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第129話 トモアキの過去

「ニコラ殿に光魔法の術を教えた方がよさそうだ。もちろん、ジェナ殿にも一つ教えておこう。きっと何かの役に立つ。二日も時間ができてしまったからな。練習はできるだろう」


 船に忍び込む日の二日前、海岸でトモアキはそう言った。


「ニコラ殿には《幻影》を教えよう。我が家に伝わる由緒正しき魔法だ。伝統を重んじて大切に使うように、と言いたいところだが我が家はすでに壊滅しているので好きに使っていい」

「言ってることがむちゃくちゃなんですけど」

「仕方がないのだ。そもそもがむちゃくちゃな話なのだからな。拙者の家は故郷では名を知らぬ者がいないほど地位も権力も持った家だったのだが、ある日ある一人の人間によって壊滅してしまった。拙者はその生き残りという訳だな。家に伝わっていた技はいくつかあるが、すでに崩壊した家の技だから、好きに使ってくれていいし、むしろ使ってくれた方が、我が家が生きた(あかし)になる」

「そういうものですか……。家から追い出された俺にはよくわからない理屈ですね。まあ俺の家には受け継いだ技とか全然ありませんでしたし、あっても教えてなんてもらえませんでしたけど」


 あのバカ(おや)()の性格からして、技なんて受け継いでいたとしても、自分勝手に解釈して適当なものに代わってたんじゃないか? 何世代にも渡る伝言ゲームはバカ(おや)()のせいで伝わらなくなる。


 ま、どちらにせよ俺たちに家督を継ぐ前に家は崩壊してしまっただろうけど。


 俺は頭からバカ(おや)()を振り払って、


「それで、《幻影》ってどんな技です?」

「まあそのままの技だ。武器の幻影を相手に見せて攻撃と思わせ、その隙にまったく別の場所から攻撃する。いわばだまし討ちだな」

()(きよう)な技ですね」

「拙者の家に伝わる由緒正しい技を()(きよう)と申すか! しかし異論はない! その通りだ!」

 認めちゃったよ。

「生きることに対して意地汚いというか、並々ならぬ執着を持った家でな。その中で拙者のような者がよく育ったと我ながら感心してしまうのだ。まあひどい家だった。権力を使って周りを蹴散らし、意地汚くのし上がろうとする家だった」

「……あの、『故郷では名を知らぬ者がいないほど』って要するに悪名高いってことですか」

「そうだ。まあだから崩壊してもさもありなんと言ったところなのだがな」


 よほど周りから反感を買っていたのだろうなと勝手に思う。だんだんバカ(おや)()がショボく思えてきた。


「あれ、でも一人の人間によって崩壊したんですよね? 周りから反感を買っていて、そのうちの一組織に大勢で攻め入られてって訳じゃなく?」

「ああ。一人の人間によって皆殺しにされた。言っておくが我が家の人間が弱かったわけじゃない。むしろべらぼうに強かった。周りから反感を買っても、外で暗殺されそうになっても、平気で毎日を生きていける図太さと力を持った(やつ)らの集まりと考えてもらえばいい。と言うかむしろ暗殺する側だったからな。『やられたらやり返す』ではなく『やられる前にやる』というか『やられなくてもやる』と言った感じか」


 死ぬほど迷惑だった。その上べらぼうに強いというのだからたちが悪い。


「その一人の人間って言うのは、じゃあ、べらぼうに強い家の人間全てを一日で倒してしまうくらい、この世のものとは思えないくらい強かったってことですよね」

「そうだな。言い得て妙だ。この世のものとは思えなかったよ。あの日の拙者の兄は」


 俺はぎょっとして一瞬言葉を失った。


「兄? お兄さんが家を崩壊させたんですか?」

「双子の兄だったが、まあ似ていなかった。名をケイと言ったが今どう名乗っているかは知らない。見かけも性格もまったく。拙者はおとなしかったがケイは快活で、そして拙者よりもずっと魔法に()けていた。家の技など十歳の頃には全て身につけ、(うら)(つら)みを向けてくる大人など軽く返り討ちにしてしまうくらい強かった。拙者も何度も助けられたよ」


 そこでトモアキはまるで現実から目を背けるように遠くを見た。


「拙者たちが十七の頃だった。夜はっと目を覚ますと廊下が血で()れていた。はじめは悪夢だと思った。そのうち覚める悪夢だと。拙者はそれを信じて疑わなかった。廊下を進み、家事を行っていた下男たちが倒れているのをみた。外に飛び出すとそこにケイがいた。足下には父と母が倒れていた」


 トモアキはそこで強く目をつぶった。


「拙者はケイに問うた。どうしてこんなことをしたのか。答えは単純だった。『知ったからだ』と。『箱から生まれたこと、そして正しい道を知ったからだ』。拙者たちは双子だ。二人ともルベドの子供たちだった。ケイは拙者に手を差し伸べた。『ともに来い。私が正しい道に連れて行こう』。ケイは言ったが拙者は断った。その日、絶対に別の道を進むと決めた」


 遠くに向けていた目を現実にもどし、トモアキは俺の目を見た。


「ケイは今『七賢人』の一人だ。だからこの話をニコラ殿にもしておいた。いつかきっと相まみえる日が来るだろう。それはもしかしたら……ノルデアでかもしれない」


 僕は唾を飲み込んだ。


次回更新は土曜日です。

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