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第168話 『カタリナ・シリーズ』

 アデプトはセブンスも使っていたし、あいつから少しは説明されたけれど、より具体的にその内容を知ったのはずっとあとのことだった。

 

 あれはいつだったか、半ば強制的にキカに訓練を受けさせられた時の事である。その頃の俺はまだマヌエラに身体を改造されていなかったし、魔法も結構適当に使っていた――適当に使っているのは今もだけど。


 当然のように俺はボコボコにされた。

 

 場所はもちろんデルヴィンの魔法学校。


 思うにあの女はローザを虐めるのに飽きて俺をボコボコにしようと思い立ったのだろう。気まぐれで虐めるんだったら両足にくっついているシニスターとデクスターを虐めればいいんだ。


 利害は一致している。

 地産地消しろ。

 外に持ち出すんじゃない。


 と、いくら言ったところであの女は聞く耳を持たず、《闘気》で身体を包んでいる俺が怪我しないのをいいことに、ぶん投げ、打ち上げ、おもちゃみたいに扱って、



「おねーさんが授業をしてやろう。ちゃんと座れ、殺すぞ」



 ぐったりしている俺にそんなことを言った。

 誰のせいでこうなってると思ってる。

 理不尽極まりない。



「サーバントの奥義、最終地点、それがアデプトってやつだけどよ、お前も聞いたことあんだろ。と言うか体験したか。セブンスとやり合ったんだもんな。……よくそんなので勝てたよな」

「あんたが異常すぎるだけだ。俺は頑張った」

「お前よりもヒルデだろ頑張ったのは。ま、セブンスのアデプトは未完成だったんだろうからな。中途半端同士が戦った訳だ」



 ボロクソに言いやがる。

 セブンスが泣くぞ。



「で、そのアデプトがどうしたって?」

「いや、『七賢人』でサーバント持ってる奴……要するに人間たちはこぞってアデプトを使えるからな。ちゃんと説明しておけって一ヶ月くらい前にトモアキに言われたのをいま思い出した」

「……仕事できない人じゃん」

「アタシに命令するのが間違ってんだよ。アタシに何かしてほしいときはお伺いを立てろ。許可を待て。ひれ伏せ。仕事が出来ないのはトモアキの方だ」

「酷い責任転嫁だ」



 お前はいつから王になったんだ。

 ああ、初めから女王様か。


 女王キカは顎をあげ不必要に俺を見下して、



「と言うことで、お前に授業をしてやる。最後にテストしてやるからちゃんと聞け。一問間違うごとに爪を一枚剥いでやる」

「デスゲームかな?」



 ただ痛めつけたいだけだろ。


 キカの足元からシニスターとデクスターの「いいなあいいなあ」と言う声が聞こえてくる。


 黙ってろ。


 キカはガッと片足ずつ地面を蹴るように鳴らして二人を黙らせると口を開いた。



「アデプトってのは要するに『サーバントと一体になって能力を爆発的に向上する方法』だ。サーバントと心を通わせて、互いに成長することで発動できるようになる。魔力、体力、俊敏性、知覚などなど、あらゆる身体能力が向上して、常人からかけ離れた存在になれる。寿命だって延びる。エルフみたいにな」



 セブンスも確か、百年以上生きてあの若さだったはずだ。


 彼女のアデプトを思い出す。


 本のサーバントから飛びだしたページが次々と宙を舞い、セブンスの全身に纏わりついて、それから、蛹みたいに割れる。羽化したように、彼女はサーバントと一体になっていたけれど……、



「ホムンクルスとは、違うんだよな?」

「そこだよ。ホムンクルスは強制的なアデプトみたいなもんだ。かなりいろんな部分で無理をしているから、アデプトとはほど遠いけどな」

「食われないし、食わない」

「それもあるが、例えば、そう、アデプトによって使えるようになるサーバントの特殊能力は人を食っただけじゃ使えない」

「特殊能力……」



――第一章 爆発

――第二章 反転

――第三章 突貫(とっかん)

――最終章 終焉(しゅうえん)



 セブンスが使ったそれらの技は魔法ではあるのだろうけれど、飛んできた魔法を属性を変えて反射するとか、防御魔法を虫のように食い破るとか、単純な魔法では説明がつかないようなそんな技だった。


 そう俺がキカに説明すると、彼女は鼻で笑って、



「そんなの、アデプトの能力を全然発揮できてねえ。ゴミクズだな」

「……あれで発揮できてないのか」

「あたりまえだろ。そんなのただの魔法じゃねえか。お前の適当な魔法と大差ない」



 俺、それでがっつり苦しめられたんだけど。



「アデプトの能力は『特殊能力』だ。神の力と言ってもいい。他人の姿になりかわる、重力を操作する、相手の視界をのぞき見るなんてのもあったらしい。もうすでに失われたサーバントの話だけどな」

