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第147話 今度はうまくいった。

 俺は言われたとおり魔力量の加減をしつつ、水の球を作るように調整して魔法を発動した。


 今度はうまくいった。


 頭上に抱えられるくらいの大きさの水の球が浮かんでいる。


 これほどのものを作ってしまうと、やはり、今まで水の球水の球と言っていたのが恥ずかしくなってしまう。あれはただの水の塊だ。



「ふむ。そこそこうまくいっておるの。まだ下手じゃが」

「これでも下手なんですか?」

「揺らぎがあるじゃろ。魔力のムラと言ってもよいがの。球の表面が時折へこんだり膨らんだりしておる」

「そうかなあ?」

「目を治さないといかんようじゃな。妾は得意じゃぞ」

「見えますしっかりと」



 よく見えてなかったけど嘘をついた。

 またわけのわからない人体改造をされるのはごめんだ。

 いや改造じゃないんだったか。



「ま、人間には見えんのかもしれんがの。あ、いや、ローザと言ったか、キカの弟子には見えているんじゃったな。と言うことはおぬしにも見えるということじゃ。と言うことで、改造」



 改造って言っちゃったよ!


 両手をグーにして目潰しをされたような衝撃を受けて、俺の頭が後ろに吹っ飛ぶ。それはもう目潰しではなくて単なる両手パンチだけど。


 またもや気を失い、目を開けるとマヌエラが見下ろしている。俺はさすがに反抗して、



「どうしてこう簡単に俺の身体をいじくってしまうんですか!」

「おぬしに強くなってほしい気持ちが二割、身体をいじくるのが楽しいというのが八割じゃ」

「それは一割でもあってはいけない感情では?」

「冗談じゃ」



 こんなに冗談をいう人、もといエルフだったか?

 まあ以前は業務の一環としてしか接して無かったからな。あと殺されかけたけど。



「おぬしを鍛えるようにキカから言われておるからの。ま、トモアキにも同じように言われてしまっては仕方あるまい」

「あの、そもそも二人との関係って?」

「まあいわゆる共闘というやつじゃの。トモアキとキカが『七賢人』をどうにかしたいと思っておるように、サードをどうにかしたいと思っておるように、妾も『七賢人』には因縁があるからの」

「因縁、ですか」



 トモアキの双子の兄弟がサードであるように、マヌエラにも何か関わりのある奴がいるんだろうか。



「そう、因縁じゃ。知っておるか、ニコラ。七賢人のトップ、ファーストはエルフなんじゃぞ」

「は!?」



 初耳だった。


「妾が倒したフィフスなんてのはの、もう木っ端も木っ端じゃ。正直言うとの、フォースまでは木っ端なんじゃ」

「俺が必死こいて倒したセブンスも……?」

「当然じゃな」



 呪いに必死になってヒルデと共に戦ったのに。

 あれが、木っ端。



「ま、というても妾基準で木っ端というだけであっての、冒険者ランクで言えばどいつもこいつもSランクではあるんじゃが」

「あなたの今の発言は、冒険者のSランクを木っ端と言ったのと同じですよ! 俺はCランクなのに!」

「何じゃおぬしまだCランクじゃったのか。ショボいの。というかそもそも最近冒険者の仕事しとらんじゃろ」

「うっ!」



 最後に冒険者の仕事をしたのはいつだ?


 ええと、ええと。


 ダンジョンに潜ったのが……気球の素材を撮りに行ったときが最後だから……。


 相当前だ。



「ギルドの規定など、昔受付嬢をしていた時に覚えたきりじゃからはっきりとはせんがの」

「ちょっと待ってください、聞き捨てならない。え、ギルドの受付やってたんですか!?」

「この姿のままじゃあるまいて。ちゃんと人間になりすましての、興味本位で受付をやったんじゃ。一ヶ月ほどじゃがの。意外と気づかれんもんじゃったよ。ま、姿を現した時にはギルドマスターが失神したんじゃが」



 何してんだこの人。


 暇なのか。

 暇なんだろうな。


 何百年と生きてるんだろうから。



「話を戻すとの、ギルドではあんまり依頼を受けない日が続くと追放されるんじゃなかったかの?」

「え! マジで!」

「敬語はどうしたんじゃ」



 受付のお姉さんと話す感じになってしまった。

 いや嘘だ。

 俺は受付のお姉さんとも敬語で話している。


 うわあ、うわああ。


 俺、結構活躍したのに!

