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6 勇者



 40人いる勇者の一人、吉田は魔物に殺されて死んだという者を埋葬している現場に立ち会って、この世界に来てから聞いた前の勇者のことを思い出した。


 勇者ユリウス。金の髪と青の瞳を持つ、当時のまとめ役。確かな実力に、人望もあり容姿も整っていた彼は、あっさりこの世を去った。

 魔王とその部下にその力を振うことなく、神狼という魔物に負わされた傷が悪化し、この世を去った。そして、それが前の勇者たちの全滅につながった。


 ユリウスの遺志を受け継いだ勇者が、魔王軍に寝返ったのだ。

 あっという間に、勇者たちは一人残らず殺され、そして吉田たちが召喚された。


「吉田君、もう行こう。いつまでもここにいても仕方がないよ。」

「そうだね、加藤さん。松岡も行こう。」

「あぁ。」

 吉田は、加藤、松岡、土屋、下野5人班の班長だ。他の班からは、吉田が学級委員長だったことから、委員長班と呼ばれている。


「俺たちは、必ず生きて帰ろう。もとの世界に。」

「そうね!」

「当然だ。」

「そのために、魔王を倒そう。あと1週間ほどで、魔王領に入る。他の班とも、もうすぐ合流できるはずだけど。」

「委員長!」

「土屋、どうかしたか?」

 宿で待機していた班員が走って吉田のもとに来た。


「オタク班と運動部班が合流した!あと、猪木班にけが人が出て、合流が遅れるってオタク班が言っていた。」

「わかった。あと4つか・・・」

「いくら旅慣れないからって、連絡もよこさないなんて・・・全くどういうことよ!」

「リア充班はともかく、他の班は連絡くらい寄こしそうなものだけど、何かあったのかな。一応、城に報告しよう。」

 全部で8班あるうち、4つの班と連絡が取れない状況に、吉田の頭には先ほどの埋葬や前の勇者のことが頭によぎった。


 無事だといいが・・・






 大罪会議


「おい、怠惰・・・強欲から話は聞いた。しっかりと説明しろ。いつものようにだんまりは通じない。」

「最弱のくせに、僕たちに動くなって、何様のつもりなのかな?」

「ワレたちの行動に文句をつけるとは、怠惰は偉くなったものだな。」

「まぁ、話を聞いてみましょうよ。この、怠惰が、動くと言っているのだから、私興味があるわ。」

「わしも、怠惰がどのように勇者を殺すつもりか、気になるのぅ。」

「・・・・・」

 面倒だというのを隠しもせず、遂にユリウスはため息をついた。

 その態度にデルマン以外の大罪から殺気が放たれる。すかさず、ユリウスの背後に控えていたレテシアが、ユリウスを守るように抱きしめる。


「レテシア、大丈夫だから。」

「はい、ですがこのままで。」

「・・・はぁ。まずは、大罪に行動を控えて欲しいと言ったことの説明だけど、前の会議でも話したかな・・・あなたたちでは、勇者には勝てない。だから、勝手に犬死されないように、つまり勇者と会わないようにして欲しいってこと。」

 ユリウスは周囲への警戒を強める。今の発言で大罪たちが激高すると思ったからだ。しかし、殺気が強まるだけで大罪たちは動き出さなかった。


「怠惰の弱音など聞きたくもないが、まずはその前提で話を聞くとしよう。安心しろ、いきなり半殺しにしたりはしない。しっかり警告はしてやる。」

「本当は、もう君を可愛がりたくて仕方がないけど、今回は君に任せてみようかって感じだから、続きを話すことを許してあげるよ。」

「くだらないことを言ったら、半殺しと言わず殺す。」

「それは駄目じゃよ。怠惰でいる限り、人間でもわしらの仲間じゃ。」

「で、私達は怠惰に過ごすとして、怠惰のあんたはどうするの?」

「私もここを動くつもりはない。強欲には話したけど、まず勇者の隠れ蓑になっている者たちを処理する。」

「勇者の隠れ蓑だと?」

「うん。召喚された人間は40人いるけど、その中に勇者は一人だけ。まず、勇者の定義だけど、即死の魔法が使えるというのが、勇者の定義になる。」

「ちょっと待ちなさい。即死の魔法とは、具体的にどういうものなのかしら。聞いたこともないわよ、そんな魔法。」

「・・・神に与えられる、召喚された勇者だけが扱える魔法だから、強欲が知らなくても無理はないよ。これが、あなたたちが勇者に勝てないって言った理由なんだけど、即死の魔法はその名の通り、触れられて魔法を発動されらたら死ぬ。触れさせなければいい話だけど、そんなこと難しいでしょ?」

