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第123話 大きな人工魔石【アリソン視点】

 ペネロペが()()(ろう)から出て行く。アリソンはその後ろ姿を見送ると扉の方へと向き直った。コルネリアが腕を組んでいる。


「この先に何かがあるだろ」

「きっとそう。この()()(ろう)の人たちも関係してるのかも」


 ルナが足下で心配そうに見上げてくる。アリソンは「大丈夫だよ」と自分に言い聞かせるように言って、扉に手をかけた。ゆっくりと開いていく。光が扉のむこうから漏れ出す。アリソンは体を滑り込ませるようにして扉の向こうへと進んだ。






「何……これ」


 扉の先は、縦に、円柱形にくりぬかれた空間が(はる)か下の方へと広がっていた。まるで塔の内部のように見える。扉から出てすぐの場所から曲面の壁を()うようにしてらせん状に階段が下っている。手すりをつかんで下をのぞき込むと大きな石のような物が光っていて、その光でこの洞窟のような空間が満たされているのだと知った。コルネリアも同じようにのぞき込むとつぶやいた。


「たぶん、あれが人工魔石だな」


 この島を浮かべ、形を維持しているその魔石は(こう)(こう)と光を放っている。時折、壁に影が出現して動くのが見える。アリソンは誰かがそこにいて、その人が光を遮ることで影ができているのだと思った。


「注意しないと」


 アリソンはルナを抱きかかえた。階段は一段一段が高い。ルナはおりるのに一苦労だった。コルネリアに盾の姿になってもらい腕に装着する。ゆっくりと足音を立てないように注意する。ただでさえ音が反響するこの場所で呼吸を殺して移動するのは至難の業だった。


 徐々に魔石に近づく。アリソンは階段を降りる足をとめた。


 人工魔石の全容が見えた。魔石に、なにかが絡みついている。真っ黒なそれは内部で何か光がうごめいていて、ルナは声をあげた。


『あれ! 僕が地下で見たやつと同じだよ!』


 アリソンは(うなず)いた。時折、壁に映し出されていた影は人が動いていたからじゃない。魔石に絡みついている根のような黒い物体がうごいて、光を遮っていたからだった。


 根は巨大な人口魔石の周りにツタのように貼り付いている。まるで魔石を取り込もうとするかのように見えた。魔石の周りだけではなく黒い根は石造りの壁や地面を崩してヒビを入れさらに奥深くにもぐり混んでいる。


「ここからケイトの家にまで伸びてるんだ」

「それはわかるが……これは一体何なんだ?」


 コルネリアが盾の姿のままつぶやいた。


 階段を降りていき、ついに人工魔石のある場所に立つと、地面を()う黒い根を踏まないように注意しながら近づいていく。魔石の高さはアリソンの身長の二倍以上、両腕を伸ばしても抱えきれないほどの横幅があって、根の間から(こう)(こう)と光が漏れている。アリソンはまぶしさに目を細めながら魔石を見上げた。と、そこに何かがあるのをみつけた。なんだろう。


 黒くて四角い箱のような物が魔石の上部、手の届く場所に貼り付いている。根のような黒い物体はそこを中心にして生えているようにさえ見える。


「アレが原因なんだ」


 アリソンはつぶやいたがそれがなんなのかまったくわからない。けれど、とにかく、島を浮かべ形を維持する人工魔石にこんな物がついているのがわかった。島が崩れているのと絶対関係がある。


「原因がわかったから戻ろう」


 アリソンはコルネリアたちに言って、階段を上ろうとした。


 と、上から誰か降りてくる音が聞こえる。一人じゃない。数人が話をしながらコツコツとくつおとを響かせておりてくる。


 アリソンは慌てて階段の下、根が盛り上がって陰になっている場所に隠れた。ルナが不安がってクンクン喉を鳴らしている。ぎゅっと抱きしめて落ち着かせ、アリソン自身も息を殺した。


「まったくこんなに忙しいときに!」


 (いら)()たしげな声が降ってきてアリソンは身を縮める。足音が頭上をとおりすぎて、人工魔石のそばを歩いてくる。降りてきたのは五人。先頭にいるのは……ウィルフリッドだった。彼はいつもの(ごう)(しや)な服で鼻息をふんふん言わせ、いつも以上に顔を真っ赤にしていらだっている。


「『箱』に問題はないでしょうね! あのおてんばお姫様がここに入ったかどうか調べなさい!」


 アリソンは下唇を()んだ。ペネロペ、見つかったんだ。なんて運が悪い。大丈夫かな。姫相手に悪いことはしないと思うけど……。


 ウィルフリッドの部下らしき他の四人が魔石に近づいている。というよりあの『箱』を調べているようだった。ウィルフリッド自身は腕を組んでその様子を見守っている。しばらくして部下たちは彼の元に戻ってきた。


「異常はないようです」

「ふん。では、上から何人か連れてきなさい。予定に大幅に遅れています。そろそろ()()()がこの島に来る頃ですから。数を作らなければ」


 四人の部下たちが階段を上がっていく。ウィルフリッドはここに残るようだった。


 どうしよう。アリソンは下唇を()んだ。あの人たちがいなくなるまで待たないとここから出られない。ここから出る道は一つしかない。


 アリソンが息を潜めていると、ウィルフリッドが『箱』に手を伸ばした。光がうごめく真っ黒なその物体に彼の手が触れる。と、魔石の周りにあった真っ黒な根がゆっくりと動き出した。かすかに地鳴りが聞こえ、地面に埋まっている黒い物体も動いているのだと知る。


 これが穴が開いていた原因で、島が崩れている原因だとアリソンははっきりと理解した。ウィルフリッドが何かを作り出そうとするたびに根が動き地面に穴が開いて島が崩れているのだろう。


 と、アリソンを隠していた根までもが動き始めた。


 まずい!


 動こうとしたがそれより早く、ウィルフリッドはアリソンの存在に気づいてしまった。


次回から週一更新になります。

次回更新は土曜日です。

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