表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/104

第21話 アールスラーメ

アールスラーメは、幼い頃から、鍛えるということが好きだった。


鍛えれば鍛えるほどよく動く体。

自分が強くなっていくことが実感できる喜び。


夢中になった。

そのことに後悔は無いし、むしろ誇らしいと思っている。


ただ、父さんから、

「伴侶となるべき竜をそろそろ見つけねばいかんな。」

と言われた時、その時はあまり深く考えなかったが、わざわざ自分に向かって言った言葉の真意が、後で理解できた。


あまり鍛えすぎると、相手を見つけるのが大変になる。


いや、正確にいえば、大変になる立場。


それでも、鍛えることに躊躇いはなかった。



幼い頃に、父さんとマルスマーダ様が戦っているところを見た。

もちろん本気の戦いではない。

それでも、凄い、と思った。


父さんもだが、マルスマーダ様が。


今の自分では勝てない、と思った。

将来の自分ではどうなのだろう、と思った。



目標ができたから、躊躇いはなかった。


もともと、黒竜と言う種族は、争いごとを好まない、平和的な種族である。


ただ、心の奥に眠る強者への憧れも当然ある。


強者への憧れ。

高い高い目標。


マルスマーダ様、そのままお強いままで、待っていてください。

きっと自分も、その高みまで上がってみせます。


アールスラーメが若者との手合わせを快諾したのは、別に若者がどうこうということは無い。

何やら不思議な雰囲気を持っているな、とは思ったが。


それよりも、今の自分の強さをマルスマーダ様に見てもらえる。

それが嬉しかった。


自分の全力を見てください。マルスマーダ様。


そして、始まりの合図と同時に吼え「ようとする」アールスラーメ。


…が、逡巡。


何故?

ただの人間に全力を叩きつけるのに気後れしたから?


そうではない。


危険を察知したのだ。


いや、「危険」なんてそんな生易しいものではない。


一瞬でバラバラにされ、竜族にとって命よりも大事な「竜核」も砕け散り、肉も皮も骨も内臓も、丸ごと食らいつくされる感覚。


初めての感覚

これは、何だ。

後悔?

違う。これは…。



『  絶  望  』



何ということだ。

自分は最初から勘違いをしていた。

自分を見せる良い機会だの、そんなことじゃないのだ。


これは、ただの「食事」だったのだ。


弱い肉は、強者に食べられる。

この世で最も原始的で美しい摂理。


…。


……。


そして次の瞬間、アールスラーメの体が一瞬だけ輝く。

するとそこには、一人の女性が立っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


恐らくアールスラーメであろう女性が、静かに涙を流しながら立ち尽くしていた。


多少困惑気味の若者を尻目に、一人の男性が近づく。

どうやらデロイのようだ。


微動だにせず立ち尽くすアールスラーメの頭に、ポン、と手を置くデロイ。


「アル、大丈夫だ。生きとる。」

「あ…。」


全身の力が抜けて崩れ落ちるアールスラーメを、デロイは優しく受け止める。


「すまんが、屋敷のどこか一室をお借りできないだろうか。」

とデロイが言うと、アイナスが、準備してきます!といって屋敷の方へ走っていった。


すると若者が、

「えと、デロイさんと、アールスラーメさん、ですよね?」

と声をかける。


「そうだが、知らなかったか?」

「人の姿に変われるということですよね?知らなかったです。」

「能力的にはよく知られているのだよ。」

「まあ、ホイホイ変わるようなもんでもないかもの。」

「お前にはちょっと聞きたいことがある。」

「なんじゃ?」

「この若者、何なんだ?」

「ん?だから言っただろう。儂の弟子じゃ。」

「そうではない。」


若者とデロイの会話のはずだったが、いつの間にか老人とデロイの話になっていた。


ただ、今一番気になるのはアールスラーメのことだ。

どこか怪我などはしていないだろうか。


「ん?アルの事なら大丈夫だ。気絶しているだけだからな。」


とデロイが言うが、若者は流石に気が気ではない。

恐らく自分のせいなので、なおさらである。


まあ勝負じゃからしょうがないじゃろ、と言う老人に対しては、お前はもう少し反省しろと切れ気味なデロイだったが。


その後、戻ってきたアイナスと、ブレダン伯爵以下数名の案内で、一行は屋敷の中へと移動していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