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第136話 崩壊

「アリソン、ちょっと俺姿消すけど気にしないで。もし箱の根が少しでも開いたらその隙に盾をねじ込んで開いてくれ」

「え? なにどういうこと?」


 アリソンが困惑気味に言う中、俺はジェナに魔力を流して姿を消してもらう。同時にジェナから光属性の魔力をもらうと、《幻影》――すなわち、影分身の術を使った。


 根の向こう側に。


「何! いつの間にすり抜けたんですか!?」


 壁とも言えるほど密集した根の向こう側でウィルフリッドが叫んでいる。影分身の俺は喋ることがないし、それにわずかに身体が違うはずだが、ウィルフリッドは気づいた様子がない。


 ま、俺のことをそんなにはっきりと見る時間なんてなかっただろうから、ちょっとの違いは許容範囲だろう。


「耳が四つ!? どんな術ですかそれは!」


 ウィルフリッドの悲鳴が聞こえる。どうやら向こう側で現れた俺の影分身はおかしな形になっているみたいだった。


「ニコラほんとに下手くそだよね」


 ジェナの呆れた声が鎧の下から聞こえてくる。


「仕方ないだろ見えないんだから」


 しかしその異様とも言える外見が功を奏したのか、ウィルフリッドは多分に警戒して、箱からのびる根を影分身の俺の方へと動かし始める。

 多分、今影分身の俺は根にぐるぐる巻きにされて捕らえられているだろう。

 代わりに明らかにこちらに作られていた壁のような根の塊が緩んでいく。


 好機。


 アリソンが盾を隙間に突っ込んで一気に開くと、根が隙間を閉じる前に俺とテディ、そしてアリソンが次々と向こう側に移動した。


 ウィルフリッドは掴んだはずの俺の影分身が消えたのをみて、


「どこです!? どこに行きました!?」


 と慌てていたが、その視線がついにアリソンたちの方を向くと、ぎっと睨みつけた。


 俺の姿はまだ見えていない。

 ウィルフリッドまでの距離は――箱までの距離はもうわずかだ。

 俺は駆け出して、ウィルフリッドに蹴りを入れようとした。


 が、


「そういうことですか」


 彼は見えないはずの俺の存在に気づいて即座に根をのばし、俺の身体を縛り付けた。

 俺は姿を現す。


 どうして……?


「足元をご覧なさい」


 俺が驚いているのを見たウィルフリッドが言って、俺は締め付けられながらも首をなんとか下に向ける。


 足跡。


 俺の水浸しにした石造りの地面に、らせん階段が崩れ落ちた時に生じた欠片や砂が舞い落ちて泥のようになっている。俺の足跡がそこにはっきりと付いている。


 ここに侵入したときは地面がただの石造りで、足跡を気にする必要がなかったから完全に忘れていた。


「あなたもサード様と同じことができるのですね。では、先ほどのは《幻影》と言うことでしょうか。まったくあなたも忌々しい!」


 さらに身体が締め付けられる。俺は《身体強化》と《闘気》で身体を守ったが、それでも強く圧力を感じる。


 そのまま、奴は俺を投げ飛ばして壁にたたきつけた。ガラガラと瓦礫が崩れ落ちて、俺はそこに埋まってしまう。


「ニコラ!」


 アリソンの声が聞こえる。


《闘気》のおかげで怪我はない。が、抜け出すには時間がかかる。

 身体の周りに無属性の力の壁をつくって外側に押し出すようにして抜け出そうとするも次から次から瓦礫が降ってきて、それを抑えこむ必要にかられる。


 ようやく外に出たとき、アリソンは、その場にしゃがみこんでいた。苦しそうに胸のあたりを抑えている。ここに来て魔力中毒症がぶり返してしまっているらしい。


 テディが魔物に命令してウィルフリッドを襲わせたが、箱から伸びる根で簡単にあしらわれてしまう。


 ここで俺が魔法を爆発させればウィルフリッドを吹っ飛ばせるだろうが、同時に周りのらせん階段さえも崩してしまいそうだった。


 ウィルフリッドは勝ちを確信して、


「おとなしくなりましたね。ずいぶんと。ようやく私の仕事ができます。あなたたちはそこでおとなしく崩れ去るこの島を見ていなさい」


 箱を抱え込むようにして、ウィルフリッドは命令した。


「島を崩しなさい!」


次回更新は土曜日です。

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