第151話 名はそれぞれ、アルベド、ニグレド、そして、ルベド
「ルベドって、あの『ルベドの子供たち』の?」
「そうだよ! ルベドの子供たちのルベドだよ!」
俺が尋ねるとアルベドは当然のように頷いたけれど、それではルベドが何のことなのか、そもそも人なのかサーバントなのかすら判別がつかず、俺は首を傾げた。
「全てのサーバントの始祖である『始まりのサーバント』は三体おっての、」
とマヌエラは、補足してくれて、
「名はそれぞれ、アルベド、ニグレド」
「そして、ルベド!」
アルベドが両手を挙げて言う。
そこで繋がるのかと思ったけれどまだ話が整理し切れていない。ええと、
「ルベドは『始まりのサーバント』の一人で、『ルベドの子供たち』のルベドでもあって……ええと、だからつまり?」
「察しが悪いのニコラ。先ほどアルベドのレプリカが大きな教会にはあると話したの。『祝福』の為に必要じゃからと」
「ええ」
「それはニグレドもルベドも同じなんじゃ」
まだ解らない。
「ええと、だから?」
「おぬしは何から生まれたんじゃ?」
俺は眉間に皺を寄せて答える。
「母親から、ですけど?」
「そうじゃったかの? トモアキに何かを見せられたんじゃなかったか?」
俺はあの日、トモアキの目を通してみた妊婦の腹の中を思い出す。
「『箱』……『箱』ですか?」
「そうじゃ。つまりな、『ルベドの子供たち』というのは『箱』の子供たちということを意味するわけじゃ。ルベドこそ『箱』なんじゃよ。そして七賢人が埋めておる各地の『箱』こそ、ルベドのレプリカなんじゃ」
「そういう……ことですか」
ようやく俺にも理解できた。
「七賢人は『箱』のレプリカを作っていて、つまりそれは大本の『箱』を――ルベドを持っていることに他ならないわけですね」
「そうじゃ」
マヌエラは頷いてアルベドの方を向くと、
「そしてそれをおぬしは探しておったわけじゃな。じゃが、あそこにあったのは本体ではなかったがの。キカが連れてきた『ルベドの子供たち』の一人に破壊させたんじゃが、顕現もせんかったしの」
「そっかあ。……ウチは『始まりのサーバント』でルベドと近い関係だからね。どこにいるかぼんやりとだけど解るんだけど、でも、今回あったのはレプリカの方だったのに、ウチが来たってことはさ」
「それだけ本物に近いレプリカだったってことじゃな?」
「そう! あいつらヤバいよ! 本当にヤバいことしようとしてるよ」
アルベドは苦々しげな顔をして、額に皺をあつめた。
ヤバいこと。
俺はキカが言っていたことを思い出す。
――『箱』にはいくつかの能力があるが、その一つがサーバントの消去だ。つまり、人間を排除しようとしているのではなく、サーバントを排除しようとしている。
「『始まりのサーバント』なのに、サーバントを排除するんですか?」
「逆じゃ。『始まりのサーバント』じゃから終わらせられるんじゃよ」
始まりと終わり。
自分たちが作り出したから、自分たちが終わらせる。
「よいしょ!」
アルベドは突然言って足を振り上げて、飛び降りるように椅子から立ち上がった。
「ルベドはここにもいなかったかあ。じゃあどこにいるんだろうなあ。そろそろ手がかりもなくなってきちゃったよ」
アルベドは顎に手を当てて、不意に俺を見た。そして視線をその場で固定して、俺のことをじっと眺め始める。
「えっと……なに?」
「君はええと……マヌエラの腰巾着?」
「ちげえよ!」
「じゃあええと、誰?」
マヌエラが俺を紹介して、
「ニコラ。『ルベドの子供たち』の一人じゃ。身体の中にアニミウムを突っ込むなどという頭のおかしなことをしておる」
「俺がしたわけじゃないんですけど」
俺の頭がおかしいみたいに言うな。
「ふうん、ニッコラ」
「ニコラだって」
「いいの! あだ名なの! ニッコラは『ルベドの子供たち』かあ。ふうん、ふうん」
アルベドはそのあと「ふうん」を十回繰り返して、
「それは面白いね」
「何がじゃ」
マヌエラは問うた。
「それはね、マヌエラ。ニッコラが『ルベドの子』だからだよ。正真正銘本当の『ルベドの子』」
「どういう意味?」
俺は首を傾げる。
「それはね!」
アルベドは俺を指さして、
「ニッコラはレプリカじゃない本体の子供って意味だよ! つまり、君が、次の、手がかりなんだ!」