表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/172

第143話 ここどこ、です?

 俺は俺を殺そうとした奴の顔を忘れない。


 例えばライリー、ゾーイ、カタリナ、馬鹿親父、アルベルト、ゴドフリー、セブンス、ウィルフリッド、サード……あれえ、なんかずいぶん殺されかけてるんだけど気のせいじゃないよねこれ。


 そんなに恨みを買うようなことをしているつもりはないけれど俺は結構殺されかけている。


 マヌエラにも。


 彼女と出会ったのはエントア――アリソンと出会った街であり、俺の始まりの街で、思えばそのころの俺は本当に何も知らなかった。


 ホムンクルスすら、知らなかった。


 キカに「蚊」と呼ばれた空跳ぶ魔法だって編み出していなかったし、何なら、属性魔法だって生まれながらの水属性しか使えなかったし――ヴィネットと出会ったのはマヌエラからの紹介でそこでようやく俺は火属性の魔法を使えるようになったのだった。


 ともかく、俺が多くのことを知るきっかけ、その最初の一手を指したのはマヌエラに他ならない。


 ホムンクルスのことだって示唆していたしな。


 出会い頭に俺を殺そうとした彼女だけれど、それは今思えば正当な行動だったのだろう。こと、箱の存在を知ってしまったいまなら、より強く思う。


 そんな彼女がどうして今ここにいるのか。


 というか、



「ここどこ、です?」


「何じゃ急に敬語を使いおって気持ち悪い。おぬしと妾の仲じゃろ。共に布団に入り、共に子供を作った仲じゃな」


 ドラゴンの卵を孵しただけだ。

 そしてそのネタはすでに俺が使った。


 残念だったな俺の勝ちだ。


 何の話だ。


 俺は咳払いをして、



「敬語なのはさ、ま、最近国王とか領主とかと話すときに敬語なのに、おそらくそれより位の高いマヌエラに敬語を使わないのもどうかと思ったから、です」


「ほう。まあ国王というても、ノルデアの国王は領主みたいなもんなんじゃがの。つまり今まで妾はそこらの領主よりも下に見られていたというわけじゃな。というか、おぬし、エントアにいるときから妾以外と敬語で話しておったろ」


「いや、まあ、はい」


「それについてはどう考えておるわけじゃ?」


「いえ、あの、申し訳ありませんでした。いわゆる若気の至りって奴です」



 あの頃は、廃嫡、注射、川下りという三段跳びもびっくりの裏切りに遭った直後であり、ろくに人を信じられる状況ではなかったので、あんな態度をとってしまったのです。


 と言う内容をかなりの時間をかけてスリスリと手をこすり合わせながらすると、マヌエラは気にした様子もなく、



「ま、どちらでもいいのじゃがな」



 と簡単にまとめた。



「それで、先の質問に答えるとの」


「何を聞いてましたっけ?」


「ここがどこかという話じゃ。おぬしは鶏か」



 そうだった。



「ここはな、まあ街の名前はどうでもいいのじゃが、デルヴィンからはだいぶ離れた場所での、大きな教会がある場所じゃな」


「教会……」



 あの真っ黒な目をしたシスターを……セブンスを思い出してしまう。


 俺の表情を読み取ったのか、マヌエラは、



「心配するのは解る。おぬしがデルヴィンでシスター姿の七賢人とやり合ったのは聞いておるからの。ま、ここのは大丈夫じゃ」


「健全な運営をしている教会なんですね?」


「いや、ヤバかったから潰したんじゃ」



 大丈夫じゃなかったのかよ!



「ちなみに七賢人もいたのでボコボコにしてやった。フィフスとか言ったかの? ハーフエルフのクソガキじゃった」



 マジで言ってんのかこのエルフ。


 俺が必死こいて死にそうになりながら戦って、やっとこさセブンスに勝ったのが馬鹿みたいじゃないか。


 と言うか、さっきから普通に七賢人の話がでているけれど、



「七賢人のことって知ってたんですか? それに『ルベドの子供たち』のことも」


「もちろんじゃ。ま、おぬしを最初に見たときには気づかんかったがの。アニミウムを身体の中に入れておる奴なんぞ見たことがなかったし、魔力の循環も見たことのない形をしておったからの」



 まあ、俺みたいな奴、俺だって今をもってしても見たことがないからそうだろうな。


 そもそもキカに連れてこられた先にマヌエラがいるという状況からして、『ルベドの子供たち』のことを知っているのは明らかだったと今になって思う。


 それで、俺がキカに連れてこられた理由は、



「ええと、死んだ方がマシだと思うような訓練をするって……マヌエラとってことですか?」


「マヌエラ様、じゃ」



 気にしないって言ってたのに。



「マヌエラ様」


「うむ。そうじゃな。これから魔法を教わるという立場上、そう呼ぶのじゃ、ニコラ。妾は教え役、ニコラは生徒役じゃ」



 俺は思い出す。


『やさしい魔法』という書籍を、思い出す。


 エルフはあのやさしい魔法とか言うゴリゴリに難しい本を読んで魔法を習うという。

 第五版ではだいぶ簡単になってはいたもののそれでも俺は未だに一割も読めていない。



「あの本って、エルフは何歳で読むんです?」


「六歳じゃが?」



 長寿なのにその年齢から頭そんなにいいのかよ。


 マジで世界が違う。


 と言うより、そう、種族が違う。


 そんなことを平気でやっている種族に俺は魔法を教わるのか?



「ちなみに人間がエルフから魔法を教わるというのはこれ以上ないほどの幸運なんじゃがの、ま、いつか殺しかけたことの埋め合わせとでも思ってくれるとよいわ」



 殺しかけたことの埋め合わせに死んだ方がマシだと思えるような訓練を受けさせるのか。


 どうしてそんなに殺意が高いのか。



「で、何をするんです?」


「ふむ、まずはそうじゃのう」



 マヌエラは少しだけ考えて、おそらくは俺が一ヶ月かけて考えてようやく出せる結論をたった数秒で出せるその脳細胞をパパッと回転させて、言った。



「とりあえず、妾がおぬしを圧殺する。じゃから耐えろ」



 だから何でそんなに殺意が高いんだよ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