表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/172

第116話 ルナとテイミング2【アリソン視点】

 行ったり来たりするのも大変だがルナのいる建物に戻るとすでにビーが待っていた。テディは少し顔をしかめている。


「冗談で言ったのにな。本当に連れてきたのか」

「え! あれ冗談だったの?」


 わかりにくいなあ。でもビーが来てくれたからいいアドバイスだったと思う。


『それでその子はどこにいるの?』


 テディに案内されてビーはのしのしと歩いて行く。彼女だって魔物なはずなのに、まるで飼育する側のようにテディとともに歩いていてそれはそれで奇妙だった。


 ルナはビーの姿に気づくと少し萎縮した。威嚇こそしなかったがあきらかにおびえている。アリソンが先に近づいて、頭や体をなでて大丈夫だと落ち着かせた。


 ビーはルナに近づくと、じっと見つめ始めた。テレパシーを送っているのだろう。いつもはその場にいる全員に送っているようだが今は魔物相手だからだろうか、こちらには聞こえないように話している。


 ルナはビーの言葉に反応して顔を上げ、アリソンの方をじっと見た。そこには不安がっているようなそんな表情が(うかが)えた。


 ビーはため息をつくように少し考え込んだ。


『この子は魔力を流すのを恐れてるわ』

「大丈夫。すぐに魔法を使って魔力を消費するから」


 アリソンは言ったがルナはまだ緊張している。ビーはまたじっとルナをみて会話をしている。


『触れてみて。頑張ってみるって言ってる』


 ビーが言うので、アリソンはルナに触れた。途端に真っ黒な(もや)がアリソンの体からもあふれ出す。テディが驚いて声をあげる。


「おい! 大丈夫か!」

「平気。大丈夫。コルネリア、盾になって」


 コルネリアは呼応して盾になるとアリソンの腕に貼り付いた。


 体からは黒い魔力があふれ出しているものの苦しみはない。魔力量はたしかに多いけれど、ニコラとともに訓練した日々をおもいだせばそれも耐えられる量だった。


 アリソンはまず《身体強化》を使って魔力を消費してみたが、それではまだ足りない。ルナを抱き上げると、建物の外に駆け出した。テディとビーが追いかけてくる。


「どこに行く?」

「外じゃないと魔法を使えない!」


 テディに応えるとアリソンは外に飛び出して、すぐに盾の魔法を使った。

 巨大な雷の盾が出現する。そこには闇の魔力が混じっていて、ニコラと出会った当初のことを思い出してしまった。あの時も雷の盾は巨大で、そして、ニコラの水属性が混じっていた。


 アリソンは次々に盾をつくりだした。魔力がどんどん消費されていく。


「コルネリア、頑張って!」


 アリソンも結構辛かったが、それはコルネリアもそうだろう。ニコラが魔力を流すのとは違い、ルナから流れてくる魔力は勢いが強すぎる。人に魔力を流すことに慣れていないんだ。


 ルナからの魔力がだんだん収まってくる。アリソンはふっと力を抜いてその場に座り込んだ。コルネリアも人型に姿を変えると「だあ」とため息をついてしゃがみ込む。


 アリソンの胸の中でルナは顔を上げ、ペロペロと顔を()めてきた。元気そうだ。今まで見たことないくらいに。


「あはは、くすぐったい」


 アリソンは笑ってルナをなでてやった。と、ダークガルムはお(なか)をきゅるきゅるとならした。ビーが近づいてきて、言葉を聞いてくれる。


『気分がよくなってお(なか)がすいたみたいよ。アリソンにとっても感謝してる』

「そう、よかった。コルネリアありがとう!」

「ああ、今度はもう少し出力を抑えてくれって言ってくれ」


 コルネリアは大きく息を吐く。


 テディがいつもの餌を持ってくるとルナはすぐに平らげてしまう。とビーの方をじっと見つめた。


『肉がほしいみたいよ』とビーがいって、テディは急いで肉を切って持ってくる。アリソンが受け取って渡すとおいしそうにむしゃむしゃとたいらげた。テディは腰に手を当ててダークガルムを見下ろしている。


「本当に元気になったみたいだな。でも毎日これをするのは大変だぞ」


 アリソンはテディの体をさする。体の毛はボサボサで所々抜け落ちている。痛々しいその体と苦しそうな姿をもう見ていられない。


「ルナ。ねえ、私と一緒に来ない?」


 ルナはアリソンの手に額をおしつけた。その瞬間、何か、サーバントとの間にあるような(つな)がりが、ルナとの間にできるのを感じた。ルナは顔をあげて、言った。


『よろしく、アリソン』


 ルナのテイミングが成功したのだとアリソンは悟った。






 その日の夜は念のためルナの眠っていた建物に泊まることにした。テイミングが成功した今、城に連れて行って、もしなにかの拍子にルナの魔力が爆発してしまっては困るから。アリソンはルナをなでて体の調子がはやくよくなるようにと祈った。


 ルナは日に日に体の調子を取り戻していく。アリソンとテイミングの関係を結んだことで、魔力がアリソンとルナとの間で循環し、魔力中毒症が改善されている。体の毛はまだ(まだら)だけど、走り回れるくらいには回復したようだった。目を覚ますと毛布の上でルナがはしゃいでいる。


『アリソン! 起きて! 起きて! 外で遊びたいよ!』

「いってきていいよ。まだ眠いよ」

『だってアリソンと離れすぎるとまた具合悪くなっちゃうんだもん!』


 それはそうだった。サーバントと離れすぎてしまうと魔法が使えなくなるように、テイミングの関係を結ぶ相手と離れすぎても魔力の循環が途切れてしまう。ルナの健康はその循環にこそあったので離れればすぐにではないものの、また魔力中毒症を発症してしまう。


「もう!」


 アリソンは起き上がって毛布を脇にどけた。なんだかだんだん寒くなってきている気がするのは、多分ここが高い場所にあるからだろう。アリソンはルナを抱きしめて暖をとった。


 身支度を調えて、そとにでる。テイミングから一週間。ルナの魔力が爆発するなんてことはなく、関係は良好だった。アリソンは自分の中にルナの魔力が流れ込んでいるのを自覚していたし、それはコルネリアも同じようだった。やっぱり魔力量は多いと言うのが二人の感想。


 寝ぼけているコルネリアを建物に置いたまま、ルナを外に連れて行く。ルナは地面に下ろす前から足をばたつかせて、早く走りたいと体で表現していた。下ろすとすぐに走り出してあっという間に建物を一周して戻ってくる。アリソンは近くの椅子に座ってぼうっとその様子を眺めていた。


 うとうととしているといつの間にかテディが起きてきて、湯気の立つカップを渡してくれた。


「元気だなあいつ」

「うん。元気すぎるくらい」


 カップに口をつけるとそれは飲んだことのない紅茶でいい匂いがした。


 テディは走り回るルナを見ていたが、しばらくして口を開いた。


「一週間魔力に飲まれなかったんだ。多分もう大丈夫だろう。一応薬は渡しておくが、城にもどっても平気だと思う。後は一()(げつ)くらい様子を見て、最終確認をしよう」


 アリソンは(うなず)いたがルナを城に連れて行ってもいいのだろうか。と言ってビーだってずっと城にいるわけだし、大丈夫だろうと勝手に考える。ビーからペネロペには伝えてもらっているけれど、直接見せたいし。


次回更新は土曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