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7 鎧



 ネロは、ユリウスに頼まれた再起不能にした人間たちを玉座の間に部下を使って運び、それが完了したことをユリウスに伝えに来た。


 少し話がしたいというネロを応接室に案内し、お茶を入れるレテシア。

 きちんと姿勢を正して座るユリウスと対照的に、ネロはソファに深く腰を掛けて気怠そうに座っている。


「ありがとう色欲。私に捕まえた人間を渡してくれるとは、正直思っていなかったよ。」

「まぁ、他の大罪なら反発するだろうけどね?僕は君のこと少しはわかっているつもりだよ。君はさぁ、別に同じ種族だからって、人間を無条件に助けるような人じゃないよね。何かしら必要だから欲しいって言ってきたんでしょ?」

「その通りだよ。まぁ、召喚された者たちとの戦いは大罪全員に見てもらう予定だから、その時になったらなんで必要だったかわかると思うよ。ところで、話って?」

「ちょっと面白い話を聞いて、これは君に確認しないとって思ったんだよね。ちょっと人払いをお願いできるかな。」

「人払い?」

「君の部下に聞かれては困ることだと、僕は思うんだけどね?」

「・・・レテシアに聞かせて困るようなことなんてないから、このままでいいよ。」

「あららざんねーん。2人きりになりたかったのになぁ。」

 レテシアがネロを睨みつけるが、ネロはまっすぐにユリウスを見て相手にしない。


「前々から気になっていたんだけど、君は男だよね?」

「もちろん。」

「君は私を可愛がりたいといつも言うけど、それは・・・その色欲なりにということでいいの?」

「え、何々、興味が出ちゃった?なら今すぐに可愛がってあげるよ!」

「・・・悪かった。何でもない。見境がないな本当に。別に私が男に見えないわけじゃないんだよね?」

「弱さで言ったら女の子だけどね!まぁ、別に僕も本気で君を可愛がりたいとは思っていないよ。僕が可愛がりたいのは、僕と同じか、それ以上に強いものだからね。」

「あなたの好みは興味がない。」

「そう?・・・君が、勇者の力を未だに持っていたら、絶対狙うけど・・・今の君に価値はないからな。」

「それはよかった。」

「いや、君には元から価値がなかったのかな?偽物さん。」

「・・・」

 ニタニタと笑うネロを冷たく見返すユリウス。レテシアはそっとユリウスの顔をうかがって、ユリウスのカップに紅茶を注いだ。


「君って、前から黙り込むことが多かったよね。寡黙な人なのかなって思っていたけど、あの人間たちの話を聞いて思ったんだ。ボロを出さないために寡黙を装っているんじゃないかって・・・」

「確かに、私の口数は少なくない方だけど、大罪たちの前で黙っていることが多かったのは、私が口を開くと周りがうるさいからだよ。それで、私が死んだ話でも色欲は聞いてきたの?」

「うん。勇者たちの間では有名、というより城で教えられた話なんだってね。前の勇者ユリウスは志半ばで命を落とし、その遺志を引き継いだはずの勇者は人間を裏切った・・・君のことだよね、怠惰?」

「・・・別に、私がユリウスだろうとなかろうと、今関係がないと思うけど・・・ユリウスは私で間違いないよ。勇者の力も、私が持っていた。」

「まぁ、確かにそうなんだけどね。もうちょっと動揺してくれてもよかったのに、つまらないな。」

「話はそれだけ?」

「ちょっと、追い出そうとするのやめてよ。僕さ、君のために動いてあげたんだから、話くらい付き合ってくれてもいいよね?」

「・・・はぁ。」

「強欲に聞いたよ、君思ったよりいい動きするって。本気で殺そうとしたら難しそうだって言っていたけど、だったらなんで弱いフリしてるのさ?もしかして、僕たちにいじめられて喜んでいるマゾなの?」

