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第61話 研究発表の妨害にあう

「どういうこと?」

「脅迫されたの! もしこの研究を発表したら、この学校どころか学会にいられなくしてやるって! ゴドフリー・レガスにね!」


 ヴィネットはイライラしてそう言った。


「それって、例の学会を牛耳ってるっていう?」

「そう。ゴドフリー・レガスは学長の息子でここの教授。私が査読に出した論文を何処で知ったのか文句を言ってきたの。嫌がらせだよ!!」


 ヴィネットはフンフンと鼻息を荒くしてそう言っていた。

 そのときダレンが研究室に戻ってきた。


「ああ、ニコラ。来てたのか」

「脅迫されたってのは本当?」


 ダレンはうなずいた。


「ゴドフリー・レガスが圧力をかけて論文をなかったことにした。査読していた教授が論文を突き返してきたよ。関わりたくないと言ってね。ただ……私はただの嫌がらせではないと思っている」

「それは、どうして?」


 俺が尋ねるとダレンは頬をさすって言った。


「脅迫なんてよっぽどのことだ。ゴドフリーにはこの研究を発表させたくない理由があるんだよ、きっと」

「僕が昔、あの人を授業で怒らせたからだと思うけど」


 何をしたんだ、ヴィネット。


「私はゴドフリーに抗議しに行ってきたんだ。結果は変わらなかったが、彼の表情に嘲笑はなかった。嫌がらせをして喜んでいる感じじゃないんだ。本当に発表を止めたいみたいだった」


 ヴィネットはそれを聞いて深呼吸をして、イライラを抑えると言った。


「どうしてでしょう? 私の研究にどんな問題が?」

「わからないが、彼、もしくは彼の息子に関わるからかもしれない。ヴィネットの研究が発表されると不都合なんだろう」

「レガス家が研究していることなんてたかが知れているでしょう? 聖属性の魔法について適当な論文を書いてるだけ」


 ダレンは首を横に振った。


「研究じゃない。生活と地位に関わるんだ。彼らが恐れているのは、たぶん聖属性を作り出してしまうことなんだろう」


 それなら納得できる。ヴィネットもそのようだった。


「聖属性の『精霊の血』は見つかっていない。けれどもし見つかってしまえば、レガス家はその地位を脅かされることになる。今までは聖属性の研究で学会にも君臨していたが、それもなくなるだろう」

「だからって僕の研究を……」


 ヴィネットは下唇をかんだ。


「発表には問題がある一度見送ろう」

「諦めるってことですか!?」


 ヴィネットはダレンを失望した目でみた。が、ダレンは首を横に振った。


「そうじゃない。『精霊の血』は他にもある。解析して、新しい結果が見つかれば、他の研究者たちの支持を得られるかもしれない。レガス家の権力は大きいが何十人もの研究者を追放できるほどじゃない」

「そんな簡単に譲ってくれると思いますか? 師匠みたいにみんなお人好しじゃないんですよ?」


 ダレンは苦笑して、論文の一つをヴィネットに渡した。ヴィネットはその論文の作成者の名前を見て顔をしかめた。


「その研究者が土の『精霊の血』を持っている。モイラ・ハリス。彼女は、土の属性について調べている」

「知ってます。でも……」


 ヴィネットは下唇を噛んだ。ダレンはその様子を見てうなずいた。


「そう、彼女は偏屈だし、ケチだ。おそらく『精霊の血』なんて渡してくれない」

「そうです! 無理ですよ!!」

「だが、お前の研究は『精霊の血』を簡単な素材で作れるってものだろ? 食いついてくるはずだ。それにニコラがいる。目の前で証明できる」


 ダレンは俺を見た。俺はその話を聞いて、首をかしげた。


「『精霊の血』が複製できるわけじゃない。アニミウムに拒絶反応が出るんじゃ使えないんじゃ?」

「そうだよ。騙すんだよ」


 ダレンは当然のように言った。


「『精霊の血』が簡単な素材で作れると言って、彼女の目の前でニコラに錫とアニミウムの合金――風の属性を得られるものを投与する。モイラはニコラがアニミウムに耐性があるなんて知らないから、きっと『精霊の血』を差し出してくるはずだ」

「ひっでえ」


 俺はそうつぶやいたが、ダレンは首を横に振った。


「ひどくない! あいつがケチなせいでどれだけの研究が滞っているか!! あいつから『精霊の血』を引っ張ってこれれば5人は研究者を仲間にできる」

「やりましょう」


 ヴィネットは大きくうなずいた。


 どうやらモイラは随分研究者を敵に回している女性のようだった。

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