第120話 謎の黒い物体について調べる【アリソン視点】
結局それから数日、アリソンはいろんな屋敷の地下でグラットを退治してまわり、そのたびに黒い謎の物体を発見することになった。謎の物体を発見した屋敷の場所は一部に固まっていたわけではなく、郭の中を満遍なく広がっていて、それはつまり、城を中心として周囲すべてにあの黒い物体があるということを意味していた。
アリソンはケイトの家に戻って来ると、それを詳細に報告した。
「もしかしたら城の地下もおかしなことになっているかもしれません」
ケイトは少し考え込んでため息をついた。
「城の地下、ね。そこに何があるか知っている?」
「……大きな人工魔石、ですね。ノルデアを浮かべる動力源だと聞きました」
アリソンはペネロペとの会話をおもいだした。ペネロペも数度しか見たことがない魔石。重役しかそれがある部屋には入れないと言っていた。
ケイトは頷いて、人差し指でテーブルを叩いた。
「もしもそこに何か問題があって、黒いあの物体が島を侵食しているのだとしたら、ノルデアが徐々に崩れていることに対して説明が簡単につくわ。あの黒い物体が島の地面を食い荒らすように穴を開けて、それが原因で島が崩れている」
アリソンも同じことを考えていた。屋敷の地下には通路のように穴が開いていた。ただ根っこのように伸びるだけではあんな通路はひらかない。あの黒い物体はうごめいて、いろんな場所に穴を開けては引っ込んでいるんじゃないかとアリソンはおもった。
「城の地下を調べてみないと……。もし本当にそうだとしたら、城が崩れるのを防げます」
「でもね……。アリソン、城の地下に入れるのは重役だけでしょう? 黒い謎の物体は城の地下に浸食しているはずだけれど、でも、城の人たちはそれについて気づいた様子がある?」
王に謁見した時、ウィルフリッドはビーに、「城が崩壊している理由は不明」だと言った。アリソンは首を横に振った。
「隠しているんですね」
「そうね。と言うことは、城の地下を調べるのはかなり大変だということになるわ。誰が情報を隠しているのかわからない以上協力を求めることができない。そもそも入ることすらできないんじゃないかしら」
「一人心当たりがあります。ペネロペです」
「ああ、そうだったわね。あの子に頼めば無理を言って入れるかもしれないわ。でも危険なことには変わりない」
ケイトはアリソンの手をにぎりしめた。
「私はね、アリソン。あなたが心配なの。今では孫みたいに思っているのよ。私は女の子の孫がほしかったから」
アリソンはそれを聞いて心がじわりと温まるのを感じた。そこまで思われているなんておもっていなかったし、それに、生まれたときからアリソンには祖母というものがいなかった。アリソンだってケイトのことを大切な存在だと思っていた。
「私もあなたのことを大切だと思っています。だからこそ、城の地下に入れるなら私は調べたいんです。もうこの島には私にとって大切なものがたくさんあるから」
この数ヶ月、たくさんの人にお世話になってきた。特にケイトに対する恩義は計り知れない。アリソンはこの場所が好きになっていた。崩れ落ちてしまえば何もかもがなくなってしまう。
ケイトはアリソンの目をじっと見ると、ふっと息を吐き出した。
「こんなことになるなんて思ってもみなかったわ。でも……そうね。絶対に無理はしないと約束して。何かを見つけても、すぐに戻ってくると」
ケイトはますますぎゅっとアリソンの手をにぎりしめ、アリソンはこっくりと頷いた。
次回更新は土曜日です。