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4 レイオール




 息苦しい大罪会議が終わり、ユリウスはお風呂に入った後にすぐに寝室へと向かった。

 窓から入り込むあたたかい光に癒されながら、お昼寝日和だと鼻歌を歌いだす。


 ユリウスが寝ることが好きだ。寝ている間は過去を忘れられるし、悪夢を見ないユリウスは幸せな世界で穏やかに過ごす夢を楽しみにしていた。


「今日は暴食のせいで疲れた・・・」

 呟きながら寝室の扉を開けるて、閉めた。


「・・・」

 疲れすぎて目がおかしくなったのかと思い、もう一度寝室の扉を開けるが、そこにはレテシアがチャイナドレスを着て待っていた。


「お疲れ様です、ユリウスさま。」

「そのコスプレは何?」

「こすぷれ?これは、世の殿方が好む服装その1ですわ。いかがですか?抱き枕にしたくなりませんか?」

「いや・・・人を抱いて寝る趣味はないから。」

「これから趣味にすればいいですわ。」

 にっこりと笑って、ユリウスの手を優しく包みこむように握るレテシア。

 レテシアの瞳と同じ赤のチャイナドレスは丈が短めで、ちょっとアウト。ニーハイソックスはどこで手に入れたのか・・・どう考えても勇者たちの暗躍する姿が浮かぶ格好で、その点はユリウスの気分が沈む。加えて、ユリウスはチャイナドレスが好きではなかった。いや、昔は好きだったが、昔の勇者の中にいた大嫌いな勇者がチャイナドレスを着ていて、それを思い出すから顔をしかめてしまうのだ。


「申し訳ありません、お気に召しませんでしたか?」

「ごめん、よく似合ってると思うけど・・・昔それを着ていた人を思い出して。」

「・・・それは、どなたでしょう?どうか教えてくださいユリウスさま。ユリウスさまにそのような顔をさせるそのどなたか・・・・ちょっと私話があります。」

「え、怒ってるの?」

「はい。ユリウスさまが顔をしかめるほどの何かを、そのどなたかはしたのでしょう?万死に値します。」

「万死って、大げさだよ。」

「大げさではありません!誰なんですか、そのビッチは!」

「び!?ちょ、そんな可愛い顔して何言ってんのレテシア!落ち着いて、どうどう。」

「はっ!・・・私を馬扱い?」

「あ、ごめん。馬は嫌だったよね、ポニーにしよう。」

「いえ、わかりました。少々お待ちください。」

 何が分かったのかユリウスにはわからなかったが、レテシアが行った後にユリウスはベッドに腰を下ろした。そのまま仰向けに寝転がる。


「次は、メイド服かな。」

 唐突に出て行ったレテシアは、おそらく着替えに行ったのだろうと思って、ユリウスはレテシアのメイド姿を思い浮かべる。


「現代風が好きだけど、最近は正式なものもいいって思ってるし、レテシアなら何を着てもかわいいよね。着物もいいかも。あ、でも制服姿が見たいな。絶対この世界だとみることないだろうけど・・・うちの学校の制服に合うだろうなぁ・・・」

