第150話 レプリカは見たことがあるがの、本物を見るのは初めてじゃな。
「レプリカは見たことがあるがの、本物を見るのは初めてじゃな。そもそもレプリカは人型に顕現せんしの」
椅子に着くとマヌエラはそういった。
俺たちの前で、アルベドと名乗ったサーバントは椅子に座り直して、背もたれに身体を預けている。それで座り直したのかと言われると疑問だが、座面に立っているよりはずっと良い。
俺は足をぶらつかせるアルベドを見て、
「サーバント、なんですか? 契約者いませんよね? なのに顕現してますし、それに魔力が見えるってことはホムンクルスでは?」
「まあホムンクルス、なのかのう? どうなんじゃろうな」
「ウチもわかんない!」
お前はわかんないとダメだろと思ったけれど黙っている。
マヌエラは少し考えると、
「こやつは、こやつ自身が言っておったように、『始まりのサーバント』じゃからの。特別も特別で一般的なサーバントとまったく別じゃ。妾よりも歳をくっておるし」
「え! そんなに? ってことは始まりって、本当に最初のサーバントって意味ですか!?」
「そうだよ!」
と答えたアルベドはずるずると背もたれからずり落ちて、今やほとんど背中が座面についている。
「ウチらがいるからサーバントができたんだよ。そして今も作られ続けてるんだよ。レプリカがいっぱいあるからね」
話が見えてこない。
「そもそもレプリカってどういうことです?」
俺の質問にマヌエラが答える。
「そのままの意味じゃ。こやつと同等の力を持ったサーバントのことじゃな。具体的にはこやつの身体の一部を使ってつくったサーバントということになるかの?」
「それで大体あってるよ!」
アルベドは言って、にこりと笑った。
「ウチはね、特別なサーバントだからたくさんたくさんレプリカが作られてるんだよ。ウチのレプリカがあるから皆が魔法を使えるんだ」
「さっきと言ってること変わらないんですけど、つまり、どういうこと、です?」
俺はアルベドに対して敬語を使うべきかどうか悩んでいたので微妙な尋ね方になる。それをマヌエラが自分への質問だと思ったのか、
「『祝福』という工程があるじゃろ。サーバントを作るにはアニミウムを『祝福』しなければならん。それを行うのがこのアルベドじゃ」
「正確にはニグレドと一緒にやるんだけどね!」
アルベドは補足して、
「『祝福』はほんとはウチの仕事なんだけど、ウチ一人じゃ世界中にサーバントをつくることはできないでしょ? だからウチのレプリカを教会において、サーバントを作ってもらってるってわけ。『祝福』代行って感じ?」
『祝福』ってそうやって行われるのか。
と言うかこんな適当そうなサーバントが『祝福』するだけで命が宿るのか?
半信半疑だった。
でもマヌエラが言うならそうなのだろう。
アルベドは重要なサーバントだ。
じゃあ、
「それで、あの……そんな重要なサーバントがどうしてここに?」
「それは妾も気になっておった。ずっとあの教会におったのか? おぬし、百年近く前には大教会におったはずじゃろ」
アルベドはついに完全に座面に背をのせて上を向いてしまったので、さすがに座り直してから、
「あそこにいたって言うよりかねえ、あそこに用事があって行ったらぶっ壊れてたからギルドに来たって感じかな。でエルフがいるって言うから話をしようと思ったの」
「ほう、その前にぶっ壊してしまってすまんかったの」
マヌエラは悪びれもせずそう言ったが、アルベドは首を横に振って、
「ううん。ウチがやろうとしてたのも同じことだから手間が省けてよかったよ。その感謝を伝えるのが用事のひとつだったんだ。ありがとね!」
親指を立ててアルベドは言って、
「ただぶっ壊すだけが目的じゃなかったから、ぶっ壊したマヌエラには聞きたいこともあるんだよね」
「なんじゃ、おぬしの目的って?」
俺がマヌエラと呼ぶと訂正するようになったのにアルベドには敬称略で呼ばせるのか。まあ自分より年上の相手だからな。逆にマヌエラが敬語を使うべきなのかもしれない。
そう思うとこの部屋の平均年齢って高いな。俺まだ十七なのに、平均とったら絶対百超えるぞ。
とか、俺が余計なことを考えていると、アルベドは答えて、
「ルベドを探してたんだよ」
そう言った。