第39話 謎
「ニコラさん!」
俺はビクッと飛び跳ねバッと上を見た。
「こっちです! こっち!」
今度は女の子の声だ。聞いたことがある。
「ミックとシビルか?」
「はい、そうです! あの、ここからおろしてもらえます?」
俺は声を頼りに上を見ていたが、葉に覆われて全く何処にいるのかわからない。
仕方がないので、感圧式魔法を発動して飛び上がり、周囲をみた。
「何処にいる?」
「こっちです」
ようやく見つけた。木の枝が密集している場所があって、そこに二人は座り込んでいた。やつれているようにも見える。
腕が折れたのかミックは枝で応急処置をして抱えるようにしていた。
俺はミックをなんとか背負うと、シビルに弓の姿になってもらい、担いで、地面に着地した。
ミックを現場から少し離れた場所につれていくと、木のそばにおろした。
彼はひどく喉が乾いていたようで、魔法で水を出してやるとごくごくと飲んだ。
「ありがとうございます。助かりました」
「どうしてあんな場所に?」
ミックは折れていない腕で口を拭うと話しだした。
「最初から話します。ニコラさんが森を抜けようと跳んでいった後、僕たちは調査のために森に入りました。その日……つまり昨日は何もなかったんですが、今日はあの化け物と出会ってしまって……」
ミックはホムンクルスを指差した。
「ホムンクルスだ」
「そういう名前なんですね。僕は逃げようとしたんです。騎士や貴族たちがそのホムンクルスと戦おうとしたとき、冒険者たちは皆逃げ出しました。岩の柱を目の前で出されて、勝ち目がないと悟ったんです」
ミックはその時を思い出すように、折れてない腕で体を擦った。
「けれど貴族たちは違った。彼らは無謀にも戦おうとしました。『武勲を上げる』とかなんとか言ってました。僕は属性が使えるからか騎士の一人に引っ張られて取り残されて。……そこにアレがやってきたんです」
アレ?
ホムンクルスではない、アレって?
「アレは突然やってきて、騎士や貴族を食い始めました。ものすごく大きくて、僕の3倍くらいの身長がありました」
「それは……魔物?」
「いえ……わかりません。人の形をしていましたが、体が割れて触手のような物を伸ばして貴族たちを絡め取って食べていました」
俺はそんな魔物を知らなかった。
「僕は、怖かった……。だから騎士の腕を振り切って、魔法を使って逃げようとしたんです。風を使って逃げようと……そしたら、暴発したんです。いつもよりはるかに大きな魔法が出て、吹き飛ばされて、木に引っかかりました。それからは、アレがいなくなるまでひたすら木の上で耐えていました。いなくなってからも怖くてずっとあそこにいました……」
ミックは目を伏せて顔を覆った。
「悲鳴がずっと聞こえていたんです。男の人の悲鳴も女の人の悲鳴も。怖くて怖くて……」
魔法が暴発した?
その現象はアリソンが初めて俺のそばで盾を使ったときによく似ていた。
どういうことだ?
「その、『アレ』は何処に行った?」
「わかりません……あ!」
ミックはぎょっとした顔をして俺をみた。
「どうした?」
「あの、悲鳴の中でニコラさんを呼ぶ声が聞こえていて。それに、『アレ』も何度かニコラさんのことをつぶやいていたような」
「どうして……」
全くわけがわからない。