第53話 肉付きの若者が、アイナスとお出かけする話。その3。
「綺麗な湖ですねえ。」
「そうですね。」
老人の家を出てからしばらくは、目的地に着くためというより単なる散策という気分で歩いていた二人。
アイナスがある程度満足したのか「じゃあ目的地まで飛びますか」というと、さっさと光る道を繋げてしまった。
老人が居れば、以前より圧倒的に速く道を伸ばすアイナスに「愛の力じゃな」程度の軽口は叩いたかもしれない。
さて、先日ゴニアを狩りに来た際、「自分がエサ」みたいな状況下でも、湖の美しさに目を奪われていた若者。
アイナスの綺麗な湖という感想には全く疑いはない。
疑いはないが、何か出てくるかも、と一抹の不安はある。
一方のアイナスは、ゴニア狩りの経緯も織り込み済みで、気安い感じで「今日は流石に出てこないかもしれませんね。」と呟いた。
それはエサが無いからかな…、など微妙な気分の若者だが、実際のところ、アイナスがいるだけで「分かっている」動物の類は全く近寄ってこない。
そんな状況はつゆ知らず、静かな湖畔に佇む若者は、今日は何を狩ればいいのかな、と独り言のように呟く。
それに対してアイナスが一言。
「湖に潜りましょう!」
「え?」
僕の服って結構便利なんですよ、というアイナス。
先ほど老人の家を出た時には、七分袖のジャケットを羽織っていたが、今はジャケットを脱いでおり、上半身は体の線が分かる程度に密着したシャツだけの状態になっている。
「便利というのは?」
と若者が聞くと、
アイナスが、
「服が水をはじいてくれるんですよ。」
と答える。
隙間からも水の入らない、師匠特製の一品ですよ!と胸を張るアイナス。
いわゆる水着的な運用もできる服ということだろうか。
ということは…。
「もしかして、そのまま湖に入るつもりですか?」
「そうですよ。ニックさんは泳げます?」
腕をブンブン振り回して準備運動っぽいことをしながら、アイナスが若者に聞く。
「試したことがないので…。」
「じゃあ、せっかくなので試しましょう!」
「今ですか?」
「今ですよ。」
それは流石に…そもそも服が…、と当然渋る若者。
一方のアイナスは、僕しかいませんから、ほぼ裸でも問題ないですよ!と、意味不明なことを言っている。
若者は、普段はそれほど異性を意識してアイナスと相対しているわけではないが、実際のところは年頃の女性だ。
見て、或いは見られて、それなりに恥ずかしい場面もあるはず。
そもそも裸が問題ない訳がないと思うが…。
「別に見られて減るものでもないですよね!」と、きゃいきゃいと盛り上がるアイナス。
「いやそうじゃなくて…。」という若者。
で、結局。
「じゃあまあ、ちょっと潜って見てきますー。」
と、ブツブツ呟きながら一人で潜っていくアイナスだった。