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第52話 ダレン教授の研究室へ

「下がってください、ダレン教授」


 騎士たちはヴィネットの師匠に言った。ダレンは戸惑った顔でヴィネットに尋ねた。


「まさか……ホムンクルスを連れてきたのか?」

「違います!! 捕まえられるわけないでしょ、あんなの!」


 ホムンクルス呼ばわりされるのは心外だった。俺は土か何かでできている檻を観察した。パチパチ言っているから雷属性の魔法が使われているのかもしれない。


「これは異常値の魔力とアニミウムに反応して発動する魔法だぞ? お前こいつに騙されてるんじゃないか?」

「それにはわけがあるんです!」


 ヴィネットは反論したが、ダレンは半信半疑だった。


「安全が確認できるまで檻の中だな」

「おーい、ふざけんな」


 俺は檻の中心であぐらをかいて座りムスッとしたまま、檻ごと宙に浮べられて運ばれた。近くを通る人がジロジロ見てきてものすごく嫌な気分だった。俺は珍獣じゃないんだ。やめろ。

 そう思っていたら、連れてこられたのが獰猛な魔物が入っている檻の近くだった。まじで珍獣だと思ってるのかコイツら。


 血液を取られ、色々検査され、窓の外から陽の光が消えた頃、俺はようやく檻から出してもらえた。疲れた。

 

「すまなかったな。種族柄色々と警戒する必要があったんだ」

「それも前聞いたけど」

「ホムンクルスはエルフやハーフエルフも食うんだよ。人間より魔力が多くて、属性も持つエルフが食われると色々と厄介だろ? 昔それで大変なことになった」

「それはいいから、もうこういうこと起きないようにしてほしい! 門を通るたびに捕まえられるし、エルフに会うたびに襲われるんだろ!?」


 切実な叫び。


「これをつけておいてくれ」


 ダレンはすまなそうにそのネックレスを取り出した。緑色の石がいくつかついている。


「これをつけておけばハーフエルフと友好があると考えてもらえるだろう。エルフやハーフエルフに会うたびに襲われることはなくなる」

「これで門も通れるの?」

「いや、それは無理だ」


 なんだよ!


「次からは裏から入ってくれ。裏門にその設備はない。ただ許可証が必要だ。これを見せれば通してもらえる。さっき採取した血を垂らして有効化してあるから、君にしか使えない」


 ダレンは金属のカードのような物を俺に渡した。俺が触れると石が緑色に光る。

 俺は悪いことしてないのにどうしてこんな扱いを受けなければならないのか甚だ疑問である。


 その日は無駄な検査の時間に費やしてしまったので、一度学校の外に出て宿をとった。ここが拠点になる。


 アルコラーダで働いているためかヴィネットは金持ちで、結構いい宿をとった。俺も一部屋分金を出してもらったが居心地が悪い。


 そりゃ俺は元貴族だけれどもうこの冒険者生活のほうが俺の生活という気がして、そうなると贅沢は敵で、結局、ベッドではなくソファに寝転がって睡眠をとった。

 明日からランクの低い部屋にしてもらおう。


 翌日ヴィネットはアニーを連れずに待っていた。


「アニーは?」

「買い物を任せた」


 そうですか。

 学校に着くと彼女は普通に正門から入っていったが、俺は裏門まで歩く必要があった。運動は好きなので《身体強化》で急ぎつつもスタスタ走っていって、裏門に着く。


 裏門は門じゃなくて壁だった。アーチが壁の中に埋まっている。後はなにもないし、汚い。常に日陰なのか、苔むしているし、キノコが生えている。絶対客を通す場所じゃない。


 どうやって入るのかわからず、とりあえず金属のカードを取り出して緑色に光らせてみると、シュシュシュとアーチが壁の中で小さくなって、俺の身長くらいの大きさになり、パコンと開いた。


 狭苦しいアーチを抜けると、すぐにふさがって元の大きさに戻っていった。便利なもんだ。


 ヴィネットと合流してダレンの研究室に向かう。塔の一つに向かって、円盤のようなものの上に立つ。ヴィネットが操作をするとなめらかな挙動で上昇し、一つの階で停止した。


 ダレンの研究室は比較的整理されていた。実験のための部屋は分かれていて、俺達が入ると、彼はそちらのドアをしめた。そっちは結構汚れているように見えた。


「それで、どうやって実験したんだ?」


 ヴィネットは説明して、俺は魔法を見せた。

 火と水の混合魔法で水を燃やしてみる。ダレンは感心したようにそれを見ていた。


「アニミウムに耐性がある特異体質か……。どうしてそんなことがわかったんだ?」

「ある人に無理やり注射されて」


 ダレンはぎょっとしてヴィネットをみた。ヴィネットは大きく首を横に振った。


「僕じゃない!!」

「ああ、良かった。犯罪に手を染めていなくて」


 ダレンは本当にホッとしたように言った。


「火と水の『精霊の血』が何でできているのかはこれではっきりしました。他の『精霊の血』についても研究したいんです」


 ダレンは頷くと、奥の棚から箱を持ってきた。中には『精霊の血』が入っていた。


「これは風の属性のものだ。使って調べてみよう」

「いいんですか!?」


 ヴィネットは顔を輝かせた。


「結果も出たしな。以前、火と水の『精霊の血』を渡したときはもったいねえと思ったもんだが、今は違う」

「もったいねえと思ったんですね」

「当たり前だろ。そう簡単に手に入らないものなんだぞ」


 ヴィネットは苦笑した。


「論文については俺が査読に出しておく。一ヶ月くらいかかるかもしれない」


 ダレンは論文を受け取ってそう言った。

 一ヶ月もかかるのか。ローザがやって来るのもそのくらいだろうから、それまでは色々見て回れそうだ。


 そんな呑気なことを考えていた。

 一ヶ月後、その論文に関して面倒なことが起きるなんて知らずに。


 

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