 街とか救っちゃったりしてきたのに!

 数ヶ月依頼を受けないだけで追放されるのか!



「おぬしそこそこ金を持ってるのではなかったかの? いろんなところで報奨金もらっておろうが。妾の渡したそのマジックバッグにたんまり入ってるんじゃないのかの?」

「いや、まあそうなんですけど……」



 問題はそっちじゃなくて、俺の立ち位置のことだ。職業のこと、身分と言ってもいい。俺は貴族としての身分を失い、川をながれて冒険者となったけれど、



「冒険者ですらなくなったら、今度は何になるんですかね」

「妾の奴隷、ということになるかの?」

「なりません」



 なるわけねえだろうが。

 いつから俺はあんたの奴隷になったんだ。



「実はおぬしの身体を改造するときにちょちょちょっとの、奴隷契約も結んでおいたのじゃ」

「…………冗談ですね」

「冗談じゃない。跪くがよい!」



 と命令された瞬間、俺の身体は意志に反して片膝をついて、頭を垂れた。



「ふっふっふ、いい眺めじゃいい眺めじゃ」

「ほんとに奴隷契約結んだんですか!! ふざけんな!!」

「ま、そんなものはやっておらんのじゃがの。ただ跪くように魔法をかけただけじゃ、ほれ」



 言ってマヌエラは俺を魔法で立たせる。手を右に振ると俺の身体が右に動き、左に振ると左に動く。



「そもそも奴隷契約は禁則じゃからの」

「こうやって身体動かすのだって同じくらいヤバいでしょ!」

「いや、奴隷契約はもっとヤバいのじゃ。闇魔法の最上で、主人を心酔させてしまうからの。身も心もと言うやつじゃ」



 …………聞きたくないことを聞いた。


 ノルデアで国王やら地下牢に閉じ込められていた人間は皆ぼうっとしていてあれはウィルフリッドの闇魔法だったが、それ以上にまずいのが奴隷契約なのだろう。



「ちなみに、ファーストは奴隷契約をつかうことができるのう。というより今使っておるのはあやつしかおらん」



 話を急激に戻すのでふざけてるのか教えたいのかまったくわからない。

 エルフの考えはなぞだ。



「さっきフォースまでは木っ端じゃがSランクの実力があると言ったがの、サード、セカンド、ファーストは別格じゃ。Sランクなど目をつぶってでもひねり潰せるじゃろうよ」



 掃いて捨て、吹いて飛ばせる。

 それがサードの言葉だった。

 俺がCランクであろうとSランクであろうと、きっと、彼にとっては同じだったんだろう。



「ま、妾も何度かSランクをひねり潰したことがあるんじゃが」

「何してるんですか、あなた」

「だってつっかかって来たんじゃもん。妾も当時は幼かったしの。若気の至りという奴じゃ。ちなみにそいつはそのあとギルドマスターをしておっての、妾が忍び込んで受付をやったのはそこじゃ」

「なんつういたずらですか。そりゃあ正体現したら失神しますよ」

「ちなみにそれがこの街のギルドマスターじゃ」

「え! 存命!?」



 っていうか最近の話かよ。若気の至りとか言って突っかかってこられたのせいぜい二、三十年前の話だろ。

 ぜんぜん若くねえじゃん!



「ふむ、ニコラが冒険者ギルド追放の危機とあっては妾も黙ってはおれんからの。どれ、魔法練習がてら一緒にギルドにいって依頼を受けようかの」

「止めてあげてください。今度は心臓止まっちゃうから」

「まあまあ、旧友との再会というやつじゃ。何、今度はギルドの建物を倒壊させたりはせん」

「また冗談を言ってますね」



 マヌエラは黙っている。


 冗談だよね?

 冗談だよね!?


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