第130話 トモアキの過去2
生きることに対して意地汚い、と自ら言ってしまえるほどの家だけでも敵にしたくないのに、その全てを一人で崩壊させた奴が『七賢人』にいるなんておかしな冗談にしか聞こえない。けれど事実なんだろう。
「お兄さんの言う『正しい道』って……」
「サーバントを使わずに魔法を使える種族のみが生き残る、七賢人の理想そのものだ。ケイは人間を毛嫌いしていたからな。一方で、ハーフエルフや獣人なんかの友人が多かった。ケイは多分最初から彼らのようになりたかったんだろう」
俺はかつて寝込んでいたときに自分も獣人やハーフエルフみたいに魔力を循環する器官があればいいと考えていたのを思い出した。それと同時に、一つの疑問が浮かぶ。
「トモアキさんもお兄さんも『ルベドの子供たち』だったんですよね? どうして俺みたいに魔力中毒症にならなかったんです? と言うより今だってそうですよ。サーバントと契約しているのはわかりますけど、そんなにしょっちゅう魔法を使っている訳じゃないでしょう?」
カタリナと契約していても俺は魔力中毒症を悪化させていた。まあカタリナは魔法が下手くそだったからそんなに魔力を消費できていたわけではないけれど、それでも、対するトモアキは別にアニミウムのブレスレットをつけている訳でもないし、灯台よろしく日がな一日海に向かって光を放出し続けている訳でもない。
「魔力を抑える方法は二つ……いや、ニコラ殿の方法も含めれば三つある。一つは先日の夫婦の子供のように、『ルベドの子供たち』が生まれる前の箱に魔力を抑えるよう命令する。薄々気づいているだろうが、『ルベドの子供たち』は箱に対して命令ができるからな。ただしこの場合、生まれてきた子供にはほとんど魔法が使えない。二つ目は、ニコラ殿の方法だが、まあこんなことをするのは頭がおかしい奴なので割愛する」
頭がおかしかったのは俺じゃなくてバカ親父とカタリナだ!
「わかったわかった。で、最後の方法だ。これが拙者とケイ、それに拙者の多くの仲間が行った方法だな。生まれる前に魔力を制限されるわけでもなく、体にアニミウムを入れる訳でもない。ただ教えてもらわなければなかなかできない方法ではある」
トモアキは自分の胸に手を置いた。
「箱から生まれた『ルベドの子供たち』は同じくして体内に箱を持っている。外側の箱に命令ができ、そして、繋がりをもてるのはひとえにその体内の箱同士が繋がりを持つからに過ぎない。そしてそれこそが魔力の発生源なんだ。だから拙者たちは人間であって、サーバントであって、つまり箱なんだ」
俺も自分の胸に触れた。箱が体内にある? またよくわからない話になってきた。ローザは俺の中にある魔力を見ていた。箱の形をしていたんだろうか?
「箱と言ってもその形を取っている訳じゃない。概念的というよりそういう性質があると言うだけの話だ。とにかく拙者たちの中に箱があるのであればそれに命令すればいい。自分でな」
「じゃあ、つまり、体内に箱があることを理解して、魔力を抑えるように命令するってのが第三の方法ってわけですか」
「そうなるな。といってニコラ殿がやる必要はないだろう。今でも充分生きていけているし、それに複数属性を使える人間というかなり希有な存在になっているからな」
「でもその方法、もっと早く知りたかったですよ」
「まあ、それは、拙者たちの仲間が見つけ出せなかった責任がある。すまなかったな。ある程度、監視をしているつもりではあるのだが、全てを監視し続けられている訳ではない」
それは確かにその通りだろう。俺の住んでいた場所は田舎だったし。
ただ、それをふまえて考えるとどう言う経緯で俺は『ルベドの子供たち』として生まれることになったんだろう。あのバカ親父に一度問いただす必要がありそうだけど、会いたくないな。
俺がうんうん考えていると、トモアキが腕を組んで、
「話がわき道に逸れすぎてしまった。元に戻そう」
「何の話をしてましたっけ」
確か、トモアキの家の話をしていたんじゃなかったか?
「ちがうちがう。我が家に伝わる卑怯な技、《幻影》を教えてやろうという話だ」
そうだったそうだった。すっかり忘れていた。
◇◇◇
で教わったのが《幻影》である。俺はジェナに合図をして、光の魔力を流してもらいつつ、イメージを固める。
〝行くぞ!〟
トモアキの声がして、俺たちは駆け出す。
次回更新は土曜日です。