第3部 流浪のヨーロッパ編 VOL9「魂の曲」 (2004年)
ー流浪のヨーロッパ編 VOL9ー
「魂の曲」
ヴェネツィア 2004年11月
ー前回からの続きー
夜中3時に薄暗いオレンジ色の照明の下で
寝転がってひたすら繰り返し
バクオンで聴く「G線上のアリア」。
なんで俺は涙を流しているんやろう?
生、死、自然、宇宙ー。
ちっぽけな自分がどうあがいても
勝ち目のない絶対的な力強さ、
そして限りなく優しく包み込んでくれる
暖かいものの存在を全身で感じる。
この時俺のアタマの中は一体
どうなってるんやろう?
一切の不安から解放されたような、
「目が醒めた」ような、
春の草原の上をゆったり飛んでいる
臨死体験?を思わせるような、、、、。
感覚が究極に冴えて
「俺というのはこのニンゲンである」、
「まさに今ここに生きている」、
「俺はあの緑、土、空、川と同類である」
などという当たり前であったり、
普段強く意識しないことをビンビン感じる。
時空を超えて子どもの頃から現在までを
妙に生々しく想い出したり、
自分は失敗をしながらも
純粋に生きてきたことを再確認したり、
とてもことばでは表現しようもない
崇高な感覚に支配されるのである。
宗教には興味ないけど
「神を感じる」なんていうのは
もしかしてこういうことなんやろか?
翌日、近所からの苦情(特に隣からの)が
怖かったけどなぜか1件もなかった。
ひとり狂っていたかのような昨夜の
爆音に包まれた1時間を思い深く反省した。
ほーんまに迷惑な話やなあ。
申し訳ありませんでした。
やがてステレオのMD機能が壊れて
この曲を聴けなくなってしまった。
改めてこの曲のCDを買っても
全く違うアレンジでがっかりした。
それ以来気にはなりながらも
数年間聴いていなかったのだった。
ーここでやっとヴェネツィアでの話に戻るー
「あの曲や!!」
背中がゾクゾクして鳥肌が立ち、
心臓が高鳴る。
いつも聴いていたあのアレンジと
ほとんど同じだ。
異国の地で偶然にこれを、
しかもライヴで聴く機会を持てるなんて!!
それも教会は俺にとってまさにこの曲を
聴くのにぴったりの場所かもしれない。
ああ、、、なんて美しい音色なんや。
短い演奏だったけどそれでも
少し涙ぐんでしまった。
はあーっ。
体の力が一気に抜けたような気がする。
こんなに崇高な曲が他にあるのだろうか。
ひとは誰でも音楽であれ、なんであれ、
こんなに特別な刺激を受ける何かを
持っているのだろうか。
魂に触れられるような感覚を経験する機会を
持てることに感謝している。
いつか俺が死んだら葬式なんかしなくても
どうでもいいからぜひとも
この「G線上のアリア」を流して
天に送ってくれえー。