 もう見ることはない制服を思い浮かべて、すぐに消した。


「だめだ・・・嫌な思い出過ぎて、似合うけど楽しめない。」

 ユリウスにとって、勇者時代の出来事は悪夢でしかなかった。できれば思い出したくない、忘れたい・・・そんなことを思って、ユリウスはそのまま寝入った。




 怠惰 怠惰 イチノセ


「はっ!」

「やっと起きたか、イチノセ。」

「あ、うん・・・寝てたの私?」

「あぁ。俺を殺しに来た奴と同じとは思えないくらい無防備に寝ていたぞ。」

「ふーん、で?魔王はそんな無防備な勇者の寝首をかかなかったの?」

「そんなことをしたら、俺の友人がいなくなるだろう。ほら、水だ。今日はもっと付き合ってもらうからな、とりあえずその眠気を吹き飛ばせ。」

 そういって渡された水は、凍っていないのが不思議なほどキンキンに冷えていた。こういう器用なとこがすごいと褒めて、水を飲む。


「魔法は、生活を便利にするためにあるんだ。生活の役に立たない魔法など、本来不要だと俺は思う。」

「みんなが魔王みたいな考えだったら、私も普通に生きられたのかな。」

「今の生活に不満があるのか?」

「・・・どうなんだろう。」

 何もしなくていい「怠惰」にしてくれたことは感謝している。でも、他の大罪に嫌味を結われる日々は、まぁ、嫌だ。

 でも、それでも魔王の傍を離れる気はない。


「でも、ありがとう、魔王。怠惰は、本当はあなたがなりたかった大罪でしょ?」

「なんだ、バレていたのか。」

「わかるよ。上に立つと、自分の力以上を求められて、すり減って・・・」

「だが、お前はもう上ではない。補佐は付けたが、お前は何もしなくてもいいんだ。お前が何もしなくても俺は、失望しない。見捨てない。安心して怠惰でいろ。」

「・・・本当に感謝してるよ。ま・・・アレクシード。」

「知っている。だからこそ俺は、絶対お前を裏切らない。」

 魔王は、本当にユリウスを裏切らなった。たとえ死ぬことになっても、裏切らない強さと優しさがアレクシードにはあったのだ。




 頬に伝う涙に気づいて、ユリウスはそれをぬぐおうとした。しかし、その前にその涙は優しく奪われる。


「ん?」

「お目覚めですか。」

 目を開けたユリウスの目に、ドアップの美少年が映る。慌てて距離を取ろうとするが、美少年の腕はしっかりとユリウスを拘束していて・・・抱きしめられてる!?と混乱したユリウスは硬直した。


「な、な、なな!?」

「これは驚きました。」

 にっこりと笑う美少年に、驚いたのはこっちだと心の中でユリウスは叫ぶ。この不審者はなんだ、レテシアは?とユリウスは周囲を見渡す。


「レテシアっ!」

 自分の寝室だと理解して、屋敷内にいるはずのレテシアを呼ぶ。

 レテシアの声は、すぐに帰ってきた。真正面から。


「はい、なんでございましょう。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」

 よく見ればこの美少年、レテシアと同じ色をして同じ空気をまとっていた。涼やかな青い髪に、静かに燃える炎のような赤い瞳。

 レテシアはサキュバスで、サキュバスは男の姿と女の姿を持っていることをユリウスは思い出したのだ。


「レテシア、なの?」

「正確には、レイオールでございます。それにしても驚きました。あなた様にはそちらの趣味がおありだったとは。」

「そちら?」

「レテシアとして接している時よりも、いい反応をしてくださると思いまして。お顔が真っ赤ですよ?」

「な・・・」

 確かに、ユリウスの顔は真っ赤だ。これではそう、男を愛す男というものではないかと疑われても仕方がない。


「ば、馬鹿!こんな抱きしめられてたら、男女関係ないよ!」

「つまり、接触行為が効果的ということですね。」

「・・・・・・・いいから離れて。」

 若干涙目になったユリウスを見て、今度はレイオールの頬が朱に染まる。レテシアであればいうことを聞くのに、レイオールはユリウスの言葉を聞かずにさらに抱きしめる力を強めた。


「!?」

「離したくないです。こんなに可愛い顔をして・・・俺は、そんな趣味なかったはずなんですけど、あなた様なら・・・」

「な、何を・・・言っているの?いや、本当に駄目だって・・・お願い、レテシア!可愛いレテシア、戻ってきてぇえええええ!!!」

 本人が目の前にいるにもかかわらず、恥ずかしさをごまかすように大声を上げるユリウスに、レイオールは肩をすくめた。


「仕方がありません。今日はここまでに致しましょう。」

「いや、もうレイオールは出てこないで!そもそも、なぜ男の姿になったの!?今まで一度だってならなかったのに!」

「馬扱いしたからですよ。」

「嫌がらせかい!」

 レイオールとしては、冗談で男の姿を取ったのだが、思わぬ収穫を得たとほくほく顔になって、ユリウスを解放する。

 ユリウスは解放された瞬間、転がってベッドから落ちて、ベッドの陰に隠れた。


「女の子に戻るまで口きかないから!」

「それは困りますね。では、またしばらくお待ちください。」

 レイオールが立ち去るのを待ってから、ユリウスは大きくため息をついた。


「はーーーーーー。あ、鏡・・・」

 思い出したように鑑の前に立って自身の姿を確認して、息をつく。


「よかった・・・よだれもたれてないし!」

 さっと、衣服の乱れを直したユリウスは、小腹が空いたと部屋を出る。


 おやつの時間だ。




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