プロローグ「自己愛」
強く握りしめられた右手は赤く染まり、じわじわと迫ってくる痛みに耐えようと死に物狂いで歯を食いしばる。この手を離せば、もう二度とその愛おしき顔に笑顔が映されることが無くなってしまう。やっと見つけた心の拠り所。やっと見つけた唯一の理解者。千切れんばかりの右腕をつなぎとめているのは未練なのか、焦燥なのか。それとも必死に現実から目を背けようとしている愚かな心か。かつて自分が失った他人への感情が、今爆発しようとしている。いや、感情なんて抽象的なものではない、
これは愛情だ。
目の前のたった一人を心の底から愛している。紛れもない愛情だ。この感情を力に変えたい。変えてみせる。
私は強く願った。もし神様がいたら、こんな自分にも力を授けてくれると思う。いや、「いたら」じゃない、絶対にいる。そんな淡い期待を抱きながら、叫んだ。声帯を潰すかのように叫ぶ。
「こんなっっ!私にもっ!愛は、、、愛はっ!あるんだぁぁぁ!!!」
その叫びは、今にもひび割れそうな細い腕の先にいる少女にも届いていた。その言葉に、心の底からの安心感のようなものが生まれ、同時に諦観した。涙でぐしゃぐしゃになった顔にふと笑みが溢れる。
ありがとう。
そう言い残して、少女は握られていた手を振り払った。
これで良かった。これが良かった。この結末こそが、私の望んだ「ハッピーエンド」だと。
そして目を瞑った。浮遊感と不快感から目を逸らして・・・。