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第114話 魔力で意思表示をしよう【アリソン視点】

 アリソンとコルネリアは魔力の揺らぎなくウサギの魔物に敵意がないと伝えられるようになった。結局そこまでできるようになるのに一週間くらいかかってしまった。本当は三日くらいでできたのだろうけど、初日、あんまりやり過ぎて魔力切れを起こしてしまった。


「おい、大丈夫か!」


 テディはものすごく心配をしていたけれど、それは食事にありつけなくなるからだろうなとアリソンは苦笑した。


「大丈夫、ただの魔力切れだから」

「そんなすぐ魔力切れになるわけないだろ。どこか体がおかしくなったんじゃないか?」


 アリソンはうっと黙った。本当に魔力切れなのだけど。一瞬言いよどんだがあまりのもテディが心配するのでアリソンは正直に告げた。


「だからテイミングをしようと思ったのか」


 アリソンはこっくりと(うなず)いた。テディの顔には納得の表情があったけれど、当然、そこには()(じん)も軽蔑の色がなくてちょっと安心した。


 で今日。魔力も回復し魔力で意思表示ができるようになったアリソンは、以前とは違う野生のウサギの魔物に近づいている。魔力を一定の出力で流して敵意がないことをアピールする。ウサギは一瞬顔を上げて鼻をヒクヒクさせてアリソンを見たが、すぐに顔を下げて、体をボリボリと()き始めた。アリソンが隣に座ってもまったく逃げる様子がない。


「上出来だな」


 テディが近づくとウサギはすぐにビクッと顔を上げて走り去った。本当に魔力でコミュニケーションがとれていたようだ。


「基礎はできた。敵意がないことを示した後は、一緒にいることのメリットをしめして、互いに合意すればテイミングが完了する。サーバントの『契約』と似たようなものだ」


 そうは言われてもサーバントとの『契約』は意思を示せばそれでよかった。特に何か苦労した経験がない。魔物とのテイミングだと向こう側が拒否してしまえば簡単に離れてしまうはずだ。


「Dランク以下の魔物は餌を定期的にやると言えばテイミングできる。あほなんだ」


 テディはまたあほ呼ばわりしている。そうはいいつつも世話をする姿を見れば愛情を注いでいるのがよくわかる。あほかわいいというやつだろうか。


「それで、やっぱりあのダークガルム――ルナをテイムするのか?」


 アリソンが(うなず)くとテディは鼻から息を漏らした。


「やってみてもいいが、いくつか注意しておく。一つ目に、あいつをテイミングするのは難しい。Dランクの魔物とは桁違いだと思っておいた方がいい。二つ目に、もしも、……もしも万が一テイミングが完了した場合、その関係をやめるにはかなりの時間がかかる。これもDランクの魔物であれば簡単なんだが、テイムが難しい分、その解消にも時間がかかる。普通ならな」

「普通ならって?」


 テディは建物の一つにアリソンを案内する。テディが入ったのは狭い部屋だった。壁にはたくさんの紙や本、部屋の一角を大きな机が占めていて、その上には細長いガラス瓶、粉末状になった薬草、黒っぽい液体などなど、なにやら実験か製薬のための準備が整っていた。


 テディはその机の奥にある棚からひとつの瓶を持ってきた。濃い緑色の液体で、粘度が高そうだ。


「これは師匠が作り出した薬品だ。あの人が自分自身のために作り出した、薬だな」

「自分自身のために?」

「ああ。師匠はな、天才的なテイマーなんだ。おそらくだが、どんな魔物でもテイミングできる。生まれて間もない頃に親に捨てられ、普通なら死ぬはずだったのに、赤ん坊のまま鳥や犬なんかとテイミングをして、食べるものを運ばせていたらしい。言葉よりも先に、テイミングを覚えたんだよ。生きるためにな」


 壮絶だ。そんな師匠を持っているのか。


「それでよく生きてこれたね」

「ああ、師匠のそのまた師匠が拾ってくれたらしい。そこで製薬も学んだと言っていた。言葉より早くテイミングを覚えた師匠は、しかし、テイミングをやめる方法を知らなかったんだ。その頃にはかなりの魔物もテイミングできるようになっていたみたいだからな、色々問題が起きたんだろう。それで、自分でテイム状態を解消する方法を編み出した。それがこれだ」


 粘度の高いその液体は開けるとひどい匂いがした。本当に使えるんだろうか。と言うより飲んだら絶対おなか壊しそうだった。同時に飲んでしまったらコルネリアとの契約も切れるのではないかと危惧したが、テディは「それはない」と保証してくれた。


「一応渡しておくが、まずはテイミングの方が問題になるだろう」


 そう言われて、アリソンは少しだけむっとして、ちょっとやる気になった。できることを増やすためにここに来たんだ。ルナをテイミングして救って、自分のできることも増やしてやる。


 だめだと言われたり不都合があったりしていままでたくさんのことを諦めようとしてきたけど、ニコラと出会って、諦めなくても前に進めるってことにきづいた。そりゃあ、ここまでくるのにたくさんの人に手伝ってもらったし、諦めそうになったことは何度もあるけど、でも、もう、はじめからだめだって思うのはやめた。ニコラがパーティを組んでくれたあの日から。


「やるだけのことはやってみる」


 アリソンは両手を握りしめて、意気込んだ。

次回更新は土曜日です。

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