、わかりませんわ」
「愛華は気にならないのかい? これは保護者の代わりとして一度会って見なくては――」
「お父様っ! ……そういうのは止めた方がよろしいかと……」
「おぉ、そうだね。そうとも、わかっている。わかっているさ」
娘からの強い調子を受けて、雅臣苦笑いを浮かべながらワインを深くあおった。
そうしていると、部屋の扉が開き長身で銀髪の、妙齢の女性が部屋に入ってきた。その容姿はかなり愛華に似ている。
「おぉ、私の愛しい人。レオナ、帰って来るなら食事は待っていたのに」
立ち上がり抱擁をする雅臣、愛華の母親の四季 レオナはそれに応じた後に離れる。
北欧系の顔立ちで、どこか猫のような印象を与える美女は愛華の横に座った。
「帰ってこれる時間がわからなかったの。愛華、久しぶりね。ごめんなさい。これから移動なの、顔だけは見ておきたくて……」
「お母様、お帰りなさい。お仕事が忙しいのは理解していますから大丈夫」
レオナは愛華を抱きしめる。
「あら、愛華……髪が傷んでいるわ。サロンを予約させておくわね」
「えっ、あぁ、恥ずかしいですわ。最近忙しくて……」
「そう、無理はするものだけど……それを悟られるようなら休みなさい。私達のような人間は弱みを下の人間に見られてはいけないのだから」
「わかっていますわお母様」
「そう、私の可愛い子。それじゃね。アナタ、私の所の事業のことで少しお話がありますの」
「今日くらいは愛華と一緒にいてあげればいいじゃないか。仕事は明日でもいい、僕はもうワインを二杯も飲んでしまった」
「ごめんなさい。少し急ぎなの……」
「お父様、私は大丈夫ですわ。お母様を助けてあげて」
「……すまない愛華。埋め合わせはするからね」
二人が部屋から出た後、愛華は自室に戻りそのままベッドに倒れ込む。枕の脇に置かれたスケジュール帳を広げるとぎっしりと予定が入っていた。それを閉じてため息をつく。手の甲で顔を覆い、言い聞かせるように呟いていた。
「私は愛されている。……あの子とは違うの……親に見捨てられた、醜いソラのように……私は……なるわけにはいかない。私は……」
最後の呟きは言葉にならず、愛華は体を起こし髪のケアをする為に浴室へ向かうのだった。
一日遅れてすみません!!
次回の更新は月曜日です。余裕があれば、早くに更新できるかもしれません。
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