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第142話 お前の魔法は下手だ

「どうしてこう俺の自由をみんなして奪っていくのか! もっと魔法研究だってやっていたいのに!」


「お前の魔法は下手だ。全部膨大な魔力量で解決しようとしている。鍵のかかった木箱を力ずくで開けようとする脳筋野郎とさして変わらん」


「うるさいなあ、これでもなあ、俺だってなあ、頑張ってんだぞ!」


「文節を分ける暇があったら、結果を出せ脳筋。そうやって遊んでるから、いつまで経ってもお前は蚊みたいな移動しかできねえんだよ」


「遊びからだって発見はある!」


「ふうん。じゃあこのヘッドロックを外してみろよ。魔法で。キカおねーさんがよお。遊んでやるよ」



 それは遊びじゃなくて遊ばれていじめられているだけな気がするんだけど。

 ふふふ。

 だがしかし、こんなヘッドロックなどすぐに外して見せよう。


 俺の魔力量を舐めるんじゃない!


 …………学びがない。

 さっき言われたことをもう忘れている。


 いや、俺だって細かい魔法くらい練習してるんだぞ!


 俺はヘッドロックをされている首とキカの腕の間に魔力を流してそこに無属性の壁のようなものを作リ出す。

 これを広げていけばいいはずだ!



「お前は自分の首を絞めるのか。まあ、とめるつもりはないが」


「とめろよ! 危険ならさ!」


「アタシのことを攻撃しようとするなら止めたけどよ、自分で自分を攻撃する奴は止めねえよ。……自虐が好きなんだろ」


「あんたの踏んでるドMと一緒にしないでもらいたい!」


「じゃあほら、早く外せよ。頑張れ頑張れ。早くしないと絞め落とすぞ」


「ルール変わった!」



 そうだ、発想の転換だ。

 この状態で開こうとするから無理が出る。


 キカに別のところを向かせ集中をそちらに向かせている間に抜け出せばいいんだ。


 影分身の術……は今できないな。ジェナがそばにいない。


 じゃあ、どうしよう。

 爆発でも起こすか。


 俺は近くに人がいないのを確認すると、ちょっと離れた場所に爆発を起こそうとした。


 しかし、

 ふすっ、

 と、空気の漏れるような音を立てて小さな煙が上がっただけで爆発は生じなかった。


 あれ!?

 魔法使ったのに!



「こんなところで訳わかんねえ魔法使おうとしてんじゃねえよ。おおかた爆発させようとでもしたんだろうがよ、アタシを爆発させようなんていい度胸じゃねえか」


「違う! 驚かせてその間に逃げようとしただけで! っていうか何で!? なんで消えたんだ!」


「これが魔力量に頼らない魔法だからだ。技術ってやつだよ。ちなみにこのくらいならローザは半日も経たずにマスターしたけどな」



 差が!

 どんどん差が!


 俺が遊んでいる間にローザはどんどん進んで行ってしまう……。


 いや遊んでいたつもりはさらさらないんだけど、救ったり壊したりして忙しい毎日ではあるんだけど、努力しているかと言えばそうじゃない。


 影分身の術というか《幻影》だって結局はジェナがいないと使えないし。

 俺は漫然と生きて来るものを拒んでいるだけだ。



「怠惰な野郎だよなほんと。お前がもっと魔法を練習して強大な力を手に入れていたらよ、サードとやらを逃がすこともなかったんじゃねえのか? お前あんとき何してたよ」


「…………落下の衝撃を和らげるために、水の球をつくって浮かんでた」


「あとは?」


「《幻影》を作ってウィルフリッドを騙した」


「あとは?」


「…………魔力を流した」


「ざーこざーこ! アタシだったら周りを焼き払うくらいはするね」


「そんなことしたらアリソンたちが巻き込まれるだろうが!」


「だからよお、アタシだったら、仲間を巻き込まずに魔法を使えるって言ってんだ」



 人の魔法を技術で無効化してしまう女だ、そのくらいやってのけるだろう。

 

 というか、なんだかいつもよりもいじめが厳しく感じる。

 その原因は……サードか。


 あの、ええと、



「あの……これはお説教なのかな!?」


「今更気づいたのかボケ! てめえとトモアキの野郎がサードをみすみす逃したことに対する怒りのヘッドロックだ! ちなみにトモアキの首はへし折った」


「殺したな!!」


「嘘だばか。それと同等なことはやったが」



 何をしたんだろう、聞きたくない。



「ともかくだ、サードを目の前にして傷一つつけられなかったお前に、アタシは心底いらついてんだよ。と言うことでお前に与えられた選択肢は二つだ」



 まあ、サード相手に何もできなかったのは事実で、結局俺は、まやかしみたいな方法でしかあの場を乗り切れなかった。


 自分のできなさくらい俺だって解っている。

 二つの選択肢。


 罰を受ける覚悟はできてる。


 キカは口を開いてはじめの選択肢を告げた。



「一つ、生き恥を悔いて死ぬ」



 一つ目がヤバい!



「二つ、死んだほうがマシだと思えるような訓練を受ける」


「俺に生きる道をくれよ!」


「黙れ死人。お前はその拙い魔法しか使えないままサードと出会ったときに本当だったら死んでたはずなんだよ。お前がやったのは『鎧』とか『剣』とか書いた紙を装備して、トレントの前でダンスを踊ってたようなものなんだ」



 そこまで言うか。

 そこまで言ってしまうのか。



「お前が生きて戻れたのは、クソ雑魚過ぎて敵認定されなかったからってだけの話だ」



 俺はサードが言っていたことを思い出す。



――貴様など、取るに足らぬ。我の歩く道に放られ転がった(つぶて)にすらならぬ。

――我の力量であれば、貴様は放っておいても問題はない。必要になれば掃いて捨て、吹いて飛ばせる。それだけだ。



「で、どっちを選ぶ。早く決めろ、殺してしまうだろ」


「二つ目! 二つ目だ!」


「よし、じゃあ首を絞めよう」



 何でだよ!

 俺が反論するより早く、キカはきゅっと俺の首を絞めて意識を飛ばした。


 なんて手際の良さだ。

 今まで何人こうして昏倒させてきたのだろう。




◇◇◇




 次に目を覚ましたとき俺は木の根元で幹に寄りかかるようにして座っている。


 ここがどこなのかまったく解らない。

 風は爽やかで日差しも強くない。


 冬なのになんだかぽかぽかとして、もう一度うたた寝をしてしまいそうになる。


 草原。


 遠くには森が見えて、左手には街が見えるけれど見覚えがない。

 ここは天国で、俺はもしかしたら死んでしまったのかもしれないと信じた。



「あーあ。殺されたんだ、これ」


「殺されてなどおらぬ。まったくおぬしはいつも元気じゃな、ニコラ」



 その声に、俺は驚いて顔を上げる。


 顔に布は巻いていないが、以前と同じく美しい刺繍の入った羽織を身に纏っている、女性。


 尖った耳はヴィネットのものよりも短い、つまり、れっきとしたエルフ。



「久しぶりじゃの、ニコラ。息災だったかの」



 マヌエラがそこに立っていた。


次回更新は土曜です。

新作投稿したのでよろしくお願いします。


『【荒れ地】で育った嫌われ者のDランク冒険者は拾遺者ダイバーとして今日も最下層に潜る』


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