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第144話 なんて微妙な走馬灯。

 ドラゴンの卵を孵した際にマヌエラは魔力切れに陥って、結局途中から俺が一人で魔力を流し孵化させたことから解るように、マヌエラの魔力量は俺よりも多くない。


 そこらの人間に比べれば数倍もの魔力を持っているのは確かだけれどそれでも俺の方が魔力量が多い。

 

 つまるところ、俺がマヌエラの圧殺攻撃に耐え続ければ魔力切れに陥るのはマヌエラの方が早く、だから、単純に身体の周りに力の壁を張って凌げばいいだろうと思い込んでいた。


 甘かった。

 俺は常に見通しが甘く先見性のない男だ。


 はじめから全力で来いと言われていたし死にたくなかったので俺はありったけの魔力を注いで壁を作り上げ、圧殺魔法に耐えようとしていた。


 だが、



「嘘だろ!」



 いくら魔力を注ごうとも、マヌエラはその魔力の壁をいとも簡単に粉砕し、そして、壁ごと俺を圧縮しようとしてくる。


 死ぬ!


 と、最後に食べたうまいものの走馬灯を見たあたりでマヌエラは魔法を消して、仕切り直す。


 もっとちゃんとした走馬灯を見たいんだけど。

 いや走馬灯は見たくないんだけどさ。


 俺がぐしゃりとひしゃげた魔力の壁を消して、同じようにぐしゃりと地面に倒れこむと、マヌエラは腕を組んで、



「危機感が足りん。魔力量でなんとかしようとしておる。魔法壁の造形が稚拙じゃ。それから……」



 と、ぶっ倒れたままの俺に十個くらいダメ出しをして、



「いいかニコラ、おぬしに必要なのは精密さじゃ。魔力量で圧殺に耐えようとするのが間違っておるのじゃ。そこをまず改めよ」


「じゃあどうしたらいいんですか?」


「簡単じゃ。球じゃ。完全近い球を作れば、妾の魔法圧力に耐えうる魔法壁を作れるじゃろう」



 球。

 と言われてもな。



「球を作る、というのは要するに、自らの中心、魔力の源から完全に等距離に魔力を配置することを意味するわけじゃ。結局、防御魔法じゃろうと攻撃魔法じゃろうと、その魔力配置によって効力はだいぶ差が出てしまうのじゃな。そこを操れるようになる訓練と言って差し支えないわ」



 キカは俺に、炎で周りを焼き払おうと、仲間を焼かずに火の海にできるみたいなことを言っていた。


 魔力のコントロール。


 それが第一歩。



「次は等距離に魔力を集中して展開してみよ。球を作り上げるのじゃ」



 俺は魔力を体外に流し、球を作り上げる。


 う、歪だ。


 まるで二つ三つとくっついたシャボン玉のようにボコボコと膨れている。


 案の定、マヌエラの圧殺魔法に耐えきれず、それこそシャボン玉のようにパチンと割れて、俺はまた死にそうになる。


 今度の走馬灯は、最後に嗅いだいい匂いだった。


 なんて微妙な走馬灯。



「ふうむこれでダメとなるとどうしたものかのう。エルフであればこのアドバイスでちゃちゃっと成功させるのじゃが」


「俺はエルフじゃありません」


「ま、そうじゃな。おぬしはエルフではない。そして妾はエルフじゃ。その種族間の魔力的性質の差はいかんともしがたいものがある」



 それは、ええと、

 さじを投げたのかな!?



「じゃからの、ニコラ、ここで二つの提案がある。どちらを選ぶかはニコラ次第じゃ」



 ……なんか絞め落とされる前にもキカに二択を迫られたような記憶がある。


 そして片方は、



「一つ、一度死ぬ」


「やっぱりな! 俺のこと嫌いなんですか!? 皆して俺を殺そうとしてくる!」


「二つ、妾がニコラの身体に魔力を流すことでそのおかしな流れを矯正する」



 あれ。

 二つ目がやさしい。


 死ぬよりはずっといい。



「二つ目でお願いします」



 俺が言うと、マヌエラはニッと笑みをうかべた。


 いい笑顔だった。


 怖い。



「よしよし。いい子じゃ。こちらを選ぶなんて、とてもいい子じゃ」



 いいながら、マヌエラは俺の手を取る。


 そっちしか選ばせなかったのになにを言ってるんだあんたはと思いつつ、そう言うってことは、やっぱりこれはヤバいことなんじゃと、手を振りほどこうとする。


 ほどけない!

