表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/198

そりゃバレる

「いやぁ、若返った気がするわ。今度彼女ちゃんに合わせてよ」


「勘弁してくださいよ、そろそろ仕事の話しますか」


 後ろでソラが湯気を出してフラフラになっていることなぞ露知らず、デザートを食べ終えた銀次はノートパソコンを取り出して仕事の話を始める。


「美沙さんから母さんへの依頼っすけど、ちょうどラインの空いた工場があるんで条件の良い所頼めますよ。その代わり半年契約ですけど……色々やってる町工場っすけど、納期が遅れたことはあんまりないです。なんか話に合った腕のある職人さんもいるとは思いますよ」


 先に資料を渡して、パソコンの画面を出して計画書を見せる。


「ん、オッケオッケ、話を進めてもらえる? 後、もうちょい追加したいんだけどなぁ」


「……急に言われても困るっす。というか、美沙さんとこ自前で使っている所あるじゃないですか。どうして急に外注してるんですか?」


 銀次の問いかけに美沙はニンマリと笑みを深め、懐から名刺を取りだした。

 透かしの入った質の高い名刺にはインテリアブランド『In space』と書かれている。


「フフーん、『In space』っていう新しい製品のブランド立ち上げようと思ってるの。ほら最近、金属製のインテリアとか流行ってるでしょ? そこに目を付けて、職人を使って厚利少売でやろうって寸法なのよ。お父さんに反対されているから、なんとか成果を出そうと思ってとりあえずライン確保して商品を作るって寸法よ」


「難しいんじゃないんですか? 美沙さんとこってパーツ製造がメインと他には溶接系の組み立てっすよね。確かに技術はあるけど、こういうのできるイメージないっすけど」


「グサッ……厳しいこと言うじゃない銀ちゃん。そうなのよねぇ、中小企業の強みで横のつながりがはあるんだけど、いまいちこういうのに明るいデザイナーさんっていないのよ。まぁ、探してはいるし、いくつかの商品はもう試作品はできているから。動き出せるわ。まずは椅子を作る予定なのとりあえず爆死覚悟で50脚ほど作るからよろしくね」


「まぁ、いいっすけど。とりあえず工場長さんにさっさと話ししときますね。こっからは直接話をした方がいいと思います」


 銀次がスマフォを取り出して、電話を始める。簡単な確認事項と日程調整を確認して電話を切る。

 鞄にスマフォを仕舞おうとするとガッとその手首を美沙に掴まれた。


「ちょっと待った!」


「何すか?」


「そのスマフォ、というかカバー見せなさい」


「は?」


 銀次が警戒しながらスマフォを渡すとしげしげと美沙がそこに印刷されたギアボックスのデザインを確認した。


「これ、金属製のカバーね。デザインがとってもおしゃれ……私も欲しい」


「彼女が注文したんで、知らないっすね。オーダーメイドでデザインも彼女がしたんで」


 話した瞬間銀次は不味いと思った。なぜなら美沙が獲物を見つけた猛禽の目をしていたからだ。


「デザインできるのねっ。この機械的なのにどこか可愛らしさもあるデザイン……売れるわっ!」


 ちなみに後の席では、ソラが自分のスマフォカバーをスズに見せて胸を張って御揃いであることを自慢していた。スズの目のハイライトが消えていることにソラは気づいていない。


「……紹介はしないっすよ」


「お願い銀ちゃん。助けると思って、後数人はデザイナーが欲しかったのよ!」


「相手は高校生なんで、無理ですってば」


「バイト代で処理できるわ。今時イラストだって高校生が描いて報酬貰うことも普通じゃない」


「……マジな話してもいいっすか?」


「何よ?」


 銀次がトーンを声のトーンを変え、美沙が座り直し、なんとなく後ろのソラとスズも姿勢を正す。


「それをデザインした俺の彼女は、今まで描きたくないものを描かされて、自分の描きたいものを描くことさえ隠れてしなきゃならなくて、最近やっと自分の好きな絵を胸張って描けるようになったんです。だから、今はアイツの描きたいものを描かせてやりたいんです。誰かに強制されたわけでもない、好きな絵を……多分、それって今しかできないことだと思うから。俺はそれを守ってやりたいんです」


 後ろの席でポロポロとソラの目から涙が零れ、スズがそれにハンカチを当てる。

 美沙はため息をついて、優し気に微笑んだ。


「男の子になっちゃって……わかったわ、詮索はしない。でも、その素敵な彼女さんが興味ありそうなら連絡ちょうだいね。悪いようにはしないから」


「うっす。その時は頼みます」


「じゃあ、今日のお話はここまでね。委託先との日程調整よろしくね」


 伝票を取って美沙が立ち上がる。銀次がパソコンを片付けて、少し遅れて立ち上がり出口に行こうとすると……。


「グスッ、グスッ」


「…………」


 後ろの席に、泣いているソラと悪戯が見つかった猫のような口半開きの表情で銀次を見るスズがいた。


「は?」

 

 それを見た銀次は情報を処理しきれず、フリーズすることになったのだった。

次回更新は木曜日予定です。メリークリスマスです。


いいね、ブックマーク、評価、していただけたら励みになります!!

感想も嬉しいです。皆さんの反応がモチベーションなのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー連載中作品のリンク先↓

奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり銀次君出来過ぎじゃないですか? もうガッツリ仕事してるじゃないですか。 言うべき所は言う、守るべき所は守る。 参りましたね。 社会人でもこんな傑物は中々いませんよ。 [気になる点]…
[一言] 愛しの彼女にストーキングされてた(ようにも見える)銀次の心境や如何に!?しかも結構恥ずかしい話もしてたぞ…?さしもの銀次も平静ではいられまい。
[良い点] やめて!後ろの席で、ソラと老師の盗み聞きがバレたら、いないと思って惚気てた銀次の羞恥心が爆発しちゃう! お願い、恥ずか死しないで銀次!あんたがここで反応したら、せっかく諦めた美沙さんに気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