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第138話 結婚式

「こちらアリソン! このたび島を救ってくれた英雄の一人よ! ほらアリソンこっち来て、私の友人なんだから!」


 と、この島の姫ことペネロペがアリソンを呼んでいるのを俺はぼけっと眺めている。

 城の外にある庭と言うか広場と言った方が正確なこの場所には多くの人が集まり料理が並び、わいわいと笑顔が飛び交っている。


「眺めてないで助けてよ! っていうかニコラも英雄でしょ! ほら一緒に来て!」


 アリソンが言った瞬間、俺の方へばっと視線が向く。


「ジェナ逃げるぞ」

「私は逃げない! だって英雄だから! わーい!」


 薄情なジェナはアリソンの方へと駆け出して、俺は後ろから押されてもみくちゃにされる。握手を求められて体をベタベタ触られて、しわしわのばあちゃんに「魔力を恵んでくだされぇ」と懇願される。


 これ姫の結婚式だろ!

 カオスすぎる!






 あの後、俺たちはルフに連れられて魔石の部屋を脱出し、城へと戻ることができた。

 すでにビーが報告していたのと、ケイトがペネロペの婚約者にして今回の花婿ロジャーをたきつけて行動していたので多くは順調、ウィルフリッド陣営も次々に見つかり、外の世界ではケイトが大活躍していたようだった。


「え! ケイトってロジャーの祖母だったの!?」


 城にたどり着いた直後、アリソンはその事実に驚愕して、目をぱちくりさせ、


「どおりでずいぶん内側の郭に住んでいると思った。周りは偉い人ばかりだったのにぽつんと住んでいておかしいなとは思ったの」

「ええ。でもアリソン。私は身分を明かさなくてよかったと思っているわ」


 ケイトは微笑んでアリソンに言った。


「あなたは身分など関係なく私たちと良好な関係を築いてくれた。私はもう城のいがみ合いとか、ごまのすり合いにうんざりしててね、だから隠居をしていたんだけれど、あなたと出会ってからの毎日はとっても楽しかったわ。自然体のあなたが私は大好きよ」


 アリソンはとても嬉しそうに笑った。


「アリソン!」


 城から駆けてきたのは肘当てをした女性でアリソンに飛びつくとわんわん泣いた。


「ごめんねごめんね! すぐに助けられなくて! 私も身動きがとれなくて」

「ええ。大丈夫ですよ。ペネロペ様」

「敬語はやめて! まさか助けなかったから!? そういうことなの!?」

「違うよ、ペネロペ」


 アリソンは苦笑した。


 俺はそこで初めてこの女性がペネロペという名前だと言うこと、この島――と言うよりこの国の姫で、ロジャーと婚約していることを知った。


「ペネロペは地下牢のこと報告したら捕まったの?」

「その前にウィルフリッドに見つかって部屋に軟禁されちゃった」


 あの地下牢にアリソン以外にも人が捕まっていたのは知っていた。そして彼らがぼうっと陶器みたいな目をして寝転んでいたのも。


 俺がそう考えているとトモアキが口も開かずに、


〝あの囚人たちは闇属性の状態異常魔法をかけられていたんだろう。誰がかけたのかまではわからないが〟

〝あれも闇属性なんですか? ってことは光属性の魔法をあてれば回復するってことですよね〟

〝ああ。アリソン殿を見つけた直後は時間がなかったのと魔力を温存したかったために治さずにいたが、魔力が回復したらすぐにでも助けた方がいいだろうな。彼らもおそらくは被害者だ〟


「アリソン」


 俺がトモアキから聞いたことを話すと、ペネロペ共々彼女は驚いて、


「あれ闇属性の魔法でああなってたの!? じゃあ王も誰かにやられてたってこと?」

「ウィルフリッドよ。闇属性の魔法を持ってる側近はアイツしかいなかったから」


 ペネロペは言って下唇を噛んだ。


 アリソンは俺に近づくと、

「ニコラお願い、王の魔法を解いて。もう何年もぼうっとして、まるで操られてるみたいなの」


 俺はそれを聞いて今度はトモアキを見た。


〝結局、ノルデアの王自身がホムンクルス作成を指示していたわけではないみたいですね〟

〝ああ。全てサードとウィルフリッド、そしてその部下たちの犯行だ〟


 俺はアリソンに視線を戻したが、

「今は魔力切れだ。それはアリソンもそうでしょ。すぐにはできない……」

『魔力なら少しあるわよ』


 ビーがやってきて言った。


『それにこの島には魔力自慢がたくさんいるんでしょ? サーバント越しなら魔力の受け渡しもできるはずよ』

「それは、そうかもしれない」


 俺が言うとペネロペは一番星みたいにぱっと顔を輝かせて、

「そうと決まれば魔力自慢を集めてこないとね! 自慢するだけしてろくに使ってないんだから!」


 ペネロペは言って走って行くのをアリソンとともに俺は見て、

「なんかトゲのある言い方だったね」

「魔力至上主義者があんまり好きじゃないの、彼女」


 アリソンは言って苦笑した。


 すぐに王の謁見の間に集められた魔力自慢たちがサーバントを持って俺の周りにぞろぞろと集まる。


 容易に想像できることではあるのだけどサーバント越しに魔力を流すというのはつまり、俺がサーバントでつつかれるということであり、斧やら小刀やらを向けられている状況はまるで俺が大罪人であるかのようで不愉快だった。


 っていうかこれ、ジェナだけやればいいんじゃねえのか?

 俺がここにいなきゃならない意味がわからない。


「表面積の問題だよ。私一人じゃサーバントをくっつけられる面積が少ないでしょ」


 人型に顕現し、魔法を使うために俺と手をつないでいるジェナは言ったけれど、

「あと、私だけがこんな状況になるのは癪だから」

「俺、道連れかよ」


 ただ魔力がじわじわと流れてきているのは確かで、すでに魔力切れの症状は改善済み、充分に魔力が溜まったあたりで、ジェナに魔力を流して、光魔法を使ってもらう。


 鎮座する王の目の前にふわりと光の輪が出現し、王を囲んでそして、広がり、包む。


 光はまるで王の胸に吸い込まれるようにふっと消え、一瞬あたりは静まりかえった。


 誰もが王をじっと見つめている。


 うつむいていた王がゆっくりと顔を上げた。


 目には光が、顔には生気が戻っている。


「どうした? 皆集まって。祝い事かな?」

「お父様!!」


 ペネロペが駆け寄ってきて王に抱きついた。

 王は驚いてはいたが彼女をしっかりと抱きとめた。


次回更新は土曜です。

新作『竜源刀・七切姫の覚醒』を投稿したのでよろしくお願いします。

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