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 優しい光が降り注ぐサンルームで、ユリウスはゆったりと外を眺めている。そんなユリウスのもとに、レテシアが来客の知らせをよこした。もちろん断ろうとしたユリウスだったが、客人はそんなユリウスを見越して、サンルームにまで侵入してきた。


「相変わらずじゃの、怠惰よ。」

「暴食か・・・用があるならここで話して。」

「元からそのつもりじゃ。お主はこれからどう動くつもりなのじゃ?嫉妬は軍を強化し、色欲は勇者共の偵察に向かった。強欲など、人間の村をすでに手に入れておるが。」

「見てわからないの?日向ぼっこしてる。」

「うむ、確かにそのようじゃな。つまり、動く気はないと?」

「・・・まさか、怠惰が動くと思っていたの暴食?」

「そうか、見込み違いであったようじゃ。お主の魔王様への忠義はその程度であったのじゃな。」

「忠義なんて、元から持っていない。だいたい、最弱と蔑まれる人間の大罪に何ができると思う?人間らしく、ここに引きこもっているよ。流石に、勇者が魔王城に攻め込むのなら、向かうけどね。」

「・・・何か考えのあってのことか?」

「・・・一つ、事実を教えるけど、魔王は勇者には絶対に敵わない。大罪の中で魔王よりも強い者が何人いる?悪いことは言わない、勇者には手を出さない方が身のためだよ。」

「ならばこそ、憤怒の出番じゃな。」

「憤怒・・・を知っているのか?」

 大罪の一人憤怒は、魔王軍の中で定例会議にも姿を現さない謎の人物という認識だ。たった一つ、知られていることは女性であるということだけ。種族すら謎だ。


「あぁ。魔王様に何かあった時のために聞かされていたのじゃ。魔王様は、憤怒が大罪を率いるのにふさわしいとお考えじゃ。」

「それは、他の大罪が黙っていないと思うけど?」

「お主は、我らの忠誠を軽く見過ぎじゃ。確かに反発はあるじゃろうが、魔王様の望みであれば、みな従う。お主はどうじゃ、怠惰?」

「・・・さぁ?その時は面倒になって、怠惰は消えているかもね。」

「そうか。では、これで失礼するかの。あぁ、さっきの・・・魔王様が勇者に勝てないという話、他の大罪にも伝えておこう。」

「好きにすれば。」

 デルマンから目を外して、どこまでもすがすがしい青空を見上げるユリウス。その瞳に確かに怒りが込められているのを感じて、デルマンは笑った。


「お主には忠義が感じられんが、確かに友情があるようじゃ。ならば友の頼み、聞き入れてくれると信じようぞ。」

「・・・いつまでいる気?用が済んだならさっさと帰ってよ。」

「うむ。」

 デルマンが立ち去るのを確認して、ユリウスは寝転がって腕で目元を隠す。


「魔王・・・なんであなた、そんなに馬鹿なんだ。」

「ユリウスさま、こちらをどうぞ。」

 柔らかくて軽い何かがユリウスの顔に覆いかぶさった。タオルだ。


 ユリウスは涙を流していた。それは、魔王の馬鹿さ加減と自分の弱さに腹を立てて流れたものだ。魔王は、ユリウスを大罪にしたときからずっと守ってくれた。

 友人としてそばにいてくれた。


 それなのに、絶対勝てない勇者と戦うことになってしまったのだ。

 勇者は、魔王を倒すためにこの世界に現れる存在。その身には魔王を倒せる力が宿っている。だから、決して魔王は勇者に勝つことがない。


 勇者が力になれていない序盤であれば、魔王にも勝機はある。今回の勇者は召喚されてから半年と経っていて、十分に経験を積んでいれば力になれ、その力を自分のものにしているだろう。

 魔王を倒せたということは、勇者は自分の力をものにしている。


 そんな勇者に、魔王を倒せた勇者に大罪が勝てるはずはない。


「このまま放っておけば、全滅だね。」

「いいえ、全滅になどさせません。たとえ、すべての大罪が勇者に殺されたとしても、あなた様だけは私がお守りいたします。」

「レテシア・・・」

「はい。」

「決して、勇者と戦おうなんて思わないで。あれは、反則の力を持っているから。」

「理解しております。」

「そう、ならいいよ。ちょっと暑いね、アイス持ってきてくれる?」

「かしこまりました。」

 レテシアが部屋を出て、ユリウスは起き上がってタオルを軽くたたむ。


「せめて、あなたの大切な大罪は、守ってみせる。不甲斐ない私を守り続けてくれたせめてものお礼だよ、魔王。」

 綺麗な銀髪と、惹きつける赤い瞳の魔王は、優しすぎた。だから死んでしまった。でも、だからこそユリウスはその魔王に友情を感じられたのだと思えば、自然と笑うことができた。




 大罪会議。

 いつものように憤怒を抜いた大罪のすべてが参加をしている。進行役はいつものように暴食が行った。


「さて、それぞれ動き出しているようじゃの。まずはその報告から聞こうかの。」

「特に聞かせるようなことはないな。ただ、軍はさらに強化されたことを保障しよう。」

 腕を組んでつまらなそうに話す嫉妬のゴーランに続いて、手を上げて色欲のネロが報告する。


「はいはーい。勇者たちだけど、40人中、15人は使い物にならなくしといたよ。足腰立たなくてぇ、精神もずったずたにしといたよ。」

「恐ろしい子じゃな、色欲は。」

「え、何が?」

「お前、偵察に行くと言ってはなかったか?情報は何か得られたのか?」

「あぁ、なんか~勇者たちって、5人一組で行動してるみたいでぇー・・・そのうちの1組は絶対許さないなぁみたいな?」

「その一組とは?」

「勇者たちの間だと、リア充班って呼ばれているらしいよ?」

「???」

 意味が分からないという大罪の中で、唯一怠惰だけが見当のついた顔をした。つまり、カースト上位者だと。


「ふむ。他には何かあるかの?」

「うーん・・・なんだか、傲慢だったなぁ勇者たち。みんな自分がこんなところで終わるはずないって思っていてぇ・・・あ~あれは面白かったな。もう終わりなんだって理解したときのあの顔、あれはいいねぇ。」

