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第139話 しばしの別れ

 で、今に至ると言うわけ。


 俺とアリソン、それからペネロペがもみくちゃにされているのを王はすこし高い場所から見下ろして笑っている。


 どうやらウィルフリッドに操られていた間のことははっきりと覚えていないらしかった。


「ずっとぼんやりとした霧の中を歩いているみたいだった」


 と言うのが王の話。地下牢に閉じ込められていたのは王の側近やウィルフリッドに反対したものたちで、魔力が回復した翌日以降に彼らも治していった。


 もみくちゃにしてくる人間の中にはそこで助けた奴もいて、感謝されるのはいいけれどそれはもはや攻撃だ。


 なんとかひとごみから逃げ出して、広場の隅の方に隠れ、人混みはもうこりごりだと俺が思っていると、


〝人気者だな、ニコラ殿〟


 トモアキの声が頭の中に聞こえてきた。


〝どこにいるんです?〟

〝もちろん隠れているに決まっている。拙者は一応忍びの者だからな〟


 もみくちゃにされたくなくて隠れているだけだろうと思う。


〝あれからサードの足取りは掴めましたか?〟

〝いや、まったくだ。ただこの島にいないのが解っただけでも彼らにとっては朗報だろう。ウィルフリッドの部下たちも皆捕まり、国の上層部はかなり綺麗になったようだからな〟


 あの直後、ビーへ指示してルフとともにサードを探してもらったが見つからなかった。

 しばらくして、一席の船が盗まれているのが発見されおそらくはノルデアからすでに逃げてしまったのだと判明した。


〝また探し出さなければならない。計画はすでに動いているとアイツは言っていた。それが気がかりだ〟

〝あそこで作り出していた新しい『箱』が、また別の場所に埋められるってことですよね〟

〝ああ。そうやって数を増やしてきたんだろう。多量の魔力を集めて、箱を作り出してきたんだ。他の場所でもきっと同じことが起きている〟


 トモアキはそこで俺の前に姿を現した。


「拙者はそろそろ行かねばならない。サードのことも気がかりだが、すでに他の七賢人が問題を起こしているようでね。次の場所に向かうとするよ」

「そうですか……あの……」


 俺は頭を下げた。


「お世話になりました。色々と教えていただきありがとうございました」


 こんな風に頭を下げたのはいつぶりだろうと思う。


 もしかしたら一度だってこんなふうに尊敬を持って感謝を伝えたことなんてなかったかもしれない。


「ああ、またいずれ会うことがあるかもしれない。七賢人がらみで何かあれば念を送ってくれ。拙者ではないものが向かうかもしれないが、使いを出そう」

「ありがとうございます」

「では、達者で」


 トモアキはそう言って消えた。






 しばらくしてアリソンがやってきて、いくつか言葉を交わしたあとふとウィルフリッドの話になって、アリソンは言った。


「元はちゃんとした役人だったんだって。でも道をふみはずした」

「それはサードに出会ったから?」

「それもあるけど、結局、ウィルフリッドは自分にも魔力が少ないっていうコンプレックスがあったんだと思う。闇属性の魔法を使えた彼は、結果を出すには多くの魔力が必要なのに、それがなかったから」

「だから、サードの甘言に引っ張られたってことか」


 ウィルフリッドが魔力を手に入れてそれから何を成し遂げたかったのか今となっては知るよしもないけれど。


 結婚式は着々と進行している。といっても、この式はすでにいろんなものがごっちゃになった祝い事になっていて、ペネロペの結婚だけでなく、ノルデアが救われたこと、ウィルフリッドに闇魔法をかけられていた王や一部の部下が戻ったことなどなどを全員で祝い騒ぐ場になってしまっていた。


 アリソンは微笑みを浮かべてペネロペの方を見て、それから、


「ニコラはこれからどうするの?」

「これからか。とりあえずクロードを迎えに行かないと。借金地獄になっていると困るし」

「ああ、それは大変だね。……七賢人については?」

「サードは逃げてしまったし、箱についても俺は見つけ出せるほど情報網を持ってないからなあ。……一つ気になることと言えば、クソ親父が誰から薬をもらって、母さんに投与して俺を『ルベドの子供たち』に変えたのかを知りたいってことだけど……。死んだと思われていた方がいいような気もするしな」

「……でもそれは私もそう。父と母が誰から薬をもらったのか話を聞きたい。でもあんまり話してくれないかもしれないし、個人的にあんまり話したくないんだよね。特に父。ジェイソンも何か知ってるのかな。でもそもそも行方知れずだから」

「そうだよなあ」


 けれどそれが一つ俺の周りの手がかりではある。

 全ての精算をするのであれば、クソ親父に会う必要があるのかもしれない。


 でもなあ、


「話になると思えねえ! あの馬鹿は一方的に自分の話しかしないからな!」

「使用人は? 貴族ならその、常にそばにいる執事みたいな人がいたんじゃない?」


 いた。


 けれど、俺が病弱でなにもできず、死にそうになっているのに何も手助けしてくれなかった執事でもある。


 馬鹿親父に命令されていたのか、それともただ薄情なだけなのか解らない。


「アリソンはどうするんだ?」

「私は、もう少しここにいてから下に戻ろうと思う。ここが第二の我が家になっちゃったからね」

「そっか。じゃあまた少しだけお別れかな」

「うん。でもきっとすぐに会えるよ」




 アリソンが言って、俺は微笑んだ。




次回更新は土曜日です。

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