「・・・色欲、見たほうが早いよ。今からあなたを本気で斬る。」

「え、抵抗するよ。」

「しなくても大丈夫だから、動かないで。」

「いやいや、避けるよ!?」

「大丈夫、傷一つつかない。」

 ユリウスは剣を抜いて、素早い動きでネロを斬りつけるが当然ネロはよけた。


「ちょ、本気!?」

「大丈夫だって。」

「いやいや、本気じゃん!嫌だよ!」

「・・・レテシア、動かないで。」

「はい。」

 ユリウスはネロを諦めてレテシアに斬りかかった。レテシアは眉一つ動かさずにその首にユリウスの剣を受ける。


「何やってんのーーーーー!自分の部下に何してんのーーーー!!」

「本気で斬りつけようとした。」

「殺す気か!」

 ネロの絶叫に近い問いに、ユリウスは首を振って答えて剣をしまう。血の一滴も付いていない剣を。


「ご安心ください、傷一つついていませんので。」

「はぁ?・・・あれ、本当だ・・・寸止めしたの?」

「いいえ、確かに私の首筋にユリウスさまの剣が当たりました。」

「・・・どういうこと?」

「私は、勇者の力を失ったと同時に、魔物相手ではそこら辺の村人よりも弱くなった。パラメータで言うと、攻撃力的なものが魔物相手だと0になるの。」

「・・・は?」

「あなたたち魔族、魔物は常に鎧を一枚着ている状態で、私はその鎧に傷一つ付けられないの。だから、あなたたちに攻撃が一切届かない。」

「いや、意味が分からないけど?」

「今見たことが真実ってこと。どれだけ本気で私が攻撃したとしても、私はあなたたちに傷一つ付けられない・・・」

 座りなおしたユリウスに続いて、呆然とした様子のネロも慌てて座りなおした。


「つまり、君が魔王軍に入ったのって、僕たちを倒せなくなったから?」

「そう思ってくれてもいいよ。あなたたちに攻撃が通るようになる能力は、勇者だけでなく召喚者全員に与えられたもので、私はそれを与えてくれた神の意に反したから、その力を失った。村人にだって与えられている能力なのに、それさえ私は奪われたんだ。」

 どこか遠い目をするユリウスをネロは何とも言えない気持ちで見る。

 人間にとって、神はネロたちにとって魔王なのだろうと思い、そのような存在に力を奪わられるなど、辛くて仕方がないだろうと哀れみを向けるネロ。


 村人にも与えられているということは、それがなければ生きられないという意味。つまり、ユリウスは神に死ねと言われたも同然だった。


「君は、一体何をしたの?」

「・・・あなたも知ってるでしょ。私は、魔王を殺さなかった。」

「そんなの殺せなかったからでしょ?」

「違う、殺さなかったんだ。あなたたちは私が力不足だから魔王を殺せなかったと思っているようだけど、私は魔王と戦ったとき勇者の力を持っていた。・・・殺せたんだよ。」




 魔王は確かに強かった。

 でも、勇者に与えられた力は反則的に強く、魔王のスキを突いたユリウスは即死の魔法を発動させ、あとは魔王に触れるだけのところまで魔王を追い詰めた。

 そのまま魔王を殺す意思があれば、ユリウスは確実に魔王を殺すことができた。


 でも、ユリウスは即死の魔法を解き、魔王を殺さなかった。

 そんなユリウスを、魔王も殺さなかった。


 そして、神はユリウスから力を奪ったのだ。




 ユリウスが遠い目で昔を思い出していると、ネロはにたりと笑って動き出した。

 レテシアが反応できない速度で、ネロはユリウスにつかみかかって、ユリウスの上にまたがり周囲をファイヤーウォールで囲う。レテシアが悲鳴を上げて、ファイヤーウォールを破ろうとするが、時間がかかりそうだった。


「答えなよ、怠惰。君は魔王様に情けをかけたのか?敵に情けをかけたのか、君は。」

「・・・そんな高潔な思いは私の中に無い。」

「ならなぜ?答えによっては、今ここで僕が君を殺すよ。敵に情けをかけてしまうような人間は、信用できない。」

「敵・・・ね。敵ってなんだろうね。少なくても、あの時私が殺そうと戦っていた時から、魔王は私の敵ではなかったよ。」

「御託はいいから、答えなよ。」

「だから、魔王が敵ではなかったから、私は魔王を殺さなかった。これ以上は話すつもりはないよ。」

「隠し事が多い奴だ。」

「・・・私は、君たちに心を許した覚えはない。私が、この世界で唯一心を許したのは、アレクシードだけだ。私はあなたたちを全力で守るけど、心を許すつもりは全くない。」

「この状況で、よくそれだけ強気になれるね。少しくらい痛い目を見れば、大人しくなるかな?」

 ネロが手をあげて、ユリウスの脇腹を突く・・・貫いた。


「ぐはっ!?」

「本気だよ。意地を張っていないでさっさと話しなよ。」

「・・・聞きたかったら、私の信用を得ることだね、色欲・・・」

 ネロはいまだにユリウスの脇腹を貫いている手を動かす。


「ぐっ・・・ぅ・・・」

「調子に乗らないこと、わかるかい人間?」

「くっ・・・うぅ」

「君は、調子に乗りすぎた。だから、いまこんな痛い思いをしているんだ。嫌だよね?なら、態度を改めて僕に洗いざらいすべてを話して。」

「誰が、ぁああっ!」

 脇腹の傷が広げられた。強烈な痛みがユリウスを襲い、涙がこぼれる。


「素直になりなよ。痛いのは嫌でしょ?」

「・・・あなたこそ・・・死にたいの・・・」

「まだそんな口を利くの?そうだ、その生意気な目をつぶしてあげよう。」

 脇腹から手を出して、ユリウスの血で汚れた手でユリウスの目を狙うネロ。

 その時、周囲の炎が霧散し、レテシアがネロを蹴り上げた。


「ユリウスさま!」

「すごいすごい、よくやったねレテシア。」

「れ、テシア・・・」

「ユリウスさま・・・ご説明いただけますか。なぜ、ユリウスさまがこのような目に合わなければならなかったのかを。」

 ネロを睨みつけるレテシアの背後で、ユリウスは自分の傷の手当てを始める。止血は魔法でできたが、痛みは消せない。


 痛みに耐えながら立ち上がって、剣を構えた。






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