ソラ is 暴走列車
たっぷりと数十秒のフリーズ後、銀次は眉間を揉みながら二人の前に腰を下ろした。
泣き止んだソラとスズは視線を逸らしている。
「……いつから?」
静寂を破ったのは銀次だった。ソラの反応を見て大体の流れは察しているようだが、一縷の望みをかけて問いただす。
「……『ディナー食べる?』の辺りから。こ、これは本当に偶然で、お仕事の邪魔をしないようにってなっただけで」
スズが弁解をしようとするが、銀次はそれを手で静止する。
「わかってる。変なことは疑ってねぇよ。つまり……聞いたんだな?」
スズが無言で並んだコーヒーカップを示す。プルプル震えるソラはギュっと目をつぶり机に手をついて頭を下げた。
「ゴメン銀次っ! 悪いと思ってたんだけど言い出せなくて――」
銀次が手を伸ばし、ソラの頭を帽子ごとやや雑に撫でる。
「謝んなくていいぜソラ。めっちゃ恥ずかしいけどな、嘘も偽りもねぇ俺の本心だ。……あーでもやっぱ恥ずかしいな。俺、変なことキモいこと言ってなかったか?」
カラリと笑って銀次が空気を変える。スズが胸を撫でおろし、ソラが立ち上がって銀次の横に移動して肩に頭を置く。
「嬉しかった。好きになった相手が銀次で良かった……」
そっぽを向くソラの表情は銀次からは見えない。でもどんな顔をしているかはわかる。
「アハハ、お二人さーんアタシのこと忘れてない?」
「わ、忘れてないよ」
「二人は買い物でもしてたのか?」
「うん、あっそうだ。いいこと考えた」
修羅場は去ったと伸びをするスズだが、意図していない地獄が彼女を待ち受けていた。
頬を赤く染めたソラが銀次の腕を抱きながら気合の入った目で銀次とスズを交互に見る。
「銀次だけに恥ずかしい想いを差せるわけにはいかないもん。お詫びに僕が銀次がどんな彼氏かスズに話すよっ! 元々恋バナするって話だったし」
「「え゛っ!?」」
綺麗にハモった二人を置き去りにして、暴走列車と化したソラは銀次の腕を抱きしめたまま語り始める。
「えっとね。まず、カッコイイか可愛い系だよね。もちろんカッコイイのは当たり前なんだけど、ボクの作ったおやつを食べる時なんかは子供みたいで可愛いと思う。お付き合いするようになってから、ちょっと砕けた表情も多く見れるようになってドキドキするし」
「ぶふぉ! ま、待てソラ、落ち着つけっ!」
「……あれ? なんかコーヒー注文できなくなってるんだけど……売り切れ? そんなことある?」
「出会った時からカッコよかったけど、それは気取らない感じっていうか自然体のカッコよさで、銀次がいるだけで場が和やかになるんだ。箸の持ち方も綺麗で好き嫌いなくいっぱいご飯を食べてくれるところも素敵だし、あっ、筋肉も結構あるんだよ。あとボクの絵を見てどんなことをボクが考えてたかをしっかり感じてくれる所も凄いよね。弟想いで、料理上手で、頼りがいがあって、最高の彼氏なのは間違いないんだけど、銀次の凄い所は他にもたくさんあって――」
「……」
銀次ここで轟沈。横で彼氏が処理落ちをしていることに気づかず、ソラはスズに銀次のことを語り続ける。スズ(彼氏無し)は何を見せられているのだろうと疑問を持ちながら、遠い所を見るような眼をしてソラの話を聞き続けていた。
「笑った顔も真剣な顔も全部の銀次に惹きつけられて目が離せなくて、これ以上好きにさせてどうするんだって話だよ。ボクだって銀次を幸せにするためならなんだってできるし、いつだって銀次のことを考えて……あれ? どしたの二人共?」
ソラが二人を見ると、銀次もスズも机に倒れ込んでしまっていた。
「その辺にしてくれ……」
「ギブ、誰か、タオルを……タオルを投げて……」
それは、あるいは周囲の客の心の声もあったかもしれない。机に沈んだスズ(彼氏いない歴=年齢)に至ってはなんかちょっと呼吸がおかしくなっている。まだまだ語り足りないというソラを何とか二人で止めて店を出る。何故かハイライトの消えた無感情な目で一行に応対する店員に支払いをすませて店を出る。
ちなみにソラは銀次と腕を組んだままであり、離す気はないと体重を預けている。バス停で時刻を確認して銀次は口を開く。
「俺は帰るつもりだけど、二人はどうするんだ?」
「ボク達も、あらかじめ決めてたことは終わったんだよね。どうするスズ?」
「んー、たっぷり話は聞けたし、ちょうど家の近くに行くバスがあるからここで帰ろうかな……まだダメージがある気がするし……」
というわけで、電車を使わないスズは別のバスに乗ってここで分かれることになった。バスに乗った二人は駅前で降りる。
「まだ、電車が来るまで結構時間があるね」
駅前の時計台を見たソラが記憶の中の時刻表を確認する。
「じゃあ寄り道すっか」
「うん、どこ行くの?」
「そうだな……駅裏のバッセンなんかどうだ?」
「いいよ、ボク、バッティングセンター入るの初めて」
「マジかっ! なら俺が色々教えてやるよ」
「うんっ」
そう言って銀次がソラの手を握る。ソラは嬉しそうに握り返して二人は歩き出した。
なんと100話達成!! ……してました。前回100話であったことを見逃す痛恨のミスでした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。これからも、銀次とソラのことをよろしくお願いします。
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