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第133話 人工魔石のもとへ降りる

 塔の内部であるかのような曲面を描く壁に貼り付くみたいに、らせん状の階段が下に向かって続いている。アリソンは辛そうではあったけれど、身を奮い立たせるみたいに咳払いをして、小声で内緒話をするように、

 

「大丈夫。最初は失敗しちゃったけど今度は止める」

「何で最初に来たときもっと人を連れてかなかったんだ? それこそテディを頼ってもよかったんじゃ?」


 俺も下に聞こえないように小声で尋ねるとアリソンは首を横に振って、


 「だってここには重役しか入れなかったから。私だってペネロペと一緒に来て初めて降りられたんだよ。それに『箱』のことなんてしらなかったから、なにかあるって確証があったわけでもないし」

「そもそもアリソンにはそんな考えなかったろ」


 コルネリアが盾の姿のまま続ける。


「本当にただ調べるだけだった。戦闘するなんてほっとんど考えてなかったからな。と言うよりウィルフリッドが降りてくるなんて思ってもみなかったし」

「運が悪かったんだな」


 俺が言ったのを聞いていたのかトモアキは、


「『ルベドの子供たち』で運の悪くない者などいない。そもそも生まれからして運が悪い」

「これから戦闘するのに運が悪いとか言わないでください」

「ニコラ殿が先に言ったんだが」

「水掛け論ですね。水掛け論は得意ですよ。俺は水の属性を持ってますから」

「だからなんだ」


 知らん。俺も俺の口が何を言ってるのかわからん。


「そろそろだぞ」


 下から戻ってきた羽根の付いた魔物の斥候を撫でながらテディが言って、一気に緊張が走る。


 トモアキは俺を見ると、


「拙者とニコラ殿が姿を隠して先に向かおう。テディ殿とアリソン殿は様子を見つつ後ろから付いてきてほしい」


 俺たちが頷くのを見るとトモアキは思い出したように、


「そうだひとつ注意しておかなければならなかった。『箱』から伸びる黒い根には触れるな。もしも『箱』を操作している者がいれば一発でバレてしまう」


 俺はうなずき、鎧の下に隠れていたジェナに言って姿を隠してもらう。俺は足音をなんとか消せるからいいものの、テディとアリソンはそうも行かず、ゆっくりとした足取りで後ろから降りてくる。


 すでにトモアキの姿は見えない。俺は慎重に一段ずつ降りていく。


 そのときだった。


「サード様!!」


 明らかに慌てた男の声がしたから聞こえてきたかと思うと、ぐらりと今までにないほどの衝撃で下から突き上げられ、同時に壁にヒビが入っていくのが見える。ヒビはらせん階段すらも走り抜け、頭上からボロボロと石の塊が降り注いでくる。


 地鳴りが止まらない。


 どうやらジェナは驚きのあまり俺を隠すのを止めてしまったらしい、アリソンが後ろから俺の腕を掴んで必死に揺れに耐えている。


 が、それもほんのわずかな時間だった。

 俺たちの足元にまでヒビが到達し、らせん階段が崩れ落ち始めた。


 まずい。ここでは跳べない。

 そもそも鞘がマジックバッグに入ったままだ。


 足場がなくなり、ふわりと内臓が浮く感覚に背筋が凍る。

 アリソンとコルネリアの悲鳴がハーモニーを奏でる。


 頭の中でいくつもの回避行動を考えて、俺は巨大な水の塊を足元に出現させ、その中に全員を飛び込ませることにした。


 ざばん、と次々に水に飛び込む音がして、浮力によって身体が浮かび、落下の衝撃が完全に和らぐ。水の球は宙に浮いていて、その中で俺とアリソン、テディが浮かんでいる。


 あれ?

 今思えばこれを使えば鞘なんか使わなくても宙に浮けたんじゃね?

 新しい発見だった。


「必要は発明の母だな」

「言ってる場合!?」


 アリソンが溺れ気味に犬かきをしながらつっこむ。その隣でテディが溺れている。


 俺は自分たちが浮かぶ水球を下方に移動させて、ぱっとその形を崩して着地した。形を崩したというのは要するに、水をそのままあたりにぶちまけたと言うことで、巨大な魔石と箱の周りにいた数人が押し流されていくのが見えた。


「先制攻撃成功、かな?」

「いや、そもそもここに落ちてきた時点で向こうの先制攻撃が成功してる感じだと思うけど」


 ジェナが俺の鎧の下で言う。


 俺がいつものように水浸しの身体を火と風の合成魔法で乾かしていると、アリソンとテディが咳き込みながら立ち上がり水浸しの身体を見て顔をしかめた。


「もっといい方法なかったの!? ないよね!? ニコラはマッドモンキーだもんね!」

「それは俺に猿並みの脳みそしかないってことかな!?」


 とか、アリソンにしては珍しく皮肉を言う。


「俺だってとっさの行動だったんだよ! 怪我をしてないだけましだ!」

「ルナが水を飲んだでしょ! 死ぬところだったんだよ!?」

「それは…………悪かった」

「私たちも乾かして! 早く!」


 すみませんでした、の意味も込めて俺は念入りにアリソンたちを乾かしながら、トモアキはどこに行ったんだろうとあたりを見回す。


 その間に、魔石のそばにいた連中が立ち上がって俺たちを睨んでいた。


 突然水浸しにされてそりゃ怒るよな。


 でも俺だって突然足場崩されたら怒るんだぞ!

 お互い様だぞ!


「は。混合魔法を使う人間であるか。貴様、ハーフエルフではなかろうな?」


 ものすごく近い距離で声が聞こえ、驚いて振り返るとそこには一人の男が立っていた。


 短く切りそろえられた黒髪には、線でも引いたように額から後頭部にかけて白髪の列が並んでいる。服はトモアキのものとそっくりで、しかし、顔はトモアキとは似ていない。


 いや似ているのだろうが、その雰囲気がまったく異なるせいか別物にしかみえない。

 生に執着し、他の生に無頓着な、冷たい表情。

 トモアキとは似ても似つかない。


「ケイ…………」


次回更新は土曜日です。

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