第16話 アリソンを見送る
グリフォンの体力が回復するのには一ヶ月を要した。その間、俺とアリソンは今までと同じように依頼を受け続けた。
俺もアリソンも一つランクが上がって、慎ましく暮らせば1年は過ごせるくらいにはお金も貯まってきた。
そして、その日がやってきた。俺たちはグリフォンの巣まで馬車で向かった。アリソンはずっと黙っていて時々俺の顔を見ては目をそらした。
山を登ってグリフォンの巣の目の前に来たときアリソンは立ち止まった。
「どうしたの?」
「ニコラ。あの……」
アリソンは少しためらった後言った。
「髪を一房もらえない?」
「え?」
「何か、ニコラのものがほしいの。思い出せるように」
俺は剣を抜くと髪の一部を切り取った。アリソンはハンカチにそれを載せて大事そうに包んだ。
「ありがとう」
「アリソンのも持っておくよ」
なんだかその方がいい気がした。
俺は彼女の髪をもらうと同じように布に包んだ。
「さみしくなるね…………さみしいよ」
彼女はそう言うと俺に近づいて胸に頭をつけた。コツンと革の鎧の音がした。彼女の腕が俺の背に回った。俺は前と同じようにアリソンを抱きしめた。
すぐにアリソンは離れてしまった。
「だめ。ここにいたくなっちゃうから」
アリソンはそう言って微笑んだ。彼女の頬はぬれていた。
グリフォンはバサバサと翼を広げていた。
『鞍は持ってきた?』
俺は革の袋からそれを取り出した。馬のものよりもずっと大きくて、乗っている人の体を固定するベルトがついている。俺はそれをグリフォンに取り付けてやった。アリソンはまたがると体にベルトをくくりつけた。
「大丈夫?」
アリソンはうなずいた。
『それじゃあいくわよ』グリフォンはそう言って翼を広げた。
「またな、ニコラ!」コルネリアが盾のまま言った。
「ニコラ!」アリソンは叫んだ。
「必ず! 必ずあなたのそばにいられるようになって戻ってくるから!!」
グリフォンが駆け出す。大きな羽が空を切る音がする。風圧で俺は少し後ずさる。
アリソンを乗せたまま体が浮き上がる。
俺は見上げて叫んだ。
「頑張れ!! ずっと待ってる!!」
アリソンは微笑んで、グリフォンにしっかりと掴まった。
彼女たちの姿は遠く空に消えていった。