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第149話 ヒドい目に遭った。

 ヒドい目に遭った。


 ダンジョンの、絶対に近づいちゃいけないだろう場所を見つけるたびにマヌエラは俺の背中を押し、魔物をけしかけて、本人はのほほんと腕を組んで俺を見ていた。


 もう嫌い!


 ギルドにもどってきたときには満身創痍でぼろぼろで、それでもなんとか最後の気力を振り絞ってマジックバッグから目的の素材を取り出し提出した。


 と言うかよくよく考えれば依頼を受ければ良いだけなのでAランクなんて高いランクである必要は無く、CランクどころかDランクやEランクでも良いはずだった。


 そうだよ!

 気づけ俺!


 まあ気づいたところでマヌエラに逆らえるかどうかは別の問題なのだけど。


 とはいえ、魔法の実践練習ができたのは明らかで、俺は昼よりもうまく魔法を使えるようになっていたし、球だってかなり綺麗に作れるようになった。


 マヌエラに言わせればまだまだらしいけれど。



「ま、及第点と言えば及第点じゃの。最初の一歩を踏み出したってところじゃ。技術的なところを詰めればもっと色々使えるようになるじゃろ」

「そうですか」



 俺は疲れすぎてギルドの受付にほとんど突っ伏したまま生返事を返した。



「なんじゃこの程度でバテておるのか、弱っちいのお」

「誰のせいですか! いつ後ろから突き飛ばされるか解らない状態でAランクダンジョンなんか潜ったら誰だってそうなりますよ! なんで穴に落とすんですか! 何で魔物けしかけるんですか!」

「愛じゃよ、愛。いつどこから敵が襲ってくるか解らんからの。常に周りに注意して進む。それが重要だってことを解ってほしかったんじゃ」

「あんな至近距離だと、敵からの攻撃って言うか、仲間からの裏切り攻撃だと思うんですけど」

「長い人生じゃから仲間から裏切られることもあるじゃろ」



 長い人生て。エルフと一緒にするな。



「カタリナに殺されかけたあれ一回で十分です」

「そうじゃったの。災難続きの人生じゃ」



 あんたも含めてな!

 あんたが災難で、あんたが災害だ!


 もう『箱』よりも先にマヌエラを討伐した方が良い気がしてきた。



「あのお……」



 とそこでビクビクしながらギルドマスターが声をかけてくる。



「なんじゃ。妾からまた教育を受けたいのかの」

「違います、違います! 教育ならその子にしてください」



 てめえ!

 俺を生け贄にしやがったな!


 と、ローザをキカの生け贄にしようとした俺は思う。


 もうだめだ。

 負の連鎖だ。



「で、なんじゃ」



 マヌエラはまったく興味が無さそうに、ふんと鼻息を漏らした。



「マヌエラ様にお客様です。いえ、たぶん、お客様だと思います。……解りません」

「なんじゃ、要領を得んの。はっきりと申せ」

「それが……教会から来たと言うんです」

「ふん。妾の潰した教会かの。報復にでも来たんじゃろ。このギルドごとひねり潰してやろうかの」

「止めてください! 絶対に!」



 ギルドくらい壊してもいいんじゃないかと思ってきた。

 俺のこと生け贄にしようとするし。


 ローザを生け贄にしようとした俺のように天罰を食らえば良いんだ。

 ああ、また負の連鎖だ。


 マヌエラは今度は真面目にふむ、と唸ると、



「どれ、どこにおるんじゃ。はよ連れて行かんか」



 言って、ギルドマスターの尻を蹴って歩かせる。横暴ここに極まれりと言った様子で、冒険者たちは怯えたようにマヌエラを見ていた。


 ギルドマスターが通した部屋は最上階にあって、景観もよく、おそらくは彼自身の使っている部屋なのだろう、壁やら棚やらには貴重な素材、特に鉱石の類いが陳列されていて、多分この人は鉱石マニアなんだろうなと俺は思った。



「あれ、どこに行ったかな」



 ギルドマスターは眉間に皺を寄せてキョロキョロと当たりを見回していたが、マヌエラはふん、と鼻息一つ漏らすと俺に対し、



「ニコラ。良い機会じゃ。妾が改造したその目で魔力を感知してみるがいい」

「改造……」



 ギルドマスターがかわいそうなものを見る目で俺を見てくる。むかつく。



「単純に《探知》を使えば良いんですよね?」

「そうじゃ。今までよりずっとはっきり見えるはずじゃ」



 気を失うくらい痛かったんだからそうじゃなきゃ困る。

 俺は見るほうの《探知》を使って当たりを見回そうとしたが、


 うわ、


 マヌエラの身体を見てぎょっとした。


 確かに身体の中に魔力が見える。

 これがローザやトモアキが見ていた景色か。


 それにしても。


 なんだマヌエラのこの魔力。

 これがエルフってわけか。


 彼女の身体の中に見える光はぐるぐるといくつもの輪を作り上げ複雑な模様を描いていたけれど、まったく衝突を見せず、むしろその模様のような流れが次の流れを促進させているようにすら見える。


 全体として完成した作品のようになっていた。



「なんじゃ、妾の魔力を見ておらんで、探すんじゃ」

「いや、なんですかこの魔力。美しすぎる」

「ほう嬉しいことを言ってくれるのう。じゃがまあ、いまは別の魔力を探すんじゃ。ほれ」



 俺は言われるがままマヌエラから目を離して部屋の中を探した。

 長椅子の向こうに魔力が見える。

 俺はそこを指さして、



「そこにいる」

「ああ、見つかっちゃった。そうだよ、ここだよ」



 そう言って、手を上げた客人はどうやら長椅子に寝転がっているようで、その体がここからだと背もたれに隠れていてよく見えない。唯一見えたその腕は、死体かと思うほど白く、不自然に輝いて見える。



「よっこらしょ」



 と言いつつ見えていた腕を振って反動をつけて起き上がった客人は、そのまま長椅子の座面に立ち上がって、背もたれ越しに俺たちを見つめた。


 腰に手を当て、胸をはって、本当に客人なのかこいつと思わせる不遜な態度をとって、彼女は言った。



「別に隠れていたわけじゃないんだよ。ただちょっと寝転がってただけさ。この椅子は良い椅子だね。ウチは気に入ったよ!」



 とか言いながら踏みつけているのはなんなんだろう。


 至る所白い彼女はどこかカタリナを思い出させる風貌で俺の心をざわつかせたけれど、似ていると言えばその程度で、細部は違っている。


 そもそもカタリナは結構背が高かったし、大人びた風貌から俺には冷徹な視線を繰り出して、ライリーにはしなを作って甘え、表面を取り繕って生きることに全力を注いでいたように思う。


 それに対して、この白い客人は、初手から寝転がっていたし、椅子に立っていても俺よりも低い身長で、人を誘惑するには寸胴、と言うより細すぎる。


 見かけの年齢的には十三歳くらい?

 ローザの妹ルビーと同じくらいか少し小さいくらいに見えた。


 マヌエラは腕を組んでその白い客人をみると、



「で、なんなんじゃおぬしは」



 客人はよくぞ聞いてくれたとでも言うようにさらに胸を張って、



「ウチはアルベド! 『始まりのサーバント』が一人! レプリカじゃない、本物のアルベドだよ!」



 そう言ってニッと微笑んだ。


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