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第17話 肉好きの若者が、肉を振舞いたい話。その2。

若者が揚げ物の準備を始めると、先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気が一変、会場に静寂が広がる。


静かな会場に揚げ物の音が響く。


固唾をのんで見守る人。

よだれを垂らさんばかりで見守る人。

固唾をのみながらよだれを垂らす器用な人。

何やら綿密な打ち合わせをする集団。

アイナスに指示を送るブレダン伯爵とやる気に満ち溢れるアイナス。


ちなみに今回、持ち込み量に限りがある関係で、老人は若者からおあずけをくらっている。

なので、会場の端で待機である。

なお、拗ねている。


また、流石に若者一人で作業を進めるのは大変なため、事前にブレダン伯爵へ相談し、ブレダン家の使用人数名に補助に入ってもらっている。

その際、補助してくれた方は準備に手いっぱいで食事が出来なさそう、ということで、若者は補助者それぞれにお土産として揚げ物をいくつか渡すことを提案した。


その結果、補助者選抜会が殴り合い一歩手前まで行ったことは、若者は知る由もない。


その後も、充実した表情で一心不乱に揚げ続ける若者。

つまみ食いの誘惑に必死に抗う補助者。流石に解雇は嫌なので必死である。


そんなこんなで準備も終わり、いよいよメインディッシュが振舞われた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


揚げたてで温かいパラ揚げ、冷めたゴニ揚げ、それぞれに狙いを定めながら、けん制しあう人々。

とはいえ、そこは紳士淑女の集まりである。

大声を張り上げて奪い合うようなみっともない真似はしない。



「ごちゃごちゃいうと張っ倒すぞ!」

「その口の中のもの何とかしろ!」

「いたっ…その足を避けなさい…ちょっと邪魔よ!」

「よし…チームレッドはそのまま待機、チームブルーは二手に分かれて回りこめ。」

「向こうから大きな蛇が来るぞ!皆逃げろ!」「そんなわけあるか!」

「よくやったアイナス。」「えへへ。」

「君のお父さんには、昔はよく便宜を図ってあげたものだが…?」

「気合で持ってきなさい!」「誓って!」


そんなみっともない真似は、しないのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後しばし、紳士淑女の戯れが続くと、若者が準備した揚げ物は、補助者のお土産分を除きあっという間になくなってしまった。


若者もこれには驚いたが、人々の満足げな表情を見て、よかったと安堵の笑みを浮かべる。

その横では、補助者の満面の笑みに、選抜に漏れた使用人の目力満載の視線が突き刺さっている。

老人はなんだかんだで若者から揚げたてを貰ってニコニコしている。



そんな様子を見て、よく頑張ったと自分をほめる若者。

片付けをブレダン家の使用人の方々にお任せして、しばしの休憩である。


すると、休憩中の若者に、何名かが近づいてきた。


「マルスマーダのお弟子さんとお伺いしましたが。」

「これまで正式に弟子を取ったことは無かったはずですな。」

「どのような分野が得意で?」

「ぜひ我がトルスタイン家の騎士として…」

「導師との手合わせも見てみたいものですな。」


一度に色々と話しかけられ、困惑気味の若者。

君の実力に興味があります、という風な声掛けから始まっているが、声をかけた者同士の雰囲気が多少ピリピリしていることからも、思う存分揚げ物を食べたいという思いが若者を召し抱えるという形で溢れてまくっているのが分かる。


少し困って老人を探すが、どうやら一人で黙々と味わっているらしく、姿が見えない。

どうしようかと思案していると、アイナスが近づいてきた。


「そうですね。私もニック先生「さんでいいですので…」、ニックさんと一度お手合わせしてみたいです。」


アイナスに、集まった人たちを捌いてくれることを若干期待した若者だが、別の方向に話題が行ってしまいかえって混乱する。

そもそも自分は絶対的な強者ではないのだ。仮にアイナスと手合わせをしたら瞬殺ではないだろうか。


さてどうしようかと悩む若者が再度老人を見やると、老人がちょうど東の空を見上げていた。

何かあったのかと、集まる人々に一声かけて老人の傍に移動する。

アイナスもついてくる。


「おおう、そうじゃったか。今日だったの…。」

「何がでしょうか?」

「んー、お主、あれが見えるかの?」

「どれですか?」

「あれじゃ、向こうから飛んでくる、2頭の美味い肉じゃ。」


美味い肉…?と聞いて、東の空の一点を凝視する若者。

すると、先ほどまで全く何も見えなかった空に、黒い2つの点が見えた。


「なんでしょう…竜が2体…ですか?」

「そうじゃの。古い友人が、おまけと一緒にこっちに向かっときとる。」

「友人なんですか。」

「うむ。」


そして会話をする老人と若者の横にいるアイナスは、「全く見えません~」とうめくも、

「ニックさん、何か見えるんですね。すごいです!」

と笑みを浮かべる。

それに対して、若者は、いやまあ…と多少居心地の悪さを感じる。

自分の能力を完全に把握しきっているわけではないし、今も老人に声をかけられなければ見えなかった。

今後は、もっともっと自分の能力や、肉の美味さや、肉のすばらしさについて勉強せねばと思いなおす。


「ところで、友人とおっしゃいましたが…。」

「そうじゃな。じゃから、美味そうといったが捕獲はせんぞ。」

「それはもちろん。食用に向くかどうかをきちんと確認しないと不安ですから。」

「そうではなく…まあいいわい。」





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