「それは……ヤバいな」

「ああヤバい。マジで常人が太刀打ちできる相手じゃない。一騎当千ってのはこのことだ。で、それをホムンクルスの状態で出来るのがサードってわけだな」

「…………」



 そんなのを相手にしてたのか俺。

 一瞬で握りつぶされたかもしれないじゃん。


 キカはふっと息を吐きだして、



「サードは別格だ。はっきり言ってサードを除いた『七賢人』全員でサードに襲いかかって倒せるかどうかってレベルだ。……いや、これは言い過ぎか。ファーストはエルフだし、『七賢人』には()()がいるからな」

()()って?」



 キカは苦い顔をして、



「シクスス。アイツほどのサーバントの使い手をアタシは知らない。天才だよあれは。常軌を逸してる。シクススはな、どんなサーバントでも契約しちまえばアデプトを発動できるんだよ。どんな無能なサーバントでもな」



 無能なサーバントと聞いてカタリナを思い出したのは俺だけじゃないはずだが、ともかく、たぶん、カタリナであろうとも契約してしまえばアデプトを発動できるんだろう。


 増長するから止めろ。



「ま、アデプトの話はこれで以上だな」



 そうキカはいうと不適な笑みを浮かべて、



「よし、じゃあテストしてやる。全ての爪に今生の別れを告げろ。第一問。全ての『七賢人』の名前を答えろ」

「教えていないことを聞くな!」



 ◇◇◇



 という会話があったのを今更ながらに思い出す。


 あれから数ヶ月経ったいまでも名前は答えられないけれど、シクススが出た時点で全ての『七賢人』が出そろったので状況なら整理できる。



『七賢人』

 ファースト 死亡

 セカンド 死亡

 サード  生存

 フォース 目の前にいる

 フィフス マヌエラがぶっ飛ばした

 シクスス サーバントの天才 生死不明

 セブンス 死亡



 残っているのはサード、フォース、シクススだけで、その中の一人、アデプトによって酷くカタリナに似たフォースを注視する。



「パクリです! パクリですよ!」



 俺の腰にぶら下がるカタリナがうるさい。

 というか、



「あれはお前の片割れだろ。元々一つだったサーバントが分割されてお前とフォースのサーバントに祝福し直されたんだ」

「って事はやっぱり私にもアデプトの才能があるということですね。さすが私」



 やってもいない実績で増長するな。


 しかしカタリナによく似ている。その顔はフォースのものだったけれど服装も髪型も、雰囲気は全てカタリナのものだった。


 明らかに片割れだ。


 問題は……



「そのサーバント、どこで手に入れた?」

「ぬ……盗んだんじゃありませんよ。あ……あああ、あたしが見つけたものです。ルベドから盗んだなんてそんなことはありません」

「盗んだのか」

「だ、だだだ、だって『カタリナ・シリーズ』は最強のサーバントが壊れた後、それを分割して作られたサーバントなんです。ほしくなりますよねえ」

「『カタリナ・シリーズ』? コイツが最強のサーバントから分割された?」



 俺は腰にぶら下がるカタリナを見下ろした。


 フォースは俺の視線を追って。



「や、やっぱりあなたのもそうでしたか。あたしが持っているもの以外で現存するのはそれが最後だと思います。みんな破壊されましたから……ひっどい性格の上に無能すぎて」

「私の事を無能って言いましたね!」



 カタリナが憤慨した。



「ひい! だってそうなんですもん! 最強のサーバントだったのに、分割したらそのどれもが酷いサーバントになってしまったんです。それが解ったのは数年前の事ですけど」



 って事はなんだ。


 ルベド――母さんは俺に最高のサーバントを渡そうとして、あとになってそれが粗悪品だと気づいたって事か。


 なんかいろんな謎が解けてくな。カタリナがこんなに傲慢なのは元最強だったのを引きずってるからか――記憶はないんだろうけど。


 あれ?

 じゃあ……。


 俺はフォースをみて、



「その理屈じゃ、お前が持ってるカタリナの片割れだって、使えないんじゃ?」

「ふ、普通は、そそそ、そうです。でも()()()()()使えるんです。こう見えてもあたしサーバント使うの得意なんですよ。えへへ。そのおかげで最近()()()()()()()()()()()()()()()()()



 あ?


 ってことは、コイツは……、



「サーバントの……天才」

「そ、そそそ、そう呼ばれることもあります。どのサーバントでもアデプトを発動できます。『カタリナ・シリーズ』ほど使えなくても――といっても、『カタリナ・シリーズ』ってアデプトが使えると凄いんですよ。この子のアデプトの能力は他のとは桁違いです。さすが元最強ですよね」



 フォースは言って、空中で何かを掴むようなしぐさをする。そこに細長い棒状のものが現れて彼女はそれをパシッと掴んだ。



「『カタリナ・シリーズ』ナンバー2。形はスタンプ。その能力は『契約』です。『契約』は絶対です。どんなものでもあなたは従わざるを得ないんです。凄いでしょ?」



 フォースはにっと引きつった笑みを浮かべてその棒を俺の方へと向けた。



「さあ、『契約』しましょう! 『契約』しましょう! 内容はもう決まっています!」



 ぴぴっとフォースは棒を振り叫ぶ。



「『契約』! 『あたしと結婚してください』!」

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