91話
「そんなに柊家として見られたくないならば、黒炎として誰かに必要とされる姿を見せなさい。そうだな……全校生徒の署名でも集めてきてもらおう。もし出来なければ、黒炎は別の学校に転校させる。君とも一生会うことはできない。そうだな……署名の内容は黒炎が別の学校に行ってしまわないように、でどうだろう。どのみち、今の学校は黒炎に相応しくないからね。これは君への試練だ。……黒炎、お前は僕が海外でやる仕事を手伝うんだ。僕がいうノルマをこなしたら、交際を認めてあげるよ。どちらも期限は1ヶ月だ」
「なっ……」
「やります。それで黒炎くんとの交際を認めてもらえるなら」
「朱里、でも……!」
「大丈夫。たぶんね、今の試練をクリアできて実は嘘でしたなんてこと紅炎さんはしないと思うの。だって、この試練あまりにも無謀でしょ? だから無理だって思わせてる紅炎さんを驚かせよう。ねっ? 私たちならきっと……ううん、絶対できるから。私やってみせるよ」
全校生徒の数がどれだけいるのかはまだ把握していない。だけど、他の学校に比べたらかなりの数がいることは間違いない。そんな中、署名を集めるのは難しいだろう。不可能に近い。でも、私は絶対に成し遂げてみせる。
「その庶民の言う通りだ。試練を見事クリア出来たのなら交際は認める。もう別れろとは言わない。……黒炎、お前はどうする」
「俺は、親父と二人きりで海外の仕事をやるのは本当は死ぬほど拒否したい。だけど、朱里との交際を認めてもらえるなら俺も受けて立つ。……どうやら俺が思ってる以上に朱里は強いみたいだからな」
黒炎くんは私をジッと見つめる。なんだか、自信を取り戻してくれたみたいで安心した。覚悟が決まったのか紅炎さんと真っ直ぐ向き合っている。私だって黒炎くんに、ただの幼なじみだって言われたり、女として見られてないことに何度も心を折られそうになった。
そのせいなのか、自分で言うのもなんだかおかしな話だが少しは強くなった気がする。
黒炎くんなりに紅炎さんに立ち向かおうとしているのがわかる。そんな姿はさっきの弱ってる黒炎くんとは違い、とても男らしいと思った。
「そうか、わかった。それなら今すぐにでも海外に行く準備をするから来い。今度とは言ったが、ほとんど準備は終わっているんだ」
「わかった。……朱里、本当は俺も署名活動を手伝いたい、俺自身のことだから。だけど手伝えない分、俺も自身に与えられた試練をこなしてみせる。だから、それまで俺の帰りを待っててくれないか?」
「これは私の試練だから黒炎くんは気にしないで。……うん、待ってる。私も頑張るから」
私たちは抱き合った。一ヶ月も会えないのだから、今のうちに会えない期間のぬくもりを一秒でも感じていたい。
意外にも紅炎さんは、それをなにも言わず、ただただ私たちを黙って見ているだけだった。




