表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/172

第152話 胸にある箱

「そんなのどうやって見分けたのじゃ?」



 俺より先にマヌエラが尋ねた。

 マヌエラにも解らない方法?

 アルベドはふふんと鼻から息を出して、



「えっとねえっとね、ニッコラだけじゃなくて『ルベドの子供たち』は体内に箱を持ってるの。この胸のところに。まるで心臓を守るように」



 俺は俺の胸に手を当てたけれど、普通に鼓動を感じるだけでなにもおかしなところはないように思える。

 普通、だよな。



「魔力的な箱だからね、触ってもわかんないよ。そしてその姿形を見られるのは、『始まりのホムンクルス』とそれに関わる人間だけ。『ルベドの子供たち』もきっと訓練すれば見えるようになるよ!」



 トモアキはきっと見えているんだろう。

 俺は妊婦の腹の中にあった『箱』を思い出していた。

 あれはトモアキの視界を俺が見ていたから『箱』が見えたんだ。



「で、それがなんじゃ? 他の『ルベドの子供たち』と『ルベドの子』とは何が違うんじゃ?」



 マヌエラが尋ねると、アルベドはにっと微笑んで、俺の胸を指さし、



「ルベド本体によって作り出された『ルベドの子』にはね、胸にある箱に模様が刻まれてるんだ」



 言って、アルベドは服の裾をビラリと持ち上げて、腹部をさらした。そこには六角形の中に三つのMの文字が三角を描くように並んだ図形が描かれている。



「それが、俺の胸の中に?」

「そう! ウチにはそれが見えてるんだよ!」



 マヌエラは俺の胸を凝視して、それでも見えなかったのか両肩をがしっと掴むと、ほとんど顔をくっつけるようにして見ていたけれど結局ダメだったようで首を横に振った。



「ダメじゃ解らん。エルフをもってしても解らんとはな」

「エルフに解らないように作ってあるはずだからね」



 アルベドは言って、俺をみた。



「ニッコラにマークがついてるってことは、ルベド本体に関わりのある奴がニッコラの両親に近づいたってことだよ。だから、つまり、ニッコラの両親に話を聞けば、ルベドの手がかりが掴めるかもしれないってわけ!」



 そう簡単に言うけどな。



「俺はバカ親父に会う気はないし、あったとしても、もう十七年も前の話だろ? 近くにいるとは思えない」

「でももう手がかりはほっとんどないんだよ。だから、ニッコラの親を問い詰めて話を聞くしかないんだよ!」



 俺はもちろん難色を示した。


 バカ親父に会う?

 無理無理。


 会うと考えるだけで胃が痛くなってくる。

 と言うか会った瞬間ぶん殴ってしまいそうだし。

 魔法をつかってこの世から存在を消してしまうかもしれない。


 ただ、まあ、


 母さんの墓参りに行きたいという気持ちがないわけではない。母さんの墓はレズリーの墓地にある。


 ただ、それだけでは、弱い。

 俺は理由を探す。

 で、思い至る。


 そもそも……



「そもそも、なんでアルベドはルベド本体を探してるんだ? ただ会いたいからじゃないだろ? そんなに探してるんなら理由があるはずだ」

「よくぞ聞いてくれました!」



 アルベドは腰に手を当てて、



「と言うか今までの話でニッコラも解ったと思ったんだけどさ、『七賢人』を止めるために探してるんだよ! あいつらウチの作り出したサーバントぶっ壊そうとしてるんだよ! ヒドくない!? だから止めるの! それに『箱』のレプリカを通じてルベドからのSOSもあったし! でも大教会がろくに動かないから抜け出してきちゃった!」

「おい待つのじゃ。聞き捨てならないことが二、三ある」



 マヌエラが額に手を当てて言った。



「まず一つ目じゃ。『箱』のレプリカを通じてルベドからSOSがあったじゃと?」

「そうだよ!」

「おぬし『箱』を通じてルベドと――『箱』の本体と連絡が取れるのか!?」

「もうとれないよ。多分『七賢人』が止めたんだ。だからいま探してるんじゃん」

「そうか、で、その連絡があったのはいつじゃ?」

「最後にあったのはもう五年近く前になるかなあ。『七賢人』たちが十年後自分を使ってまずいことを起こそうとしてるみたいだから逃げだしたいけど、逃げられないから助けてって言ってた」

「なんじゃそのまずいことって」


 マヌエラが聞くと、アルベドは言いにくそうに。



「それは、もちろん、計画の実行だよ」

「サーバントを破壊するのが、後五年後というわけじゃな?」

「うん。でもそれも早まってるはず。調べた限りだとね」



 マヌエラは呻いた。


 空に浮かぶ島、ノルデアではウィルフリッドがホムンクルスの生産を急いでいた。サードは何かとても急いでいて、俺たちに構う時間がないと言っていた。


 マヌエラはしばらく考えていたがまずは質問が先と考えたのだろう、



「で、二つ目じゃ。おぬし、大教会を抜け出してきたじゃと?」

「そうだよ! 今頃、大わらわだよきっと!」

「何しとるんじゃ」



 マヌエラは呆れたように言って、



「解った。おぬしのことは大教会に報告しておく。妾が責任を持ってな」

「よろしくね!」



 アルベドは言ったけれどきっとこれは大変なことなんだろう。マヌエラは大きく溜息をついているし。



「じゃあ、なんじゃ。妾は『ルベドの子供たち』と大教会に連絡を入れねばならぬのでの、ニコラ」



 マヌエラは俺をみて、



「おぬしは故郷に戻るのじゃ。アルベドを連れての」

「うえっ! 決定事項ですか!?」

「当たり前じゃ。おぬしも『七賢人』を一刻も早く退けたいじゃろ」



 まあそうだけどさ。

 理由を聞いて断ろうとしていたのに、俺と利害が一致してしまった。

 畜生。



「解りました。……はああああああ」



 俺は大きく溜息をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