 ちらっとユリウスはアーシェに視線を向け、アーシェはユリウスに剣を首に当てられたことを思い出して苦い顔をした。


「うむ、ではとりあえず勇者がその定義として、他の勇者・・・召喚された他の人間は、その勇者を隠すためにある存在という認識でよいのじゃな?」

「うん。即死の魔法は、扱いが難しいし・・・ここに来たばかりの勇者はあまり強くないから、時間稼ぎのために存在している人たちだね。まぁ、一気に殺してしまえばいいだけの話だけど、もう遅いからね。」

「ねぇ、怠惰。君の話を聞いていると、勇者が誰かもうわかっている様子だけど?」

「そんなの、アレクシードを殺した奴に間違いない。」

 数段低い声、部屋の温度が下がって、大罪たちは目を丸くする。


「怠惰、お前まさか・・・」

「忠義はなくても、友情があるようじゃよ。」

「はっ。いくら怒りを抱えていても、弱い奴にはどうしようもないだろ。」

「でも、どうにかするのでしょう、怠惰?」

「まぁ、勇者は無理でも、隠れ蓑くらいは倒せるんじゃないの?」

「・・・」

「おい、今日はだんまり話だ、怠惰。」

「・・・とりあえず、私に任せて欲しい。悪いようにはしないし、もしも勇者に地獄を見せられないのなら・・・私は怠惰をやめる。」

 ユリウスの言葉に、ユリウスを抱きしめているレテシアの体が震えた。


「はっ・・・お主、それがどういう意味か分かっているのか?その時は、我がお主を殺すということだ。」

「いや、俺が殺そう。」

「僕がかわいがってあげるよ。殺すなんて、可哀そうだよ?」

「あら、もちろん私が殺すに決まっているじゃない。」

「威勢がいいのぉ。そうかそうか・・・怠惰をやめる、か。」

「私がどれだけ本気か、それぞれ理解してもらえたということでいいかな。」

 大罪たちを見回すユリウス。そんなユリウスに、大罪たちはそれぞれ視線で応えた。


「では、一度怠惰にすべて任せてみるということで、反対はないかの?」

「・・・いいだろう。」

「それについては異議なし~でも、殺すなら僕がかわいがってからにして?」

「いいわ。」

「怠惰にはうっぷんがたまっているからな、殺すのが楽しみだ。」

「うむ。では、怠惰よ・・・大罪を代表し、お主が魔王様の敵を討つのじゃ。」


「・・・色欲。」

「ん、何?死ぬ前にかわいがって欲しいの?」

「いや・・・少し協力して欲しいことがあって・・・前に戦闘不能にした召喚された人間を私にくれない?」

「そんなこと?別にいいよ。」

「なら、玉座の間に運んで欲しい。あとは、私一人で大丈夫だから。」

「・・・まぁ、それくらいの手伝いはしてあげるよ。弱い人間が、一人で多勢を相手にするって言うんだからね。」

「ありがとう。みんなも、詳細を話していないのに私に任せてくれてありがとう。」

 ユリウスは立ち上がって頭を下げた。


「今から命乞いか?」

「邪魔者を消せる機会が与えられたから任せるだけだ。」

「素直にお礼を言えるのは評価高いよ?」

「まぁ、あなたがどうにかできるとは思っていないから、機会を譲ってあげるだけよ。せいぜい、楽しませてちょうだい。」

「高みの見物とさせていただくかの。」

 少々厳しい言葉ばかりだが、ユリウスは聞いていない。

 大罪たちが自分をどう思っているのか、ユリウスには関係がない。ただ、魔王の大切な部下たちだから、絶対に守るという考えしかない。

 あとは、自分がうまくやるだけだ。




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