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第40話 肉好きの若者が、実力を示す話。その3。

若者は、闇を纏う塊を、最初は肉として認識できなかった。

そもそも何処までが物理的に触れることが出来るのか分からなかったからだ。


しかし今は。


「すごく興味があります。どうすればいいでしょうか。」

と食い気味に老人に話しかけるくらい気分が高揚している。


まったく未知の肉。


この機会を逃したら次はないだろう。


絶対に逃さない。



「今から儂がすることをよく見るんじゃ。後は好きにせい。」

参考になるのかならないのか微妙な老人の助言にも、若者は、こくりと一つ頷くばかりである。



すると老人は、先ほどの円を描くような動きに変えて、左右の腕を別々に動かし始める。


若者には不規則に動かしているようにしか見えないが、何か法則があるのだろうか。


少し様子を見ていると、指先がなぞった空間に赤い光が残像として残るようになってきた。


「赤い光が見えるかの。」

「はい。」

「そうか。普通の人間には見えん。」


そういうと、老人は腕の動きを止める。赤い光は複雑な文様を描いているように見えるが、全体としては八角形…いや七角形のようだ。


「聖魔棄陣が告、七賢印。」


黒い塊は、先ほど一瞬だけ動きを止めたものの、再び暴れ始める。

木々をなぎ倒す轟音。

その音と遜色ない唸り声。


GRRUUuuuuhhhhhhh!!!!!


若者が、内心うおっと思って周りを見ると、誰も慌てているような様子が見られない。

個々の強さと、老人への信頼の表れと考える若者だったが、実際にはデム以外は結構ドキッとしている。


そんな中、纏う闇が深すぎて輪郭がぼやける巨体に、赤い光が纏わりつく。


光は急激に収束し、柱状に広がり、その巨体を丸ごと包み込む。


物凄い勢いで暴れる巨体。ビクともしない七角柱。辺りに響く轟音。


「これは…。」と呟くエルメラ。

「七賢印ですね。でもこれでは…。」とデム。


そして赤い柱が高速で回転を始めると、黒い巨体の動きが、徐々に鈍くなっていく。


「ニックよ。」

「はい。」

「儂ではこのまま消し去ることは出来るが元には戻せん。後は任せた。」

「分かりました。」


その他の面々は、老人と若者のやり取りを静かに見守っている。


言葉少なに交わす会話に集中し、若者が何をしようとしているのか、瞬きすら忘れたかのように凝視している。



高速で回転する柱の前に若者が自然体で立つ。


特に手を動かすことも無く、ただ立つ。


すると赤く光っていた柱が、橙、黄、緑、青…と色を変える。


その様子を見て、デムが驚愕の表情を浮かべる。

「光殻の七賢印…まさか…。」


「きれいな光…」とアルが呟く。

「ヤバい人確定ですねホント…」とアイナスも呟くが、表情にいつもの余裕は無い。


そして、光が紫から白へと色を変えると、徐々に柱の回転が遅くなる。


静かに見守る面々。

相変わらず、ただ立っている若者。


回転が止まり、光が消える。


先ほどまで暴れていた黒い塊は跡形もなく消え、そこに残っていたのは…。


「ガウルビースト…。」と誰かの呟き。


光が消えた場所には、全身もふもふの巨躯を持つ獣が一頭、意識を失い横たわっていた。


「ガウルビースト…僕は初めて見たかもしれないですねー。」と、アイナス。

「ガウルビーストを気絶って…どうやったの?」と、アル。


なお、この生き物、見た目はもふもふで可愛らしいが、性格は限りなく狂暴で、かつ戦闘力は竜族にも劣らない。

存在自体は認知されているため見た目に騙されるようなことはないが、実際に見たことがある人は極々少数である。

そして、実際に見たことがある人の中で、無事に生還した人となると、更に少ない。


「そうじゃったか…。」

「マルス翁、どうしましたか?」

「ん、ガウルビーストは目撃例がほぼ無い。」

「そうなんですか。」

「まあ、生きて帰れんかったからというのもあるが…、ただ、今のお主の技で、大体の理由が分かったの。」


するとデムが、

「なるほど…アッシュグリズリーが何らかの原因で闇憑きになった…。」

と会話を拾って続ける。


「恐らく、ほとんどの個体はそのまま闇に食われるはずじゃ。」

「そして一部は闇を取り込んでガウルビーストになるということですか…。」

「しかも、意図的に変異させようとしとるようじゃな。」

「そんなことが…。」

「今回は変異を無理やり中断させた形となったからの。本来はガウルビーストにはならないはずじゃが…そこはニックが思うところがあったんじゃろ。」


まあ、その辺は後でゆっくり考えるとするかの、と老人。


「それにしても成功率は低そうですが。」と老人に確認するように話しかけるデム。

「低くてもよいと考えとるんじゃろ。稀にでも成功すれば、一頭で一国を潰せる。」と返す老人。


非常に深刻な会話が続き、流石に表情を曇らせながら、静かにその会話に聞き入る一行。


そんな、何やら不穏で深刻な会話をものともせず、若者が、

「じゃあ解体しましょう。」

と切り出す。


先ほど七賢印の前で見せた、研ぎ澄まされた雰囲気は何処へ、既に肉にしか興味が無くなっている。


老人も、そんな若者の様子を見て、

「そうじゃの。さっさとやってしまうかの。」

と気分を改める。


「もう少ししっかり調べた方が」(デム)

「何か重大な事実を見過ごしている気がする」(エルメラ)

「モフモフかわいい?」(アールスラーメ)

「いやー見た目はそうだけどね。見た目だけ。」(アイナス)


そんな思いの周囲を尻目に、事の重大さにも全く興味を示さず、若者は老人に解体を促す。


そして横たわる巨躯に近づいた若者は、意識を失っているはずの獣と、何故か目が合うのだった。


「あれ、起きてるよね。」(ハツキ)

「起きてるね。」(トウキ)

「と言うか最初から寝たふりしてた気がする。」(シンキ)

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