 可愛らしい顔に似合わない嫌な笑みを浮かべたネロを流して、強欲のアーシェが報告する。


「私は、村を3つ支配したわ。でも、あんまり魅力ないのよね、誰かいる?」

「お主は手に入れたら満足するタイプじゃからな。手に余るようだったら、魔物の餌にでもすればよい。」

「あら、流石暴食ね。食べさせるなんて思いつかなかったわ。ところで怠惰は、何か意見はないの?」

「特には。」

「そう、つまらないわね。人間たちの命乞いでもすれば面白いのに。」

「・・・」

「怠惰、暴食から聞いたが、お前勇者に勝てるわけがないと弱音を吐いたそうだな?どういうことか説明してもらおうか。」

「あぁそれ、私も気になっていたのよね。まさか、魔王様の敵を前にして逃亡でもするのかと、疑ったわ。」

「その前に、僕が捕まえてあげるよ。15人の勇者たちと同じように可愛がってあげるから、何も怖くないよ?」

「弱いからって何もしないのにも腹が立つが、弱音を吐いて耳障りなんだよ。何もしないならしないで、城の奥にでも閉じこもっていろよ。」

「・・・」

「まただんまりか?」

 面倒なことになったという顔をしたが、話すべきだろうとユリウスは口を開いた。


「私は事実を言っただけだよ。だけど、もしもこの中に魔王よりも強いという者がいるなら、その者は勇者に勝てる可能性があるけど・・・いるの?」

 その言葉に誰もが黙る。

 そう、誰もいないのだ。勇者には中ボスと間違われた魔王だが、その力は魔王軍の中では最強とされている。ただ、魔王以外誰も見たことがない憤怒だけが、魔王を超える力を持っているが・・・


「ならば、憤怒の出番じゃな。」

「憤怒ねぇ・・・本当にそんな大罪は存在するのかしら?前も聞いたけど、誰か憤怒を見たことある者はいるの?」

「俺はない。」

「僕も、女の子ってことしか知らなーい。」

「ワレもだ。」

「わしは、魔王様から話は聞いておるがの。じゃが、わしよりも詳しい者が別におる。」

 ちらりと視線をよこされたユリウスは、ものすごく嫌そうな顔をする。


「まさか、怠惰が?」

「あら、なら知ってることをすべて吐き出しなさいな。言わなければ10回くらい瀕死状態にしてもう一度聞くわよ?」

「いやいや、弱い人間なんてすぐ死んじゃうから。僕が優しく聞き出してあげるよ。」

 ぴょんと机に飛び乗って、ユリウスの前に現れるネロ。そのネロの瞳に殺気が宿った瞬間、ユリウスの頭に柔らかい何かが押し付けられる。


「邪魔、しないでよレテシア。」

「では、ユリウスさまに殺気を向けるのをおやめください。」

 にらみ合うネロとレテシア。そんなレテシアに風魔法が放たれて、レテシアはそれを風魔法の壁で防いだ。


「大罪でない者が発言するなど不敬だ。戻れ、怠惰の部下。」

 風魔法を飛ばしたのはゴーランだった。腕を組んで鋭い視線をレテシアに向けるが、レテシアは全くひるまない。


「それについては謝罪いたします。しかし、緊急事態でありましたので。私の上司がひどい目に合うと聞かされて動かない部下はいません。」

「別に、怠惰が素直に話せばひどい目になんて合わせないわ。この事態を引き起こしたのは怠惰よ。部下なら上司の説得でもしてこの事態をおさめたらどうかしら?」

「その必要はありません。なぜなら、ユリウスさまには皆様にお話ししなければならないことなどありませんもの。それは、皆様もご存じのはず。」

「そうやって、部下の次には魔王様の陰に隠れるのか、怠惰。」

 怠惰に強制的に何かをさせることはできない。それは魔王の決めたことで、大罪たちはそれに従っているが気に入らない。


「うわ~なんで君大罪なの?同じ大罪として恥ずかしいから、今すぐ消えてくれない?」

「本当、なさけないこと。」

「これだから弱い人間は。」

「・・・」

 どれだけ言われても黙り込むユリウスに、大罪たちは呆れたように話題を変えた。その様子を見たレテシアは、ユリウスの頭をぎゅっと抱きしめた後、さがった。


 ユリウスは心の中でため息をつく。

 なぜ、勇者についてこれほどまでに知られていないのかと、大罪たちに呆れた視線を向けそうになって、目を瞑った。


 先ほどは魔王よりも強ければ勝てる可能性があると言ったユリウスだが、勇者に勝つことができる魔物などいないだろうと分かっている。

 それほどまでに、力を自分のものにした勇者は反則的な強さを持つ。なのに、それをわかっているのが、魔王軍では魔王と自分だけであることに先が思いやられた。


 説明しても理解できないだろう・・・

 ユリウスは口を堅く結んで、何も話さないことに決める。






イメージイラストを描きました。

pixivなどで公開しますので、興味のある方はご覧ください。

今回、大罪全員とレテシアを描きました。



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