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俺こいつのダチだから

 スマフォのアラームが鳴り響く。


「うにゃ……寝てた」


 ツナギを着たまま作業部屋の床に横になってモゾモゾと動くソラ。脱皮のようにツナギを脱いでアラームを止めながらシャワーを浴びる。朝食はベーコンと目玉焼き、追加でお手製のピクルスを寝ぼけながら食べる。

 スマフォを確認すると、愛華から連絡が来ていた。流し読みすると昨日自分がソラにしたことは記憶に無いとでもいうように注文が並べられている。もしくは、あれくらいの罰は当然だと言うのだろうか。 


 下着を男装用の物に変えて学ランを着こむ。最近は少し暑くなってきたので、そろそろカーディガンにしようかなとか考えながら鞄を持って玄関を出た。


 商店街前の通りで目つきの悪い男子生徒が自転車の横に立っている。


「おはよう。眠そうだな、ちゃんと寝てんのか?」


「……夢じゃなかった」


 安堵のため息、昨日起きた出来事は現実逃避の夢ではなかったとソラはこっそり安堵した。

 銀次は完全に半袖のシャツであり、涼し気な恰好をしている。


「IINEすれば良かったんだけどな。どうせここで待ってれば着くだろ」


「ボクが女子だったらときめくだろうね」


「そりゃ残念、モテねぇんだよなぁ、こんなに良い男なのによ」


 冗談めかして言う銀次にクスリと笑うソラ。朝の街を二人で歩き出す。

 自転車を押す銀次にソラがスマフォの画面を見せる。


「これ、愛華ちゃんからのIINE」


「あん? 読めねぇぞ」


 送られてきたのは外部サイトへのコードのみだった。


「あ、ごめん。愛華ちゃんからのメッセは全部、アプリ経由なんだよね。ほらこれで見れるでしょ?」


 アプリを起動させて再び差し出す。そこには愛華からのメッセージが読めるようになっていた。


『少しは反省した? 父へ渡す油絵を貴方の家で描いていることにしているから。父に会う事があったら口裏を合わせなさい』


『返答しなさい。明日は帰りにパーティーに呼ばれているから、スピーチを考えること。今月の小テストの予想問題を今週中に渡すこと』


 その下に返信しろとメッセージが続く。銀次は朝から嫌な物を見たとため息をついた。


「……これをスクショすりゃいいんじゃねぇか?」


「誰でも書き込めるものをわざわざデータ化しているからね。僕の自作自演と言われるのがオチ」


「さよか。しっかし、昨日のことがあったのにどうしてこんな態度が取れるのかね」


「今までそうだったし……銀次がいなければこれからもそうだったと思う」


 チラチラと銀次を見るソラ。


「なら、これからは違うって教えてやんなきゃな。だが、まずは地盤固めだ。作戦通りまずはイジメの証拠集めとソラの負担を減らしていく。できれば四季の戦力も知りたい」


「戦力って喧嘩するわけじゃないんだから」


「似たようなもんだろ? 言っとくが俺は普通の喧嘩は弱いぞ」


「……意外だね。目つき悪いのに」


「目つき悪いの関係ないだろ。……そろそろ学校につくな、まずは軽いジャブからいくか。作戦は覚えているな?」


「う、うん。上手く行くかなぁ」


「任せろ」


 学校の前の坂にはそれなりに生徒がいた。その中の一人が銀次に話しかける。


「おはよう銀次。また合宿の時に野球部に飯作ってくれね?」


「いいぞ。それよりも……なんで後ろにいるんだよ。ほらっ!」


 脈絡なくソラを前に出す。


「へぇ、銀次のツレ? 俺は斎藤。よろしく」


「あっ、え、えと」


 初対面の相手には上手く喋れないのか、言葉が詰まる。


「ソラっつうんだ」


「たか、髙城 空です」


「あぁ……四季さんの親戚だっけか? こんど四季さんのプライベートでも教えてくれよ」


 他クラスとは言え、学園で四季 愛華を知らない者はいない。そしてその後ろにいるソラのことも知っている人は多い。


「い、嫌です」


「そっか、じゃあな」


 そう言って斎藤は坂を上る。


「上々だな」


「絶対失敗だよっ!」


「斎藤は馬鹿だから、誰にでもあんなふうなんだよ。次は……田中、おはよう!」


「うわぁ、びっくりした。なんだ銀次か……」


 坂を上りながら銀次が次々に知り合いに声を掛けて回る。いつもと違うのは愛華の影に引っ込んでいるソラが前にでて挨拶をしているということ。結局坂を上り切る前に5人ほどと挨拶をした。

 校門前でソラは疲労困憊である。フラフラと頭をゆらし、カラータイマーがあれば点滅間違いなしだろう。


「半年分は挨拶した気がする。というか銀次って友達が多いんだね……目つき悪いのに」


「目つき関係ないだろ。モテはしねぇが男子の友達は割といるんだよ。とりあえず毎日これな」

 

「……ムリィ」


「千里の道もなんとやら。それよりも来たぞ、アイドル様のお出ましだ」


 坂の下に一台の車が止まる。銀髪をなびかせ、四季 愛華が登校した。すぐにソラを見つけ、一瞬だけだが睨みつける。隣で身をすくませるソラの背中を銀次は優しく叩いた。


「ハハ、ありゃ怒ってんな。大丈夫か?」


「……やっぱり怖いかも。でも、今日は戦うってわけじゃないし。銀次もいるし、何より……ボクだって絵を破かれたこと、怒っているから」


「そうそう、その調子だ相棒」


 ポンポンとソラの頭に手を置いて二人は待ち構える。

 車での登校のはずなのにすでに取り巻きを何人か連れた四季は二人に近づく。


「……おはよう、ソラ。メッセージは見たかしら」


 あくまで楚々とした表情で、親戚に話しかける会話の一つとして愛華は問いかける。


「う、うん。見たよ」


「なら、返答が欲しかったわ。『無視するなんてひどい』じゃない」


 無視の部分を周囲に聞こえるように愛華が言うと、慣れた調子で周囲が同調する。そしてソラが縮こまりいいようにされる。いつもの光景だった。


 だけど今日は違った。目つき悪い男が横にいる。


「もめ事か? 『ソラ』」


 大仰に……ちょっと大根じみた演技で銀次がソラに話しかける。


「う、ううんなんでもないよ。『銀次』」


 下の名前で呼び合う二人。表情は欠片も崩さず愛華は初めて銀次を正面から見た。


「あなた、確か……桃井君、でしたね? 親戚どうしの会話だから心配はいらないわ。それよりも今『ソラ』って……」


「あぁ。俺、コイツのダチだから」


 アイドルは表情を崩さない。が、微かに頬がピクリと震えたのを見て銀次はニヤリと笑みを浮かべた。

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