 力つっよ!



「ニコラ、もう遅いのじゃ。諦めるのじゃ」


「なにをですか! まさか人生を!?」


「それもじゃ」


「他に何を諦めろって言うんです!」


「冗談じゃ冗談。まったく、冗談の通じない奴はモテないんじゃぞ、ニコラ。このこのぉ」



 こういうことを言う人だっただろうか。


 人じゃないけど。


 マヌエラはうふふと笑って、



「さて、言い残すことはないかの」


「やっぱり俺は死ぬんですか!?」


「では、始める」


「ちょっと待ってください! 何その三つあるうち一つ目の願いは失言で叶えたみたいなやつ! 今の言い残すことじゃないんですけ――ぎゃっ!!」



 掴まれた両手が吹き飛んだかと思った。


 実際は、俺の腕が急激な筋肉の収縮で跳ね上がり万歳みたいな形になろうとして、しかし、マヌエラの強固な抑え方で上げることも許されず、逆に身体の方が下を向いただけなのだけど、俺にはマジで両手が吹き飛んだあげく、その影響で身体も後ろに飛んでいったように感じた。



「ううう……うぁ……あ……」



 膝をついた俺はそんな風に呻くことしかできない。


 両腕からの衝撃は肩当たりまで走っていて、腕の中で焼けた鉄が上下にガタガタ暴れているようなそんな痛みが駆け巡っている。



「よし、両腕は終わりじゃな。次は足じゃ」



 拷問官マヌエラは俺の様子などまったく気にせずそんなことをいう。


 まずい!

 まずい!!

 殺されてしまう!!


 マヌエラが俺の腕を離した瞬間、俺は一目散に駆け出した。両腕はぶらんと力が入らず垂れ下がり、たなびく旗みたいに俺の後方に流れている。


 頭の中に生命の危機という信号が鳴り響き、両足は俺の意志と関係なく走る。


 本当に死にそうになったら走馬灯なんか見えなかったよ!


 走馬灯見る前に死ぬかと思ったんだから!


 ショボい走馬灯でも見られるだけマシなのだとこのとき俺は初めて知った。



「とう!」



 と、かけ声が聞こえて俺は背中を二つの足で蹴られ、その勢いのまま前向きに倒れる。使い物にならない両腕は身体を支えることをせず、俺は地面に頬ずりする結果になった。


 頬ずりなんてもんじゃなかったけど。


 というか、ドロップキックしやがったな!



「妾から逃げられると思うたか、ニコラ。妾に追いかけっこで勝とうなど五百年早いわ」


「追いかけっこでドロップキックなんてしないでしょうが!」


「妾の故郷ではする。狩るか狩られるか、じゃ」


「それただの狩りじゃん!」



 俺は敬語も忘れて言った。

 狩りでドロップキックはしないけど。


 マヌエラはドロップキックの直後どうやって体勢を整えたのか、うつ伏せに倒れた俺の背に馬乗りになっていた。



「さて、ニコラ。逃げたおぬしにはキツい罰が必要じゃ」


「や……止めてください、お願いします!」


「なに、罰というても、どうせやらなければならないことを先にやるというだけじゃ。足ではなくて……」



 マヌエラは俺の耳元に口を寄せる。



「頭を先にやろう。なに、一時的に気を失うだけじゃし、その間に他の部分を終わらせておく。いわゆる麻酔みたいなものじゃな。……きっと痛いじゃろうが」



 俺の頭が壊れてしまうだろうが!


 ぎゃ!


 と叫んだ当たりで俺の記憶は混濁している。


 目を覚ましたときには、自分の名前すら思い出すことができなかった、

 なんてことはなく、


 マヌエラへの恐怖が植え付けられただけだった。



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