再会①
翌日―――――
「お母さん、行ってきます」
美優紀は速足で玄関を抜けると、鞄とお弁当を前籠に入れて自転車に乗った。
時間が無いのか、すぐ自転車はスピードを上げた。
共に自転車に乗るお蝶と俺。
お蝶さんは(多分)美優紀の荷台に座って、俺は荷台の後ろに捕まってとりあえず乗っている格好。
実は正確に言うと自転車に乗っているのではなくて、美優紀の本体に掴まっている。
美優紀自体の本体が小さいので、まあ頑張って2人か3人位しか俺等もついていけない。
ちなみに俺達より若い世代は、子孫について出ることは可能だがあまり力が無いので、自然と俺等がお供することが多い。
新しいモノ好き、華やかなモノが好きな俺とお蝶が今の所、美優紀担当だ。
俺もお蝶さんも自転車に乗ったことなどないから、美優紀にくっついて学校に行くのを楽しんでいる。
坂道を登りきると、美優紀の学校だ。
校門を潜って自転車置き場まで走って、自転車を止めるとすぐに親友の絵里に声を掛けられる
「お早う、ミユ!」
「お早う。昨日のガストンの新作見た。
あそこまでやるとは、ヤバいよね?」
自転車から降りて、俺等もゆっくりと美優紀達の後を歩く。
うん、俺も美優紀と一緒に「ゆうつべ」でガストン見た。
まじ、カッコ良かった。来週が楽しみだね。
登校時間で、華やかなブレザー姿の少女たちが動いていく。
制服はこの辺りで一番可愛いと評価の、赤と紺のタータンチェックのブレザーだ。
夏になると野郎は半袖白シャツになるが、女の子は胸に可愛いタイを付ける。
朱色のタイは遠目で見ると花が咲いたように鮮やかに見える。
なんでもこの制服を着ると、2割可愛くなるんだそうだ・・・。
―ソンナニイマカラガンバラナクテモミユキハカワイイノニ!!!!―
3年になる美優紀の教室は1階だった。
1時限目は歴史の時間。
俺、この年になって授業を受けるのが楽しみになった。
特にこの授業の先生がインテリ美女だからじゃなくて、今まで知らなかったことが聞けて結構楽しい。
英語の授業だってちゃんと受けている。
「あいあむ あ ごーすと。あいむ ふぁいん?・・・・・」
「今日は平安貴族の生活について、源氏物語を中心に考えていきましょう」
へえ、本当に12枚も衣着て、ちゃんと歩けるのかよ・・。
ほうほう・・。
美優紀は教科書の下にいつものノートを出して、一心不乱に男の絵を描いている。
目がでかくて、鼻が高くて、左右で目の色が違う・・・男?
最近美優紀がお気に入りの男子の絵だ。
うん、もう少し目を小さくして、骨が有る様に描ければなかなか良い男だとは思うさ。
―ホントウダヨ。
そうしていつもの放課後。
美優紀が帰宅しようとする男子の前に立ちふさがった。
「ねえ、田中君。今日は清掃当番だよね?」
「ごめ~ん。俺、今日部活だから、悪いけれどゴミ捨てお願い!」
運動部の田中君は隙をみてダッシュで走り去ろうとしている。
美優紀は不満顔の女の子2人と難しい顔で立っている。
「先週もそうだったよね?
誰かが掃除しないと、他の人ばかりやることになって不公平でしょ?
そんな事ばかりしているから、男子、まともに掃除する人居なくなっちゃってる」
「うん、大丈夫。
ゴミさえ捨てれば、あと1か月は大丈夫。誰も気にしないよ」
「私は気になるよ。
特に生徒指導の前田先生が気にするよ。
先生に聞かれたら田中君があと1か月位掃除しなくて良いって言ったから、で、良いんだ?」
由紀恵はお掃除用のデッキブラシを扱いながら、田中君に協力を迫っている。
「・・・まあ、その辺宜しく」
隙を見て逃げようとする男子の足を、由紀恵のデッキブラシが良い音を立てて狙い撃ちする。
大当たり!!
弁慶の泣き所だ。田中君は抱えていた邪魔くさい飾り物の付いたリックサックを落として呻いた。
「返答は如何に?」
「・・・・お前、鈴木、ひでえよ。
俺以外にもさぼっている奴、いくらでも居るだろう?」
「じゃあ、そいつら連れて来てよ。
全員、女子全員の恨みが籠った一撃を食らわせてやるわよ!」
美優紀の後ろにいた女子たちが、一斉に拍手する。
「一か月ゴミ当番やってね。なにせ、ずっとやっていないんだから!」
由紀恵では無い、他の女生徒が田中君に言い渡す。
応援する何人もの女子に言われて、田中君はゴミ箱を盾にして逃げだした。
「変なところに捨てたら、ただじゃ置かないからね」
「ミユ、さすが!!」
美優紀のいう事はもっともである。
お蝶と顔を見合わせて、我等は笑った。うん、しごくごもっとも。